この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
特別養護老人ホーム(以下、特養)は、数ある入所施設の中でも特に人気の介護施設です。しかし入所難易度が高く、申し込みについて疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、特養の概要や料金体系・申し込む際のポイントなどについて詳しくご紹介していきます。この記事を読めば、特養に関する疑問点が解消します。ぜひ、最後までご覧ください。
★こんな人に読んでほしい!
- 特養を勧められたけど、詳しくはわからない方
- 施設の入居を検討されている方もしくはそのご家族
- 要介護3以上で施設を検討している方
★この記事で解説していること
- 特養とは、要介護3以上の人が入所できる終の棲家になる施設である
- 特養の料金は4種類の形態があるが、所得に応じて費用負担軽減制度がある
- 特養のメリットは費用が安く24時間介護を受けることができ、終身利用ができること
- 特養のデメリットは軽度者は入居できないうえに入居できるまでの待機時間が長く、対応できる医療体制に限界があること
- 特養に早く入所するためには、複数の施設に申し込むこと・付属のショートステイを利用すること・介護度や状況の変化はすみやかに報告することが重要
- 良い特養を選ぶためには、退居勧告のリスク・対応可能な医療処置・職員の体制・施設内の雰囲気を確認すること
1. 特養とは?わかりやすく解説
1-1. 特養とは
特養は「特別養護老人ホーム」の略で、介護保険制度上の「施設サービス」に分類されている介護保険施設のひとつです。正式名称を「介護老人福祉施設」と言います。
全国に8,306ヶ所あり、入居可能な定員数の合計は57万6442名となっています*1。一ヶ所当たりの平均定員数は69.3人で、稼働率の平均は96.0%となっており、非常に人気の施設であることが分かります*1。
なお、特養ごとの規模としては定員が50~79人の施設が最も多く、次いで80~99人、29人以下の順で割合が高くなっています*2。この中で第3位になっている定員29人以下の特養は「地域密着型特別養護老人ホーム」(通称ミニ特養)と言う別の名称があります。普通の特養は住所を問わず申し込むことができますが、ミニ特養は所在する市区町村に住民票がある人しか申し込めない点が特徴です*3。
1-2. 特養のサービス内容
特養の主なサービス内容については、厚生労働省が作成している「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」において以下のように定められています*4。
また、主な人員配置は以下の通りです*5。
職種 | 必要な数 |
医師 | 1名以上(入所者に対し健康管理及び養上の指導を行うために必要な数) |
介護職員または看護職員 | 入居者3人ごとに1人以上 |
生活相談員 | 入居者100人ごとに1人以上 |
栄養士 | 1人以上 |
機能訓練指導員 | 1人以上 |
介護支援専門員 | 入居者100人ごとに1人以上 |
居室のタイプは以下の4種類があります*3。
居室タイプ | 特徴 |
多床室 | 廊下に沿って部屋が並んでいるタイプ。一つの部屋の定員が2~4名で、室内をカーテンや間仕切りなどで仕切っています。総合病院の一般病棟のようなイメージです。 |
従来型個室 | 廊下に沿って部屋が並んでいるタイプ。個室なのでプライバシーが保たれます。 |
ユニット型個室 | 10人程度をひとつの小グループとし、共有リビングを囲むように個室が配置されているタイプです。 |
ユニット型個室的多床室 | 10人程度をひとつの小グループとし、共有リビングを囲むように部屋が配置されているタイプ。部屋自体は多床室の内部に壁を作って個人スペースを仕切り、ある程度プライバシーが保たれるようになっています。 |
近年新設される施設は「ユニット型個室」がほとんどとなっています。これは「従来型」よりも「ユニット型」の方が介護報酬が高いこと、平成30年に厚生労働省が「ユニット型個室」の割合を2025年度までに半数以上にするように通知を出したことが主な理由です*5。
1-3. 特養の対象者は基本的には要介護3以上
