「徘徊」と言わない理由。認知症高齢者の徘徊は「ひとり歩き」と言い換えるべきか?

徘徊って言っちゃダメなの?認知症高齢者の行方不明問題 介護コラム
いえケア(在宅介護の総合プラットフォーム)

いえケア 編集部

在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。

徘徊」は、認知症の方による行動として、よく知られています。特に介護業界では頻繁に使われている言葉ですが、「徘徊」という言葉を使うのはふさわしくないのではないかという意見を耳にすることも増えました。既にいくつかの自治体では「徘徊」という用語の使用を取りやめ、別の言葉に言い換えています

今回は「徘徊」という言葉を使うことの是非や、「徘徊」という言葉の言い換えとして使われる言葉を紹介し、この問題を解説していきます。

【この記事を読んでほしい人】

  • 認知症高齢者の介護をしているご家族様
  • 徘徊という言葉を使うべきか、悩んでいる方
  • 徘徊の代替表現として適切な言葉を探している方

【この記事で伝えていること】

  • 徘徊という言葉の意味
  • 徘徊という言葉を別の言葉に置き換える自治体
  • 名称を変更することによる影響

徘徊とは

徘徊は認知症による周辺症状のひとつ

徘徊は認知症高齢者によく起きる行動のひとつです。いわゆるBPSD(周辺症状)と言われるもののひとつで、認知症による記憶障害そのものではなく、記憶障害が原因となって引き起こされる行動です。認知症高齢者が突然家や施設から出て行ったり、どこかへ一人で行こうとすることを意味します。
※BPSDのことをかつては「問題行動」と呼んでいました。

これには認知症による見当識障害が大きく影響しています。

時間や場所の感覚が曖昧になり、自分がいる場所を自宅だと認識できない。自宅に帰ろうとして家を飛び出すなどの行動が「徘徊」として周囲の目に映ります。また、自分自身が置かれている状況に、何らかの恐怖や不安を感じて、安全な場所を求めてその場を飛び出すようなこともあります。

特に徘徊が頻発するのは夕方です。その理由には諸説あり、日が暮れていくことによる視界の変化からの不安や、覚醒状態が低下することで起きるなどとも言われていますが、はっきりした原因は明確になっていません。このような現象は、夕暮れ症候群と呼ばれています。夕方に頻発する徘徊の問題と対策については、こちらの記事にまとめています。

様々な理由やパターンがありますが、徘徊という行動はこのような経緯で起こります。

在宅介護を行う家族としては、突然家からいなくなり、自分では帰ってこれなくなるので、目を離すことができません。身体的な介護負担というよりも、精神的な負担感が大きく、大きな課題となっています。

認知症高齢者の行方不明者数はおよそ2万人

先日、警察庁生活安全局が「令和5年における行方不明者の状況」を発表しました。驚くべきは認知症に係る行方不明者の状況についてのデータです。

年々右肩上がりに件数が増え、昨年は過去最高の1万9,039人が行方不明者として計測されています。2万人に届こうとしています。このうち、500人は遺体で見つかるなど、非常に深刻な問題です。

認知症に係る行方不明者の推移

一人暮らしや高齢者のみの世帯も増えていることや、子供世代も共働き家庭も多いことなど、昔と違って、家族の中で見守りをするのは困難です。認知症の高齢者が徘徊・外出してしまうリスクはますます大きくなっています。地域社会全体で見守らない限り、認知症高齢者の徘徊の問題は解決できないでしょう。

徘徊という言葉の意味と印象

徘徊という言葉の意味

徘徊という言葉、そもそも本来の意味はどういったものなのでしょうか。

大辞林によると、以下のような意味になります。

あてもなく、うろうろと歩きまわること

ちなみに、「徘徊る」と書くと、「たもとおる」と読みます。意味はほぼ同じく、「あちこちと歩きまわる。うろつく」というものになります。

徘徊は「あてもなく」「うろうろ歩き回る」に当てはまるのか。実はそうではないと言われています。

道に迷った高齢者

認知症の本人目線では、「自宅に帰らなくちゃいけない」「仕事に行かなきゃいけない」と思い、歩いているのです。ただ、どこをどう行けば目的地にたどり着けるのかを正しく認識できていないため、間違った方向に歩いているだけなのです。

そう考えると、認知症高齢者は「あてもなく」歩いているわけではないのです。

また、「うろうろ歩き回る」という場合もあると思いますが、一直線に歩いている場合もあります。間違っていても間違いに気付くことなく歩いていることもあるため、「うろうろ歩き回る」という状態とも合致していない場合もあります。

