高齢者の4人に1人が認知症?認知症関連疾患の特徴と認知症の方との接し方

四人に一人が認知症 介護のことはじめ

今や「高齢者の4人に1人が認知症」と言われています。「新たな国民病」とも言われる認知症。聞いたことはあるけれどよく知らない、認知症の人とどう接したらいいのかわからない、などの声も聞きます。

介護をする人が直面する認知症についての不安や疑問にお答えしていきます。

高齢者の4人に1人が認知症になる?

2012年のデータをもとに厚生労働省が発表した資料によると、認知症患者数は462万人。軽度認知症の方を合わせると65歳以上の4人に1人が認知症もしくはその予備軍に該当するといわれています。さらに、認知症の高齢者はさらに増えていくと予想されています。

65歳の4人に1人が認知症

増加する認知症

認知症患者推定数の推移
これは65歳以上の認知症推定者数の推移予測ですが、年々上昇することが予想されており、2025年には730万人、2060年には1,154万人が認知症になると推定しています。4人に1人が認知症どころか、3人に1人が認知症という時代もありえるというデータになります。

単純に高齢化が進むことで、平均寿命も長くなります。90歳以上の高齢者は認知症の有病率は特に高く、前期高齢者が減り後期高齢者が増えることで、認知症の高齢者の割合が高くなっていくことがわかります。

介護が必要になった理由
このデータは65歳以上の要介護者が、介護が必要になった原因をまとめたものです。最も割合が大きいのは18.7%で認知症となっています。特に女性は20.5%が認知症を原因に介護が必要になっているということがわかります。

介護が必要になる最大の要因でもある認知症。社会全体に与えるインパクトが非常に大きいこともわかります。今や認知症を抜きに介護を語ることはできません。

認知症発見のポイントは?

認知症の発症パターンは人それぞれです。アルツハイマー型認知症で徐々に進行していくパターンもあれば、脳に外傷・ダメージを受けることで認知症となるパターンもあります。

認知症高齢者

実際に、同居する親が認知症になっていてもなかなか気づかないというケースもあります。認知症になっていても、慣れた家事などは体に染みついているので普通にできる方も多いですし、異変にも気が付かないということも少なくありません。離れて暮らしていればなおさら発見が遅れてしまいます。

あくまで一例ですが、このような様子が見られたら注意してみるようにしましょう。

  • 何度も同じことを言う
  • しまい忘れや置き忘れが多くなる
  • 話のつじつまが合わない
  • 約束の日時や場所を忘れる
  • 些細なことで怒りっぽくなる
  • 失敗を人のせいにする
  • 身だしなみに気を使わなくなる
  • 何をするにもおっくうになる

食欲の低下も認知症のひとつのサインになることもあります。

ひょっとしたら、と思ったら早めに信頼できる人や医療機関に相談しましょう。

認知症を正しく理解する

認知症を必要以上に怖がる必要はありません。正しく認知症を理解することが必要です。

認知症は病気ではない

まず、「認知症」という病気はありません。認知症というのは脳に何らかの機能障害が起きることで、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

脳が機能不全を起こす原因となる病気・障害は様々あります。脳の血流が阻害されているのか、脳に外傷があって機能不全を起こしているのか、原因疾患によって同じ認知症でも対応方法は異なります。

認知症はみな同じ病気ではないため、ひとくくりにすることができません。

加齢による物忘れと認知症は違う?

一般的に言われる物忘れと認知症はどう違うのでしょうか。

年齢を重ねると、物覚えが悪くなり、テレビを見ていても知っているはずの芸能人の名前がぱっと出てこないときがあります。これは認知症ではなく、加齢による物忘れです。なぜなら、その人はテレビに出ている芸能人のことを知っているけれど、名前だけが出てこないからです。認知症の方は体験したそのものをすべて忘れてしまうので、その芸能人の名前だけでなく、その芸能人の出た番組や話題もそっくり忘れてしまうのです。

別の場面でも例を挙げます。一緒にランチをする約束をしたとします。当日になって、約束をした友人から「今日約束の日だけど」と言われて、約束を忘れていたことに気が付いて慌てて準備する。これは加齢による物忘れです。この人は約束した日が今日であることをすっかり忘れていただけで、約束したこと自体は覚えているからです。認知症の方の場合は、約束したこと自体を忘れてしまうのです。そのため、自分が身に覚えのない失敗を指摘されているように感じ「そんな約束なんかしていない」と怒ってしまいます。