特養の入居対象者は、平成27年4月に行われた制度改正により基本的に中等度以上の要介護3以上となっています。ただし、例外として以下の条件に当てはまり特養以外では生活が困難であると認められる場合は、要介護1~2の方でも申し込むことができます*5。
- 認知症もしくは知的障害・精神障害により、日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、在宅生活が困難な状態の者
- 家族等による深刻な虐待が疑われるなどの事情により、心身の安全・安心の確保が困難な状態の者
- 単身世帯である、同居家族が高齢又は病弱であるなどにより、家族等による支援が期待できず、かつ地域での介護サービスや生活支援の供給が 十分に認められないことにより、在宅生活が困難な状態の者
実際に特養に入居している方の要介護度の平均値は3.95で、特に要介護4・5の入居者が全体の7割を占めています*5。また、介護保険法に特養が位置付けられた当初の平均介護度は3.48でしたので、徐々に特養に入所している方の平均介護度が上がってきていることが分かります*5。
1-4. 特養の平均在所日数は3.5年と他の施設よりも長く、看取りも多い
特養は、世間一般に「終の棲家」と呼ばれます。これは、他の老人ホームでは多くが対応していない「看取りケア」を当初から実践していることが所以です。
厚生労働省の資料によると*5、ある1人の入居者が滞在している機関である平均在所期間は約3.5年となっており、ほかの介護保険施設である介護老人保健施設(約10ヶ月)・介護療養型医療施設(約1.4年)と比較すると長期にわたっています。また、退所の理由を比較しても「死亡」が全体の67.5%と最も多くなっており、概ね7割の方が施設で看取られていることが分かります。
なお、同調査では死亡に次いで26.8%もの方が入院を理由に退所しています。これは、厚生労働省が定めているルールによって「入院後3ヶ月以内に退院すると見込まれないときは、退院後再入所できる体制を取っておく必要がない」旨が定められている*4ことに関連しています。特養は終の棲家ではありますが、上記のルール上3ヶ月以上退院できる見込みがない場合は退所となるケースがあることに注意が必要です。
2. 他の施設との違い
2-1. 特養と老健の違い
特養と老健はどちらも介護保険法に規定されている「施設サービス」の一種です。しかし、それぞれの目的やサービス内容、費用、対象者などには大きな違いがあります。
主な違いは下記の通りです*7*8。
特養 | 老健 | |
正式名称 | 特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 |
特徴 | 生活の場・終の棲家 | リハビリ目的の入所施設 |
サービス内容 | 日常生活上の介護や生活相談、社会生活上の支援、機能訓練、健康管理や療養上の世話を行うことで、自立した日常生活を営むことができるようにする*4 | 退院直後の者や集中的なリハビリテーションが必要な者に対し、在宅復帰を目指して、医療・リハビリテーション・日常生活上の介護を提供する*6 |
運営主体 | 地方自治体、社会福祉法人 | 医療法人 |
対象者 | 要介護3以上(一部例外あり) | 要介護1以上 |
費用 | 約8~14万円 | 約9~15万円 |
所得による減免 | あり | あり |
入居期間 | 制限なし | 3ヶ月ごとに入居継続の必要性を評価し退居を検討する |
最も大きな違いは、入居の対象者と目的です。特養は「原則要介護3以上の方が生活の場として入居する施設」であるのに対し、老健は「要介護1以上で集中的なリハビリを必要とする方が入居する訓練施設」である点です。どちらの施設も所得に応じて居住費や食費の一部が免除され、比較的安価で入居できる点は同じです。
要介護3以上でリハビリによる改善が見込めずに困っている方は特養を。集中的なリハビリで改善が期待でき、最終的には自宅で過ごしたい(過ごさせたい)という方は老健を選ぶとよいでしょう。
2-2. 特養と有料老人ホームの違い
有料老人ホームも、その名の通り自宅での生活が困難な高齢者が入居する施設です。しかし、有料老人ホームは特養とは異なり、介護保険制度に位置付けられている介護施設とは異なります。
主な違いは下記の通りです*7*9。
特養 | 有料老人ホーム | |
特徴 | 生活の場・終の棲家 | バリアフリー構造・完全個室の集合住宅で、在宅の一人暮らし扱いになる「介護付き」「住宅型」「健康型」の3種類がある |
