いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
ユーザーの方から届いた質問に介決サポーターがお答えします。
今回の質問は、認知症のお義母さまを介護されているお嫁様からのお悩みです。
夕方になると急にそわそわしだして、自宅にいるにも関わらず、「家に帰りたい」と言う義母に対して、どのように説得すればいいかと悩んでいるということです。
【この記事を読んでほしい人】
- 認知症高齢者の帰宅願望・夕暮れ症候群に困っているご家族
- デイサービスや施設から家に帰ろうとする利用者の対応で困っている介護職員
【この記事に書いてあること】
- 夕暮れ症候群のメカニズム
- 夕暮れ症候群・帰宅願望への対応ポイント
- 本人の置かれている状況を想像することの重要性
まずは質問内容をご紹介します。
質問「夕方になると家に帰るという義母をどう落ち着かせたらいいの?」
(質問内容)
要介護2で82歳の義母を介護しています。夫と同居していますが、日中は仕事に出かけており、帰りも遅いので平日は毎日私が面倒を見ています。ここ数か月で物忘れが激しくなって、私がだれか認識できていない時もあります。
最近、夕方になると落ち着かなくなり、「家に帰りたい」と言うようになりました。今住んでいるのはリフォームしてはいますが、夫の両親が建てた紛れもない自宅です。それなのに、家に帰ると言って話を聞きません。先日は目を離した隙に家を飛び出してしまい、近所の方に連絡をいただいて迎えに行くということがありました。大きな事故につながらなかったので良かったのですが、またこのようなことがあったらどうしようと不安です。
どうしたら母にここが自宅であることが分かってもらえるのでしょうか。
自宅にいるはずなのに「家に帰りたい」という認知症のお義母様と暮らしているお嫁様からの質問でした。
では、在宅介護の強い味方「介決サポーター」からのアドバイスをお願いします。
介決サポーターがお答えします!
ご相談ありがとうございます。
夕方になるたびに落ち着かなくなるお義母様の対応で困っていらっしゃるということですね。これは認知症の方によく起きる「夕暮れ症候群」(夕方症候群)という状態です。
結論から言うと、お義母様に「ここが自宅だということをわかってもらう」ことは難しいです。その理由は、いくら自宅だと言って証拠を並べたとしても、本人にとっては明らかに「ここは自宅ではない」、そして「自宅が別の場所にある」からです。
どういうことか、夕暮れ症候群の特徴と対応策について紹介したいと思います。
「夕暮れ症候群」とは
認知症の方が夕方になると急にそわそわして落ち着かなくなる。これを夕暮れ症候群といいます。
これは認知症の方によく起きる状況こととして知られていますが、そのメカニズムについてはまだ明らかになっていない部分も多いです。夕暮れ症候群が起きるのは、以下のような原因があると考えられています。
いずれにしても、合理的な判断ができなくなり、不安が強くなることから、外へ飛び出そうとするなど予測のできない行動をすることがあります。しかも、夕方は介護者にとっても夕食の支度などで忙しい時間帯なので、落ち着いて対処することができません。
夕暮れ症候群は家庭だけでなく、施設やデイサービスの利用者にも同じように起きます。専門職も含め、多くの介護者が頭を悩ませる認知症の方の対応のひとつです。
この夕暮れ症候群にはどのように対処するべきなのか、ポイントを解説します。
夕暮れ症候群の帰宅願望、対応ポイントについて
夕暮れ症候群による帰宅願望に対して、望ましい対応を4つのポイントで紹介します。
説得するよりも納得してもらう
夕暮れ症候群で落ち着かなくなってしまった方に対して、大事なのは無理に説得しないということです。
「自宅に帰りたい」と言っている人に「自宅はここです」と説得しようとしても無駄です。なぜなら、その人の頭の中に思い描いている「自宅」は、今いる「自宅」ではないのです。その人が頭に描いている自宅は、幼少期を過ごした「自宅」なのかもしれませんし、若い時に夫と暮らした懐かしい「自宅」なのか、子供たちを育て上げた思い入れのある「自宅」なのもしれませんし、同じ場所にあったとしてもリフォームする前の「自宅」なのかもしれません。つまり、その人の考える「自宅」は、実際の「自宅」と一致していないのです。