このように、認知症による物忘れと加齢による物忘れでは大きな違いがあります。もちろん、加齢による物忘れも増えると心配ですが、メモを取るなど、気付くためのヒントを用意しておくことで失敗を防ぐことができます。ただ、認知症の場合は本人の努力で解決できない問題が多いため、周囲のサポートが必要になります。

次の章では、疾患別に認知症のタイプを分けて、代表的なものを紹介していきたいと思います。

代表的な認知症のタイプ

認知症の診断を行う医師

アルツハイマー型認知症

認知症疾患の中で最も患者数が多いと言われているのがアルツハイマー病です。

脳内に異常なたんぱく質が蓄積され、神経細胞が死滅していくことで、脳の中の海馬と呼ばれる部分を中心に委縮が進みます。記憶障害が主な症状で運動機能の障害はありません。時間の経過とともにゆるやかに症状が進行していくことも特徴です。

中核症状である記憶障害が進むと、周辺症状として徘徊、妄想、興奮や暴力などの症状が出ることがあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血などによる脳へのダメージが原因となって発症します。

障害を受けた部位や、疾患の状態にもより症状の出方は異なりますが、一般的には急速に認知症が進行します。判断や記憶が部分的に保たれる場合も多く「まだら認知症」になることも多いです。

また、麻痺や運動機能障害、言語障害を伴うこともあります。

レビー小体型型認知症

脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれるたんぱく質の塊が出現し、認知症を発症します。

調子がいい時と悪い時を繰り返しながら徐々に症状が進行していきます。パーキンソン症状と呼ばれる運動機能障害があり、歩くときに歩幅が小刻みになり、バランスを崩しやすくなります。筋肉のこわばり・震えや、表情が乏しくなるなどの変化が出ます。運動機能障害を先に発症するパターンもあります。食べ物を飲み込む力が弱くなり、誤嚥しやすくなるのも特徴です。

また、実際にはないものが見える「幻視」が出現します。蛇が這っているように見えることや、女の子が座っている、などくっきりとリアリティのある見え方で幻視が起こります。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は主に前頭葉、側頭葉前方に委縮が進むことで出現します。前頭側頭型認知症と分類される中で8割を占めるのがピック病です。ピック病は脳の神経細胞に「pick球」と呼ばれるたんぱく質の塊が生まれることで発症します。

前頭側頭型認知症では記憶障害とともに人格障害が起こり、急に怒りっぽくなったり、情緒が不安定になったりします。自制がきかなくなり、ルールを守ることができなくなるため、万引きを繰り返すことや、交通ルールを無視するなど、反社会的な行動を起こすことが大きな特徴です。

水頭症

水頭症は頭に髄液が溜まり、脳を圧迫することで症状を発症します。認知症だけでなく、歩行障害や失禁などの症状も現れます。

物忘れが多くなるだけでなく、興味や自主性がなくなるのも特徴です。

ただし、脳を圧迫している髄液を処理することができれば症状を大幅に改善することができ、「治る認知症」とも言われています。

その他の認知症

それ以外にも様々な認知症疾患があります。また、複数の認知症関連疾患をミックスしている場合もあります。

脱水や栄養失調などにより、認知症と同様の記憶障害や幻覚などを起こすこともあります。まずは原因が何か、専門的な医療機関の診察を受けることが大事です。

認知症との向き合い方

今や認知症は避けることのできないキーワードです。

認知症になる事を予防する、認知症になっても進行を少しでも遅らせる、認知症になってもその人らしく生きる。認知症との向き合い方についてお伝えしていきます。

認知症を予防するためには

認知症を予防するための運動
認知症にはなりたくない。でも、「これをすれば絶対に認知症にならない」という方法はありません。それでも、日々の生活を見直すことで認知症になる可能性を少しでも減らすことはできます。認知症になりにくくなるためのヒントとしてお伝えしたいのはこの4点です。

  • 規則正しい生活習慣
  • 適度な運動
  • 日頃から地域への社会参加を
  • 生きがいを持つ

規則正しい生活習慣

まずは規則正しい生活習慣です。糖尿病や高血圧、高コレステロール血症などの疾患がある方は、アルツハイマー病認知症や脳血管性認知症になるリスクが高いと言われています。これらの疾患は、食事や喫煙など、生活習慣が原因となる事も多く、生活習慣病とされています。バランスの取れた食事や、規則正しい生活習慣を送ることは認知症の発症を予防するための重要なポイントとなります。

適度な運動

適度な運動も認知症予防に効果があります。運動することで脳が刺激を受け活性化します。もちろん生活習慣病予防にも効果があるので、ジョギングやウォーキングなど、適度な有酸素運動を行うことは効果的です。