サービス内容 | 日常生活上の介護や生活相談、社会生活上の支援、機能訓練、健康管理および療養上の世話を行うことで、自立した日常生活を営むことができるようにする*4 | 以下のいずれか1種類以上のサービスを提供する食事の提供介護の提供洗濯・掃除などの家事の提供健康管理 |
運営主体 | 社会福祉法人 | 指定なし |
対象者 | 要介護3以上(一部例外あり) | 「介護付き」:主に要介護1以上「住宅型」:施設により異なる「健康型」:介護が不要な方 |
費用 | 約8~14万円入居一時金:なし | 約20~50万円入居一時金:0~数千万円 |
所得 による減免 | あり | なし |
入居期間 | 制限なし | 制限なし※施設ごとに退去要件あり |
有料老人ホームには、介護保険制度の指定を受けている「介護付き」・介護の必要はないが独り暮らしは不安な方向けの「健康型」・両者の中間的位置づけで必要に応じて訪問介護や通所介護などの介護保険サービスを別途契約して生活する「住宅型」の3種類があります。特養とは違って「看取りにも対応した介護付き」「費用を抑えた特養待機者向け」「富裕層向け」など多種多様な運営形態があり、利用にかかる費用や入居の対象となる高齢者の状態像もさまざまです。
3. 特養の費用
3-1. 費用は大きく4つに分けられる
特養に入居した際にかかる経費は、以下の4つに分けられます。
項目 | 概要 |
介護サービス費 | 各種介護を受けたことに対する費用で、介護保険サービスの自己負担分を指します。 |
居住費*10 | 入居者が使用した居室の使用料です。厚生労働省が4種類の部屋タイプに応じた「基準費用額」を日額855〜2,006円の間で定めています。※居住費は介護保険による保険給付の対象外です。 |
食費*10 | 入居者に提供される食事に関する費用です。厚生労働省が1日あたりの「基準費用額」を日額1,392円と定めています。※食費は介護保険による保険給付の対象外です。 |
日常生活費 | 医療費、理美容代、嗜好品、身の回り品、レクリエーションなどに使用した材料の実費 など※オムツ代は施設負担になり、自己負担はありません。※日常生活費は介護保険による保険給付の対象外です。 |
特養にかかる費用は、介護サービス費(介護保険サービス利用料)・居住費・食費が基本です。これに加えて医療費や利用者個人の衣類や身の回り品は個人持ちの費用となります。なお、特養に入所すると介護保険サービスの「福祉用具貸与」「特定福祉用具販売」を利用することができなくなるので*11、各種福祉用具は施設にあるものを使わせてもらうことになります。ただし、入居者の単純な好みの問題で使用する用具を選ぶことは難しいので、どうしてもこだわりがある場合は全額自己負担で用意するように求められる場合があります。
3-2. 介護サービス費用は要介護度や居室のタイプなどによって変動する
特養にかかる費用のうち、介護サービス費(介護保険サービス自己負担分)は、要介護度と4種類ある居室タイプ(従来型多床室・従来型個室・ユニット型個室・ユニット型個室的多床室)の組み合わせで変わります。また、施設ごとの人員体制や提供するサービスによって各種加算による料金が追加されるだけでなく、所在地に応じて1単位当たりの倍率が上乗せされる地域もあります。さらには、入居者の所得に応じて介護保険サービスの自己負担割合が1〜3割で設定されている点も人によって実際の負担額が異なる要素です。
そこで、ここでは特養の部屋タイプの中でも代表的な「従来型多床室」と「ユニット型個室」の料金をご紹介します*12。なお定員が29名以下の「ミニ特養」は、それぞれ9~10円ほど高くなっています。
従来型多床室 | ユニット型個室 | |
要介護1 | 589円/日 | 670円/日 |
要介護2 | 659円/日 | 740円/日 |
要介護3 | 732円/日 | 815円/日 |
要介護4 | 802円/日 | 886円/日 |
要介護5 | 871円/日 | 955円/日 |
※1単位=10円、自己負担割合1割の場合
注:特養の入居は原則要介護3以上である点にご留意ください。
ご紹介した基本料金以外に、さらに以下のような加算が上乗せされます。
特養の介護サービス費に関する費用はとても複雑です。詳細を知りたい方は、実際に入所を検討している施設や現在担当しているケアマネジャーに問い合わせてみることをおすすめします。
