年々、夏が“命に関わる暑さ”へと変わっています。
特に、遠くに暮らす親や独居の高齢家族がいる方にとっては、
「エアコンは使っているのか?」「ちゃんと水分をとっているのか?」
と、心配が尽きない季節です。
事実として、熱中症で倒れる人の数は年々増加しており、
2024年には過去最多の搬送件数が記録されました。
高齢者は、暑さやのどの渇きに気づきにくく、
しかもその多くが、自宅でひとり、誰にも気づかれないまま倒れています。
この記事では、最新の公的データをもとに、
高齢者がなぜ熱中症に陥りやすいのか、
そして遠距離介護中の家族にもできる、具体的な予防策をご紹介します。
【この記事を読んでほしい人】
- 離れた場所で高齢の家族が暮らしている方
- ご高齢者と一緒に暮らしている方
- 熱中症リスクに不安を感じるケアマネジャー
【この記事でお伝えしていること】
- 増加する熱中症リスクと統計から見える傾向
- 熱中症予防のために活用できるテクノロジー
- 今すぐできる予防のヒント

いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
なぜ今、高齢者の熱中症が危険なのか?
観測史上最も暑かった2024年、日本の夏は“命のリスク”に変わった

2024年、日本の平均気温は観測開始以来、最も高い年となりました。
7月の平均気温偏差は+2.16℃と、これまでの記録を大きく上回る数値です。
原因は、地球温暖化に加え、エルニーニョ現象が重なったこと。
「たまたまの暑さ」ではなく、今後も続くことが予想される新しい気候の現実です。
その影響をもっとも強く受けているのが、体力や感覚機能が低下しがちな高齢者なのです。
過去最多:熱中症で救急搬送された人は97,578人
総務省消防庁によると、2024年5月から9月にかけて熱中症で救急搬送された人数は97,578人。
これは統計が始まった2008年以降で最多の数字です。

前年と比べても6,000人以上の増加(+6.7%)で、年々悪化の一途をたどっています。
注目すべきは、その内訳と重症度です。
高齢者が57.4%、搬送された人の半数以上を占める

搬送された人のうち、65歳以上の高齢者は57.4%。
前年度から2.5ポイント上昇し、過去最高レベルに達しました。
つまり、2人に1人以上が高齢者。
高齢者のリスクは、数字としても明確に増しています。
加齢により「暑さを感じにくい」「のどの渇きに気づかない」といった変化が起き、
体温調節機能が低下するため、自覚のないまま重症化しやすいのです。
また、節電意識や冷房への抵抗感など、
高齢者特有の生活スタイルも熱中症の要因になります。
死亡者数1,650人。そのうち83.3%が高齢者――見逃せない「重さ」
厚生労働省の発表によると、熱中症による死亡者数は年間1,650人(2023年)。
そのうち、83.3%にあたる1,375人が高齢者です。

※環境再生保全機構「令和5年の熱中症による死亡数について(厚生労働省)」
つまり、熱中症は単なる「軽い脱水」ではありません。
命を奪い、生活の質を一変させる、重大な健康リスクです。
そのような重大なリスクにさらされていることを忘れてはいけません。
「家にいるから大丈夫」が、もっとも危ない
2024年、東京都内で熱中症によって亡くなった人のうち、
98%が自宅など室内で発見されています。
「室内だから安心」は、もはや通用しません。
冷房を使わない、風通しだけに頼る、長時間誰とも話さない。
そんな日常が、命の危機へとつながってしまうのです。
ここまでの統計情報が示しているのは、
高齢者の熱中症は「静かに、気づかれずに進行する危機」であるということ。
こうしたリスクを防ぐために必要なのは、離れていてもできる見守り・対策の工夫です。
「なぜ室内で熱中症が起きやすいのか?」という視点から、その“盲点”と予防のヒントを深掘りしていきます。
高齢者の熱中症は「室内」で起きる
暑いのは外だけじゃない。室内が「見えない危険地帯」に

熱中症というと、炎天下の屋外で起きるものというイメージを持っていませんか?
確かに、真夏の運動や外出先での発症は目立ちます。
ですが、統計が示しているのは、高齢者の熱中症は「家の中」でこそ多く起きているという事実です。
2024年、東京都内で熱中症により亡くなった人のうち、実に98%が自宅などの屋内で倒れていたことが分かっています。
エアコンを使わずに閉め切った部屋、風は通っていても熱がこもった寝室、蒸し暑い脱衣所や浴室――
本人は「涼しいつもり」でも、体は確実に熱をため込んでいます。
なぜ室内で?3つの理由
1. エアコンを使わない、または使えない
高齢者の中には、エアコンに対して抵抗感を持つ人が少なくありません。
「電気代がもったいない」「昔は扇風機だけで十分だった」
そんな感覚から、真夏でも冷房を使わずに過ごしてしまうケースが後を絶ちません。
実際には、気温が28℃を超えたあたりから、室内でも急激に熱中症のリスクが高まります。
それでも「なんとなく我慢してしまう」ことが、命を縮める要因になってしまうのです。
2. 自覚しにくい暑さ、気づきにくい脱水
加齢によって、体温調節機能が衰えるといわれています。
暑さを感じるセンサーが鈍くなり、「暑い」と気づかないまま室温が上昇。
のどの渇きにも気づきにくく、知らず知らずのうちに脱水状態になっていきます。
とくに夜間や早朝、睡眠中などは、体から水分が奪われていくのに補給できない時間帯です。
日中に比べて警戒心も薄れやすく、注意が必要です。
3. 見守りがない「独居環境」が危険を放置する
独居や遠距離介護の家庭では、異変に気づける人がそばにいないという大きなリスクがあります。
少し体調が悪くても誰にも相談できず、「横になって休もう」で済ませてしまいがち。
しかし高齢者の場合、それが取り返しのつかない事態に直結するのです。
初期の軽い熱中症なら回復できますが、判断の遅れが命取りになることも珍しくありません。
高齢者は、体の水分がもともと少ない