なので、話はいつまでたってもかみ合うことはありません。
結論として、その人の言う「自宅」はその人の頭の中にしかありません。これは認知症の方が正しい場所や時間などを認識できなくなる見当識障害という症状の一種です。
今はここが自宅であることや、本人が言う自宅が今はどこにもないという事実をいくら本人に伝えたとしても無駄です。その人の記憶の中には、その人の「自宅」がつい数時間前の記憶のように残っているので、理解することができません。実際の「自宅」とその人の考える「自宅」のイメージが一致しないのに、ここが自宅だと言われて納得がいくわけがありません。むしろ、騙そうとしているのではないかと、猜疑心・警戒心を強めてしまう結果を招きます。
ではどうするか。事実を伝えて説得することを諦め、本人に納得してもらうことが必要なのです。現実を理解してもらうというよりも、本人が納得できるストーリーを提供し、それに乗っけてあげることが必要なのです。
認知症の方の世界観に立つ
夕暮れ症候群で落ち着きを失った認知症の方に、どのように納得してもらうか、具体例を紹介します。
以上のように、義母が自宅以外の場所にいてもいいのだということを自然なストーリーとし、自身も、同居の嫁という立ち位置には立たずに自然に接しています。義母が嫁のことを嫁と認識していないのに、嫁というポジションから接しようとすれば、さらに混乱を与えることになります。
また、本人に役割を与えることや、得意なこと・好きなことに注意を向けることができると落ち着くことができます。この例では、義母が得意な料理に誘うことで注意を料理に向けることに成功しています。
認知症の方に見えている世界は、現実の世界と異なる世界なので、そのギャップが混乱を招き、苦しめているのです。認知症の方の世界に生きる登場人物として自然に溶け込むことで、世界観に寄り添うことができます。
認知症の方がどのような世界に立っているのか。それは幼少の頃なのかもしれないし、現役バリバリで仕事をしていた時なのかもしれません。その人の生きている世界がどのようなものかを理解することも大切です。本人との会話の中にそのヒントがあります。記憶に色濃く残っている場所の名前・人の名前・物の名前などキーワードを交えていくことで、より安心を提供することができます。
ただ、本人が不審がってしまうような明らかな嘘をつくことはお勧めしません。違和感を覚えてさらに混乱をしてしまう可能性があります。
認知症のその方が生きる世界観を理解し、寄り添うことで夕暮れ症候群の不安を和らげてあげることができます。
否定をしない
認知症の方とのかかわり方で大事なのは否定をしないことです。これは夕暮れ症候群だけに限らず、原則として否定をしないことが重要です。
否定されることで自尊心を傷つけられることにより、不安・混乱・怒りなどのマイナスな感情を生む結果になります。
「家で母が待っているから」と言われたときに、「もう10年以上も前に亡くなりましたよ、何を言っているんですか!」と答えたら、受け取る側はどう感じるでしょうか。生きているはずの母が突然死んだと聞かされた時のショックは計り知れないものです。
認知症の方に対して、話を頭から否定すると、パニック状態に陥ってしまう可能性があります。事実と異なっているからと言って頭から否定することを避け、自尊心を守ることを意識しましょう。
落ち着いて対応する
忙しい時間でも、イライラしてはいけません。
夕方は特に、夕飯の支度などもあって、家族にとっても慌ただしい時間帯です。そんな状況で外へ飛び出そうとする・検討を失って混乱するなど落ち着きを失うのが認知症の方の夕暮れ症候群です。介護する人も人間なので、常に落ち着いて対処するということは難しいかもしれません。ただ、他の家族や親族、地域の方などの協力を得ることで余裕を持って対応できる場面を増やすことは可能です。