2024年4月の介護報酬改定により、介護報酬単価がそれまでよりも引き上げられています。これに加えて処遇改善加算などの加算分が加わります。
3-3. 所得に応じて費用の負担軽減がある
特養の費用のうち、居住費や食費については所得に応じて負担軽減を図る制度があります。特養の負担軽減制度は、以下の2種類があります。
- 特定入所者介護サービス費(別名:負担限度額認定制度)
- 市町村民税課税世帯における食費・居住費の特例減額措置
この2つの負担軽減制度の概要は以下の通りです。
3-3-1.特定入所者介護サービス費(別名:負担限度額認定制度)
「特定入所者介護サービス費」とは、所得が低い住民税非課税世帯を対象にした居住費・食費の減免制度です。「負担限度額認定制度」として広報している自治体もあります。主な制度の概要は以下の通りです。
対象者 | 要介護認定を受けており、下記の介護保険施設を利用している者。かつ、下記負担段階ごとの条件に合致する者 特別養護老人ホーム 地域密着型特別養護老人ホーム(ミニ特養) 介護老人保健施設 介護療養型医療施設 介護療養院短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ) | ||
申請方法 | 管轄する市区町村の介護保険担当窓口にて申請 | ||
負担段階 | 所得の状況 | 資産の状況 | |
第1段階 | 住民税が非課税で、老齢福祉年金受給者生活保護受給者 | 単身:1,000万以下夫婦:2,000万以下 | |
第2段階 | 住民税が世帯非課税で、課税年金収入額、その他の合計所得金額、非課税年金収入額の合計が年間80万円以下の者 | 単身:1,000万以下夫婦:2,000万以下 | |
第3段階① | 住民税が非課税世帯で、課税年金収入額、その他の合計所得金額、非課税年金収入額の合計が年間80万円超120万円以下の者 | 単身:1,000万以下夫婦:2,000万以下 | |
第3段階② | 住民税が世帯非課税で、課税年金収入額、その他の合計所得金額、非課税年金収入額の合計が年間120万円超の者 | 単身:500万以下夫婦:2,000万以下 | |
第4段階 | 本人は住民税非課税だが、同一世帯内に課税対象者がいる場合本人または配偶者(別世帯を含む)に住民税が課税されている者 | 対象外 |
食費 | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室的多床室 | ユニット型個室 | |
第1段階 | 300円/日 | 0円/日 | 320円/日 | 490円/日 | 820円/日 |
第2段階 | 390円/日 | 370円/日 | 420円/日 | 490円/日 | 820円/日 |
第3段階① | 650円/日 | 370円/日 | 820円/日 | 1,310円/日 | 1,310円/日 |
第3段階② | 1,360円/日 | 370円/日 | 820円/日 | 1,310円/日 | 1,310円/日 |
第4段階(基準費用額) | 1,445円/日 | 855円/日 | 1,171円/日 | 1,668円/日 | 2,006円/日 |
※上記金額は特養の場合
この制度は住民税が非課税となっている世帯が利用できる制度です。仮に制度の要件を満たしていても実際に申請しないと減免は受けられないので、適用になる施設への入所を検討しているのであれば、早めに市区町村の担当窓口に相談するようにしましょう。
3-3-2.住民税課税世帯における食費・居住費の特例減額措置
「住民税課税世帯における食費・居住費の特例減額措置」は、その名の通り住民税が課税されている世帯でも食費や居住費の減免を受けられる制度です。以下の要件を全て満たしている場合、特別に上記の「特定入所者介護サービス費」における第3段階②と同等の費用減免を受けられます*14。
- 属する世帯の構成員の数が2人以上
※ 配偶者が同一世帯内に属していない場合、世帯員の数に1を加えた数が2以上。
※ 施設入所により世帯が分かれた場合は、なお同一世帯とみなす。
- 介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院)または地域密着型介護老人福祉施設(ミニ特養)に入所し、利用者負担第4 段階の食費・居住費を負担している。