人間の体の約60%は水分でできていますが、高齢者はこれが50%前後まで減少するといわれています。
つまり、同じ量の汗をかいても、水分の“備蓄”が少ないため、脱水状態に陥りやすいのです。
加えて、腎機能の低下により体内の水分バランスを保つ力も弱まり、
少しの脱水でも体調に大きな影響を及ぼします。
暑さを感じにくく、水もあまり飲まない、体の中の水も少ない――
この「三重苦」が、高齢者を熱中症のリスクにさらしているのです。
熱中症は「静かに」「誰にも気づかれず」に進行する
怖いのは、高齢者の熱中症は突然倒れるタイプばかりではないという点です。
なんとなく元気がない、ふらつく、頭が痛い、食欲がない——
そんな「よくある不調」のように見えて、実は体は限界寸前ということもあります。
だからこそ、見た目に頼らない対策が欠かせません。
温湿度計を置く、エアコンを自動で稼働させる設定にする、
決まった時間に電話で「水飲んだ?」と声をかける。
そうした日常のひと工夫が、
大切な人の命を守る“境界線”になるのです。
次回のセクションでは、こうした背景を踏まえた上で、
遠距離でもできる、具体的な熱中症予防の工夫や見守り方法をご紹介していきます。
遠距離介護でもできる、熱中症予防の工夫
「そばにいないから無理」とあきらめる前に、できることがある
親がひとりで過ごす夏の昼間。
暑い部屋の中で、テレビをつけたまま、じっと座っていたり、
うたた寝をしながら、気づかないうちに汗をかいていたり——
それが、命に関わるリスクになることを、私たちは知っておくべきです。
でも、「遠くにいるから何もできない」と思う必要はありません。
離れていてもできる熱中症対策は、確かに存在します。
大切なのは、ちょっとした工夫と、日々の“気づき”を仕込むことなのです。
1. 室温と湿度、「見える化」で意識が変わる
高齢者自身は「暑さ」を感じにくくても、数字で見えると行動が変わることがあります。
- 室内に温湿度計を設置する(デジタルで大きな表示のものがおすすめ)
- 「28℃を超えたらエアコンを」といった目安の数値を貼っておく
また、最近ではスマート温湿度センサーも充実しており、
スマホアプリで遠方から室温を確認できる機器も登場しています。

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ソニーのスマートホーム MANOMAを例として紹介します。
カメラ・センサー・リモコン・ロックなどの機器を遠隔できるスマートホーム。スマート家電とも連携でき、室内の温度・湿度を計測。スマートフォンを使って遠隔でエアコン操作ができ、熱中症ができます。
「今日は暑いみたいだから、そろそろエアコンつけた?」
そんな声かけの根拠にもなり、対話のきっかけにもなります。
2. エアコン問題を解決する「一言」と「自動設定」
高齢の親がエアコンをつけない理由は、
「電気代がもったいない」「体がだるくなる」「なんとなく苦手」など様々です。
だからこそ、ただ「使ってね」ではなく、納得できる理由を添えて伝えることが大切です。
- 「○○さん(主治医・ケアマネ)も、室温28℃以上は危ないって言ってたよ」
- 「電気代より入院代の方が高くつくよ、って最近よく言われてるよ」
さらに、タイマーや自動ON設定を活用して、本人が操作しなくても動く仕組みにするのも効果的。
温度センサー付きのスマート家電なら、「28℃で自動起動」などの設定も可能です。