夕方の時間帯に姉に来てもらい料理や介護をやってもらう。
夕飯の準備ができそうにないので、今日は夫に夕飯をかってきてもらう。
このように、誰かの協力を得ることができれば介護はずっと楽になり、心に余裕を持つことができます。
「ここがあなたの家です」という現実を押し付けるのではなく、「あなたはここにいていいんですよ」「私がいるから安心してください」というメッセージを伝えていくことが必要です。
認知症については別の記事でまとめていますのでそちらもご参照ください。
認知症の本人の状況を想像することが対応のヒント
想像することは難しいかもしれませんが、認知症の本人の立場に立って考えることが解決のヒントになります。
まず、私たちの見えている世界はこうです。
義母が突然立ち上がってどこかへ行こうとする。
→ 一人で出歩くと危ないからと呼び止めると、「ここは自宅じゃない」と言う。
→ 何度繰り返し自宅だと説明しても理解してもらえない。
→ 無理やり出かけようとして、制止すると殴りかかってきた。
なぜなのか、意味がわからないかもしれません。
でも、認知症本人の視点に立ってみると、まったく見え方が異なります。
あなたは今、自宅ではない知らない場所にいます。
→ 自宅に帰ろうと思って席を立つと、知らない人から「どこへ行くの?」と呼び止められます。
→ 自宅に帰ると言うと、「自宅はここだ」と嘘をつく。自分をだまそうとする人がいます。
→ 身に危険を感じ、その場を離れようとすると、力づくで拘束しようとする。
→ このままでは悪い人に拉致・監禁される!自分を守るのは自分しかいない。暴力で抵抗するしかない!
「夕暮れ症候群」がどういうものか、なんとなくわかりましたか。
自分のいる場所がわからない・自分に話しかけている人が誰かわからない、という前提の違いがあるだけで、これだけ世界が異なるのです。
そう考えると、本人が恐怖を感じる理由、わかりますよね。
なので、まずは本人の世界観を理解し、この場所にいていただけるようなストーリーを用意することに努めましょう。
最近は、「徘徊」という言葉は本人の尊厳を傷つけるとして、「ひとり歩き」などの言葉に言い換えるケースも増えています。いずれにしても認知症に係る行方不明者の数は年々最高を更新しており、地域で取り組まなければいけない大きな課題です。
まとめ
認知症の方が夕方になると落ち着かなくなる、という「夕暮れ症候群」に困っている介護者もたくさんいます。
夕暮れ症候群への代表的な対応方法を紹介しましたが、認知症と一言で言っても原因疾患も異なれば症状の現れ方も違います。
認知症にもいくつかのタイプがあるため、攻撃性が強く出る人、無気力感の強い人、反社会的な行動特性が出やすい人など、疾患の種類や障害部位によっても大きく異なります。さらに、人の個性・パーソナリティによる要因も大いに影響するため、認知症の方の行動というのは人それぞれ特徴が異なります。この対応をすればどんな認知症の方でも必ず落ち着く、という方法はありません。
自分の思うとおりに行かないのが認知症の方のケア。焦ることなく、心に余裕を持ちながら落ち着いて対応するようにしましょう。
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
(運営会社:株式会社ユニバーサルスペース)
義母「もう家に帰らなきゃ。長い時間お邪魔してすいませんでした。」
嫁「あら、これからお帰りになるんですか?」
義母「夫も待っているので」
嫁「そうですか。残念ですが、お開きとしましょうか。楽しかったです。おや?でも。もうバスの出発時間にもう間に合わない時間ですね」
義母「そうなの?」
嫁「もう遅い時間ですし、外も暗く、冷えてきましたね。今日はこちらで休んでいかれてはいかがですか?」
義母「そう・・・お言葉に甘えていいのかしら」
嫁「ご主人にはこちらからお伝えしておきますよ。せっかくなので、夕飯を手伝っていただけるかしら。煮物の味付けを教えてもらえますか」
義母「そのくらいでよければ、お役に立つかしら・・・」