- 全ての世帯員および配偶者について、サービスを受けた日の属する年の前年 (その日の属する月が1月から7月までの場合は、前々年)の「公的年金等 の収入金額+年金以外の合計所得金額(長期譲渡所得又は短期譲渡所得の特別控除の適用がある場合には、控除すべき金額を控除して得た額。)」を合計 した額から、利用者負担、食費および居住費の年額見込みの合計額を控除した 額が80万円以下
- 全ての世帯員および配偶者について、現金、預貯金、合同運用信託、公募公 社債等運用投資信託および有価証券の合計額が450万円以下
- 全ての世帯員および配偶者について、居住の用に供する家屋その他日常生活 のために必要な資産以外に利用し得る資産を所有していない
- 全ての世帯員および配偶者について、介護保険料を滞納していない
「住民税非課税世帯における食費・居住費の特例軽減措置」は、課税世帯でも利用できる数少ない減免制度です。しかし全ての要件を満たしていても、申請しないと制度を利用できません。施設入所する前に、市区町村の介護保険担当窓口に問い合わせておくようにしましょう。
4. 特養のメリット・デメリット
4-1. 特養のメリット
特養を利用するメリットは、以下の4つです。
- 費用が安い
特養は、入居一時金が不要です。また、所得に応じて食費や居住費の減免を受けられます。意外と高額出費になるオムツや尿取りパッドも施設が提供してくれるので、比較的低所得の方でも安心です。
- 24時間切れ目のない介護を受けることができる
特養は、24時間介護職員が常駐しています。夜間は定時での巡回やオムツ交換を行い、随時コール対応も行っています。夜間も各フロアに介護職員がいるため、緊急時は複数名で連携して対応してもらえるので安心です。
- 看取りケアに対応している(終身利用ができる)
特養は、長期利用が前提です。民間の老人ホームでは看取り状態になると入居継続が難しくなる施設がある一方、特養の場合は医師や看護師が配置され看取りケアにも対応しているため、最期まで安心して過ごすことができます。
- 倒産の心配が少ない
特養を運営しているのは、経営が安定している自治体や社会福祉法人です。開設の時点で経営状態を厳格に審査されており、税制面の優遇や補助金を受けて運営されるため、民間の施設と比較すると倒産のリスクが少ないと言われています。
特養は、費用・職員の体制・経営状態どれをとっても安定している施設です。要介護3以上で施設入所を希望している方であれば、真っ先に選択肢に入るでしょう。入居申し込みをしてから入所決定までには時間がかかるので、要介護3になった時点で早めに申し込むことをおすすめします。
4-2. 特養のデメリット
特養のデメリットは、以下の4つです。
- 軽度者は入居できない
特養に入居可能なのは、原則要介護3以上です。一定の要件を満たせば要介護1・2の方でも特例入所できますが、自治体の介入が必要で要件が厳しいこともあり*15、うまく運用されていないのが実態です。
- 入居できるまでの待機期間が長い
厚生労働省によると、特養の待機者は令和4年12月現在で約23.3万人いる*16と言われています。徐々に減少傾向にはあるものの、地域によっては申し込みから入居が決まるまで年単位の待機が必要になっています。その間、入居希望者は在宅か他の費用が高い入所施設で待たなければならないのが課題です。
- 対応できる医療体制に限界がある
特養には医師や看護師が配置されているものの、24時間常駐しているわけではありません。また、一定の要件を満たした施設であれば介護職員や痰吸引や経管栄養と言った医療ケアも実施していますが、それでも対応できる医療体制には限界があります。高度な医療ケアが必要になると、退去を求められる場合もあります。
- 入院が長期に渡った場合は退去を求められる場合がある
入居者が入院した場合にベッドを確保しておける目安は3ヶ月となっており*4、それ以上の長期入院となる場合は退去を求められる場合があります。一旦退去となった場合、退院後に再入居できる保証はありません。
このように、特養は入居できる要件が厳しい点が一番のデメリットです。軽度者の特例入所申請も制度上可能ではあるものの、現実的ではありません。軽度の場合は「介護老人保健施設」や民間の「有料老人ホーム」などが実質的な選択肢となるでしょう。
5. 特養に入るにはどうすれば良い?