このように「徘徊」という言葉が正しくその状況を表しているわけではないとも言われています。

本人が受ける印象

徘徊」という言葉に本人がどのような印象を受けるのかも考慮が必要です。

認知症の方でも認知機能全てが障害されているわけではありません。家に帰ろうとしていても、見当識障害から自分がどこにいるのかわからなくなるということはあります。ただ、家の場所も風景もわかっていて、冷静な判断ができている場合もあります。それでも全て「徘徊」という一言で片づけられてしまうのは心理的にショックでしょう。

このように、徘徊という言葉は本人の尊厳を傷つけることもあり、使うべきではないという意見もあります。

このような声から、「徘徊」という言葉は使うべきではないという意見が広まりました。

徘徊の言い換え・代替表現に取り組む自治体

徘徊という言葉を言い換えることについて、すでに取り組んでいる自治体もあります。具体例を紹介します。

福岡県大牟田市:
福岡県大牟田市は、2015年度に「安心して徘徊できるまち」というスローガンを「安心して外出できるまち」に言い換えました。これにより、「徘徊」という言葉の使用を避ける方針を打ち出しました。

愛知県大府市:
愛知県大府市では、2017年12月に制定した「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」を機に、「徘徊」という表現を使用しないこととなりました。「ひとり歩き」や「外出中に行方不明になる」などの言い換えを採用しています。

兵庫県川西市:
兵庫県川西市も同年、「徘徊」という言葉の使用を止め、「ひとり歩き」などの言い換えを進めています。

このように、徘徊という言葉は使用しないと宣言する自治体も増えています。

多くの自治体では「ひとり歩き」「ひとり歩き中に行方不明になる」などの表現を用いています。他にも「散歩」と表現する自治体や、徘徊という感じの表現をやめて「はいかい」という言葉にしている自治体などもあります。

かつては「認知症」も「痴呆」という言葉で呼ばれていましたが、差別的な表現であることから、認知症という言葉に改められました経緯があります。言葉には本人の尊厳を傷つける可能性があります。他にも「障害者」を「障がい者」や「障碍者」に言い換えるべきという意見も以前からあります。

このような経緯から、徘徊という言葉を避ける自治体が増えています。

ひとり歩きでは重大性・切迫性が伝わらない?

徘徊をひとり歩きに言い換えるべき?
賛成意見と反対意見

一方で、「ひとり歩き」に言い換えることへ危惧を感じている意見もあります。

ひとり歩きという言葉は意味が非常に広く、状況を判断しにくいと指摘されています。最初にお伝えしたように、認知症高齢者の行方不明者数は年々増加しており、大きな事故につながるケースもあります。

かつては、認知症高齢者が外出し、線路内に立ち入って列車にはねられて亡くなった事故では、鉄道会社から遺族が損害賠償で訴えられるという事件もありました(後に遺族の勝訴が認められています)。

道に迷った高齢者に声をかける警察官

生命の危険もある重大性や切迫性が「ひとり歩き」という軽い言葉では伝わらないのではないかと感じる人もいます。「散歩」という表現も、本当に散歩なのか、本人の歩いている目的が散歩であるとは限らないのに散歩はおかしいのではないかという意見もあります。過剰な排除であって、「偽善」「言葉狩り」ではないかという声もあるようです。

「『徘徊』のほうが行方不明者だと市民に緊急性が伝わる」という判断から、徘徊という言葉を使い続けることを表明している自治体もあります。そのため、現時点では全国的に「徘徊」という言葉がすぐに禁止されることはないでしょう。名称を変更することには時間もコストもかかりますので、国全体で動くのには時間がかかるかもしれません。

ただ、少なくとも本人の前で「徘徊」という言葉を使う際には、それを受け取る側がどう感じるかの配慮が必要なのかもしれません。

まとめ

徘徊という言葉の言いかえ問題について解説しました。

認知症高齢者の行方不明は非常に大きな問題です。家族だけではこの問題に対処することはできませんので、地域社会でどう支えていくか。また、テクノロジーなどでどう解決していくか、という視点が必要になってくるでしょう。

在宅介護をしている家族にとって、一番不安を感じることは身体的な介護に関することではなく、認知症への対応であるというデータがあります。徘徊・ひとり歩きと呼ばれる行動に対しても大きな負担感を感じています。

現状、各自治体がバラバラに認知症高齢者の対策を行っています。ある自治体ではQRコードで個人情報を把握できるようにしていたり、ある自治体は見守りキーホルダーを配布したり、ある自治体はGPS危機を貸与するなど、各自治体単位となっています。しかし、認知症高齢者は自治体の境界に関係なく移動しますので、市町村の境を超えたら対応ができません。

効果のある対策を広域的に対応することも必要でしょう。

言葉の見直しとともに、社会全体で認知症高齢者の行方不明問題の改善が進んでいくことを期待します。

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この記事を執筆・編集したのは

いえケア 編集部

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