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エアコンは夏が来る前に必ず試運転を。
夏場にはエアコン修理の依頼が業者に殺到するため、すぐに対応してもらうことはできません。また、エアコンクリーニングをしておくと冷房効率もよくなり、故障の原因も取り除くことができます。
3. 「水を飲ませる」のではなく、「飲むきっかけを作る」
高齢者はのどの渇きを感じにくく、意識的に飲まない限り水分が不足しがちです。
遠距離でもできる工夫は、飲むタイミングの“習慣化”です。
- 毎朝の電話やLINEで「水、飲んだ?」と聞く
- 食前・薬のタイミングに水を一緒に飲むよう習慣化する
- コップではなくペットボトルで水を常備し、減り具合をチェックする
声かけが難しい場合は、リマインダーアプリや見守りロボットの導入も選択肢になります。
4. “孤立”が一番のリスク。小さな接点を日常に
誰にも話しかけられず、誰にも気づかれず、体調が悪くても「様子を見る」。
これが、高齢者が室内で重症化する最大の要因です。
だからこそ、声かけの頻度を「情報収集」ではなく「関係維持」として捉えることが大事です。
- 決まった時間に「天気どう?」「今日は暑いね」だけでも連絡
- ビデオ通話で表情や話し方から異変に気づく
- LINEの既読確認を“無言の見守り”として使う
また、近所の方に「暑い日は声をかけてもらえるよう」お願いするなど、
地域の中に“見えない支援網”を作る工夫もおすすめです。
5. 遠距離介護でこそ使いたい、テクノロジーとサービス
熱中症対策は、見守りサービスや在宅センサーの力を借りることで、
離れていても、かなりの安心感を得ることができます。
- 人感センサー:動きがなければ通知が来る
- 室温アラート付きの見守り機器:室温上昇時にスマホ通知
- 配食サービス:食事の受け取り確認=安否確認になる
これらを“頼る”ことを負担と感じない空気づくりも、介護する家族の役目です。
「これがあると私が安心できるから、使わせてね」
そう伝えるだけで、受け入れやすくなる高齢者も少なくありません。
遠距離でも、ひとつひとつの工夫が確実に命を守ります。
そしてそれは、親のためだけでなく、自分自身の不安を減らすことにもつながります。
次のセクションでは、熱中症のサインと、いざというときの対応・相談先を詳しく解説します。
「もしもの時」に備えることも、家族ができる大切な行動です。
これって熱中症?いざというときのサインと対応
「ちょっと元気がない」それが危険信号かもしれない
熱中症は、突然バタッと倒れる病気ではありません。
多くの場合、小さな違和感や軽い不調から始まります。
- なんとなく元気がない
- 顔が赤い、汗をかいていない
- 声に張りがなく、反応が鈍い
- 食欲がない、横になってばかりいる
これらはすべて、高齢者の熱中症初期症状の可能性があります。
電話やLINEの通話で話したとき、「いつもと違う」と感じたら、
**それはもう“対処すべきサイン”**かもしれません。
見逃してはいけない熱中症の症状一覧
症状は段階的に進行します。以下は特に注意すべきサインです:
● 軽度(初期)

- めまい、立ちくらみ
- 顔のほてり
- 筋肉のこむら返り(足がつる)
- だるさ、集中力の低下
→ 涼しい場所に移動して水分・塩分補給を。対応が早ければ回復可能です。
● 中等度

- 頭痛、吐き気
- 体が熱くて汗が出ない
- 意識がぼんやりする
- 会話がかみ合わない
→ 水分補給が難しければ病院受診を検討。早めの判断が重要です。
● 重度

- 意識障害(返事が遅い、意味不明な受け答え)
- けいれん、まったく動かない
- 呼びかけに反応しない
→ すぐに119番通報し、救急搬送が必要です。命に関わります。
自宅でできる応急処置(軽〜中等度の場合)
状況に応じて、以下の応急処置を行いましょう:
- 涼しい場所へ移動(クーラーの効いた室内、日陰など)
- 衣服をゆるめ、風を送る(うちわ、扇風機)
- 体を冷やす(首、わきの下、足の付け根を保冷剤や濡れタオルで冷却)
- 水分と塩分を補給(経口補水液、スポーツドリンクなど)
※水分が飲めない、吐き気がある、会話ができない場合は、即救急要請が必要です。
救急を呼ぶか迷ったときは、「#7119」または地域の相談窓口へ

「すぐに救急車を呼ぶべき?」「病院に行ったほうがいい?」
迷ったときは、#7119(救急相談センター)が役立ちます。
医師や看護師が、症状に応じた対応をアドバイスしてくれる窓口です。
地域によっては番号が異なるため、あらかじめ調べて連絡先を控えておくことをおすすめします。
また、かかりつけ医や訪問看護、地域包括支援センターなど、
介護に関わる相談窓口の連携体制を整えておくことも、遠距離介護では非常に重要です。
「もしもの時」に備える5つの準備チェック
熱中症は、早く気づけば防げる病気です。
そして、早く動けば命を守れる病気でもあります。
次のセクションでは、最後に改めて、
遠距離介護でも安心して夏を乗り切るための「家族としてできること」を整理してお伝えします。
まとめ|遠くにいても、できることはある
高齢者の熱中症は、
「室内で」「気づかれずに」「静かに進行する」ことが多く、
だからこそ早めの備えと日常的な工夫が大切です。
年々暑くなる夏。
2024年には約10万人が熱中症で救急搬送され、
その半数以上が高齢者でした。
けれど、遠くにいてもできることは、意外とたくさんあります。
- 室温と湿度を“見える化”する
- 毎日の声かけを“習慣化”する
- 見守り家電やサービスを“仕組み化”する
たった一言のLINE、
たった一つのセンサー、
それが命を守るきっかけになることもあります。
「離れているからこそ、できることがある」
そんな視点で、この夏を、少しだけ安心に変えていきましょう。

この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
(運営会社:株式会社ユニバーサルスペース)

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