5-1. 特養の申し込みの流れ
要介護3以上の方が特養に申し込む際の流れは、以下の通りです。
- 担当のケアマネジャーに入居の意思を伝え、施設を紹介してもらう
特養への入居を希望する場合、まずは担当のケアマネジャーに相談して施設を紹介してもらいましょう。各市区町村のWebサイトでも特養の情報が掲載されているので、そちらから確認する方法もあります。
- パンフレットを取り寄せ、施設見学をする
ある程度施設に目星を付けたら、パンフレットを取り寄せたり見学したりして情報収集をしましょう。コロナ禍で見学が難しい場合もありますが、一度施設を訪問することで職員の接遇や施設の雰囲気などをある程度推し測ることができます。
- ケアマネジャーに「入所意見書」の作成を依頼する
入居を希望する施設が決まったら、ケアマネジャーに「入居意見書」の作成を依頼しましょう。この書類は特養に入居申し込みをする際に必要になります。
- 入居を希望する特養を訪問し、相談員と面談のうえ申し込みをする
入居申し込みをする際は、上記の「入所意見書」「介護保険被保険者証」「負担割合証」「本人の年金収入など所得の概要がわかる書類」などが必要になります。書類が整ったら、希望する施設の相談員に事前連絡したうえで訪問し、入居の申し込みを行います。その際に面談をして本人の状態について聞き取りが必要になる場合もあるので、時間に余裕を持って訪問するようにしましょう。
5-2. 特養に早く入れる方法4選
特養は年単位の待機が必要な傾向があるので、少しでも早く入るにはコツが必要です。ポイントは以下の4点です。
- 複数の特養に申し込む
特養は、複数の施設に申し込むことが可能です。待機者の状況は施設ごとに異なるので、複数の施設に申し込むことによって入居できる可能性が高まります。新設の施設がオープンする予定があれば競争率は低くなりますのでねらい目です。
- 自宅での介護が困難な理由を明確に説明する
特養に入居できるのは、先着順ではありません。要介護や生活状況の困難さを点数化して優先順位を決めています。そのため、申し込みの際はなぜ特養に申し込まなければならないのか、どのような理由で自宅での介護が困難になっているのかを明確に説明しましょう。
- 待機中に要介護度や生活状況が変わったら、すみやかに報告する
上記と同じ理由で、心身状態の変化によって要介護度が悪化した場合や、介護する家族の状況に変化があった場合はその都度に施設へ報告しましょう。報告を受けた施設はデータベースを更新し、優先順位を再評価します。その結果優先度が上がれば、より早く入居できるようになる可能性があります。
- ケアマネやショートステイ・デイサービスなどは系列事業所を利用する
特養と同じ法人が運営するケアマネ事業所やショートステイなどを利用することで、早く入居できる場合があります。事業所同士で密に情報交換ができるので入居の必要性が伝わりやすく、希望者自身の心身状況も把握しやすいからです。すでにケアマネ事業所やショートステイなどを利用しているのであれば、まずは最優先で同系列の特養に申し込むことをおすすめします。
5-3. 特養の空き状況や入所待ちの人数を知る方法3選
入所できる可能性が高い特養を見つけるためには、現在の特養の空き状況や入所待ちの人数を確認し、少しでも可能性が高い施設に申し込むと効率的です。そこで、特養の空き状況や入所待ちの人数を調べる方法を3つご紹介します。
- 直接問い合わせる
最もオーソドックスな方法が、希望する施設に直接問い合わせる方法です。ただし、施設によっては明確な人数を教えてくれなかったり、「まずはケアマネジャーに相談を」と回答を濁されてしまったりする場合もあります。直接空き状況を確認する場合は、入居調整を担当している「生活相談員」という職種の方に取り次いでもらい、入居申し込みや見学を希望していることを伝えると具体的に教えてくれる可能性があります。
- ケアマネジャーに確認する
ケアマネジャーは地域の施設情報に精通しています。また、各施設では在宅高齢者を担当しているケアマネジャーからの問い合わせであれば信頼して細かい情報を教えてくれる場合があります。そのため、担当しているケアマネジャーから問い合わせてもらうと詳しい情報を得られる可能性があります。
- Web上の検索システムを利用する
一部の都道府県や市区町村では、独自にWebサイト上で空き情報の検索システムを設けている所があります。また、民間の老人ホーム情報検索サイトでも空き情報を取り扱っています。最新情報とのタイムラグが発生している場合もありますが、24時間好きな時間に調べることができるので、積極的に活用していきましょう。
特養はどの施設も人気で、すぐに入所できる施設を見つけることは非常に困難です。これらの方法を活用して、入居の可能性が高い施設を効率的に探していきましょう。