日頃から地域への社会参加を

他人と交流することも認知症予防に効果的です。人と会って話すことで脳は刺激を受けて活性化します。家族との交流だけではなく、友人や地域の仲間と積極的に交流する機会を持ちましょう。

生きがいを持つ

過去の調査では、生きがいがない人は生きがいがある人に比べて、アルツハイマー型認知症になるリスクが2.4倍も高くなると示されています。高齢者になってからも生きがいを持ち続けるということが大切です。

趣味を持ち続ける、新しいことに挑戦する、社会のために貢献するなど、自分の生きがいを見つけることが認知症予防に大きく役立ちます。

認知症予防に効果があると言われるポイントを4つ紹介しました。

最後に、家族が認知症になってしまったとき、どのように関わればいいのかを紹介します。

認知症の方のためにできること

認知症の方と寄り添うこと

早めの受診、治る認知症もある

まずは早めの受診が必要です。あれ?と思ったら早めに医療機関で相談しましょう。いきなり認知症の専門病院や精神科病院を受診しようとすると本人にも抵抗感があるため、最初は専門病院に行く必要はありません。普段からかかりつけているクリニックなどで、最近起きている症状などを相談することをおすすめします。専門委ではなくても、必要に応じて簡易的な検査をすることもできますし、状況によっては専門機関を紹介してくれます。

初期段階であれば、内服などによって認知症の症状が進むのを大幅に遅らせることができます。また、先に紹介した水頭症などの手術で治る認知症もあります。気になる症状があればまずはかかりつけ医に相談することをおすすめします。

介護保険サービスを活用

介護保険サービスを利用することで認知症の進行を遅らせることができます。特に効果が大きいのはデイサービスです。人と交流することができ、朝起きて出かけることで生活のリズムを整えることができます。脳に刺激を与えることができ、認知症の進行を遅らせる効果があります。

また、訪問介護などの訪問系サービスを利用することで介護者が感じる在宅介護の不安は大幅に軽減されるというデータもあります。訪問系サービスの利用は、介護というサービスを提供するだけでなく、不安感や孤立感の解消や、介護技術のアドバイスによる負担軽減という意味でも大いに役立ちます。
詳細は下記の記事を参照してください。

自分らしくいられる居場所を、認知症カフェ

自宅以外に、地域の中に自分の居場所を見つけることも必要です。デイサービスだけではなく、最近は地域に認知症カフェが増えています。認知症の方やその家族が集まり、交流しながら時間を過ごすことができます。認知症になっても自分らしくいられる居場所が地域にあることは本人にとっても、家族にとっても大きな励みとなります。

認知症家族の集まりに参加する

市町村で認知症家族の集まりを開催しているところも多いです。同じように認知症高齢者を介護している家族が集まり、日頃の困りごとを相談したり、愚痴を言ったり、先輩介護者や専門家からのアドバイスを受けることもできます。

認知症介護を行う家族同士だから話せることも多く、抱えているストレスを軽減することができます。

地域の協力を得る

認知症の介護は1人ではできません。地域の方の協力を得ましょう。

  • 徘徊するかもしれないので、近所の方に声をかけておく。
  • 普段行く商店などに事情を説明して対応してもらえるようにする。
  • 民生委員や老人会に声を掛け・見守りをしてもらう。

認知症の方を介護することは体力的な面だけでなく、精神的にも負担が大きいです。どんなに一生懸命介護をしていても感謝されることはなく、かえって目の敵にされることもあります。精神的に追い詰められて家庭内虐待に及ぶケースも後を絶ちません。

1人で抱え込まずに、地域の協力を得ることが必要です。特に徘徊(ひとり歩き)などがある場合は、地域の協力が欠かせません。

また、認知症は一定の状態を維持するとは限らず、急激に症状が進行することもあります。早期に上体の変化に気がつけるようにしておくことが重要です。

まとめ

認知症は大きな社会問題です。

「昔はあんなに優しかった母なのに、人が変わったようになった」「昔の頼れる父の姿はどこにもなくなった」と、認知症になって変わってしまう親の姿を見ることはとてもショッキングなことです。

ただ、認知症を正しく知り、理解することで、病気がそうさせているということがわかります。病気に対してどう対処すればいいか、病気に苦しく親にどう寄り添うべきなのか。

まずは認知症を知ることが解決の第一歩となります。

また、アルツハイマー病の治療薬レカネマブが実用化される見通しとなり、治療の選択肢も広がります。もちろん、完治する薬ではなく、症状を遅らせる効果がある薬ですので、過度な期待はできませんがアルツハイマー病治療が大きく進む一歩になる可能性もあります。

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