6. 良い特養を選ぶおすすめのポイント4選
6-1. 契約時に退去勧告のリスクがないかを確認を
特養は終身利用ができる施設ですが、どのような状況でも最期まで介護してもらえるとは限りません。以下のようなケースに当てはまる場合は、退去を求められることがあります。
これらは、退去勧告を受ける可能性がある行動の一例です。施設側が入居者に対して退居を求める条件については、契約手続きの際に確認する「重要事項説明書」や「契約書」に記載されています。契約の際は、必ず退去を求められる条件について確認しておくようにしましょう。
6-2. 必要な医療処置に対応しているか
厚生労働省は、特養の入居者が受けている医療処置は以下のようなものがあると発表しています*5。
処置内容 | 割合 |
胃ろう・腸ろうの管理 | 4.8% |
たんの吸引 | 4.7% |
カテーテルの管理 | 3.7% |
褥瘡(床ずれ)の処置 | 2.6% |
経鼻経管栄養の管理 | 1.1% |
酸素療法 | 1.0% |
インスリンの注射 | 1.0% |
点滴 | 0.6% |
中心静脈栄養 | 0.1% |
特養は確かに看取りまで対応している施設ですが、このような医療行為全てに対応しているわけではありません。施設ごとの人員体制や運営方針により、対応できる医療処置が異なります。すでにこれらの処置を行っている方の場合、申し込みの時点で必ず確認するようにしましょう。また、入居後に施設が対応していない医療処置(特に延命治療)が必要だと診断された場合、退居して他の施設を探すか、医療処置の継続を拒否して特養での生活を続けるかの選択を迫られることもあります。いざという時に困らないよう、対応可能な医療処置については事前に確認しておくようにしましょう。
6-3. スタッフ含め体制はしっかりしているか
特養の人員体制については、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」によって厚生労働省が厳格に定めています*4。しかし、この基準はあくまで最低ラインの人数にすぎません。
特養によっては、「人員配置基準を下回らないように守っていればいい」という施設や、特色を出すために職員を手厚く配置する施設など様々です。特に重要なのは、入居者に最も関わる機会が多い「介護職員」と、健康管理・医療ケア・体調不良時の対応・配置医師との連携を担当する「看護職員」です。
そのため、入所の申し込みを行う前に必ず施設見学を行いましょう。法律で定められている最低ラインの数は「介護職員と看護職員の合計が利用者3人に対し1人」*4です。これを上回る数の職員が配置されていれば、手厚い人員体制が取られていると判断して良いでしょう。
6-4. 施設内の雰囲気が本人と合うかどうか
特養は入居者にとって生活の場であり、終の棲家です。せっかく入居しても本人と合わなければ、苦痛でしかありません。実際に入居する前に、施設の雰囲気が本人の好みや性格に合うかどうかを確認することが重要です。
施設内の雰囲気は、施設長の運営方針や職員一人一人の立ち振る舞いや表情、施設内の飾りつけや賑やかさ、地域住民との関わり方などによって大きく変わります。
見学の際は本人も一緒に行くようにし、可能であれば体験利用や体験入居を試してみることがおすすめです。体験ができない場合は、施設に併設されているショートステイやデイサービスを利用してみる方法もあります。施設の雰囲気が本人に合うかどうかによって、入居後の生活の満足度が大きく変わることを覚えておきましょう。
参考文献
*1.厚生労働省 令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況 P4
*2.WAMNET 2019 年度「特別養護老人ホームの入所状況に関する調査」の結果について P2
*3.関東信越厚生局 地域密着型サービスの概要 P4、13、15
*4.指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第1条の2、第2条第3項、第19条
*5.第183回 社会保障審議会資料 P1、2、14、16、19、24、26
*6.指定介護老人保健施設の人員、設備及び運営に関する基準 第1条の2
*7.「ケアマネジャー」編集部(2021)、『プロとして知っておきたい!介護保険のしくみと使い方 2021年介護保険改正対応』、中央法規出版株式会社 P143、155
*8.厚生労働省リーフレット 「介護保険施設における負担限度額が変わります」
*11.厚生労働省 福祉用具に関する法令上の規程について ①介護保険法の規定
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