この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
厚生労働省の雇用動向調査によると、2020年に離職した約727万人のうち、介護・看護を理由に離職した「介護離職」の人数は約7万人*1でした。現在、日本では介護離職も深刻な問題となっており、国を挙げて仕事と介護との両立を支援しています。そのひとつが介護休業制度です。この記事では、介護休業制度、介護休業給付金の支給条件や申請方法、給付金がもらえないケースなどについて詳しく解説しています。
★こんな人に読んでほしい!
- 介護休業を取得し、介護休業給付金の給付申請を考えている方
- 介護休業給付金の取得要件について知りたい方
- 介護休暇と介護休業の違いについて知りたい方
★この記事で解説していること
- 介護休業制度とは、家族の介護のために通算93日まで休みを取得できる制度で、支給条件に当てはまる場合、介護休業給付金が雇用保険から支給される
- 介護休業中の就業日数が10日以下、賃金が賃金月額の80%未満であることが支給条件となっている
- 実際の休業取得日数が2週間未満でも支給の対象となる
- 介護休業給付金の支給額はおおよそ賃金月額の67%である
- 介護休業開始時点で退職を予定している場合には介護休業給付金はもらえない
- 介護休業給付金は、原則、事業主を経由してハローワークに申請書類を提出し、支給決定から1週間程度で振り込まれる
1. 介護休業給付金・介護休業制度とは
1-1.介護休業給付金とは、家族の介護のために介護休業を取得した方に雇用保険から支給される給付金
「介護休業給付金」*2とは、家族の介護のために介護休業を取得した方に雇用保険から支給される給付金です。雇用形態(正社員、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員)に限らず、雇用保険の被保険者であるすべての労働者が対象となります。
厚生労働省の公式ホームページでは、介護休業制度や介護給付金に関する情報が掲載されています。
- 介護休業制度について
厚生労働省 介護休業制度
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/)
1-2. 介護休業制度とは、介護のために通算93日まで休みを取得できる制度
「介護休業制度」*3とは、仕事を辞めることなく介護ができるよう、育児・介護休業法で定められた仕事と介護の両立支援制度です。勤務先に制度がなくても、育児・介護休業法に基づいて利用することができます。正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員、契約社員でも一定の要件を満たせば、介護休業制度を取得することができます。
介護休業制度と同じような制度に「介護休暇制度」がありますが、両者の大きな違いは取得できる日数です。介護で長期間の休暇を必要とする人には「介護休業制度」、数日など短期間の休暇を必要とする人には「介護休暇制度」の利用がおすすめです。介護休暇制度についての詳細や、介護休業との使い分け方は下記のページをご参照ください。
いずれの制度も無給での休暇取得になりますが、介護休業制度では要件を満たせば雇用保険の介護休業給付金が支給されるという点でも異なります。
介護休業制度 | 介護休暇制度 | |
利用できる人 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者(雇用保険の被保険者) | |
対象となる家族の範囲 | 配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 | |
必要な勤続期間 | 1年以上※ | 6ヶ月以上 |
手続き | 原則、2週間前までに勤め先に書面で申し出る | 当日の申し出も可能 |
日数 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得可能 | 1年に5日まで(対象家族が2人以上の場合は10日まで)。1日または時間単位で取得可能 |
※育児・介護休業法の改正により、2022年4月1日以降の申出時点で要件撤廃となりました(入社1年未満の方で労使協定が締結されている場合は対象外)*4
介護休業の通算93日の数え方は、「介護休業の取得開始日」を1日目として数え、介護休業終了日までカウントし、会社が設けている休日や土日、祝日も含んだ日数となります。
労使協定により、介護休業の取得対象外となる方もいます。労使協定とは、事業所ごとの労働組合のことで、労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と事業主との書面による協定のことを指します。介護休業を検討している方は労使協定も確認しておきましょう。
2. 介護休業給付金の支給対象者と条件
2-1.介護休業開始前2年間で12ヶ月以上の雇用保険加入期間があること
介護休業給付金の支給対象者は、介護休業の開始日前2年間に、12ヶ月以上の雇用保険加入期間(被保険者期間)があることが条件*6です。雇用保険の「1ヶ月」とは、賃金支払基礎日数(賃金や報酬の支払い対象となる労働日数)が11日以上である月、または労働時間数が80時間以上ある月を指します。
現在の事業所での勤続期間が12ヶ月未満でも、通算の雇用保険加入期間が12ヶ月以上であることが条件のため、以前働いていた事業所などと合わせて12か月以上あれば条件に当てはまります。
2-2.介護休業中の就業日数が10日以下であること
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで3回を上限として分割取得可能で、介護休業開始日から数えた1ヶ月ごとの期間を介護休業給付の「支給単位期間」といいます。
ひとつの支給単位期間において、働いた日が10日以下でなければ支給対象とはなりません*6。
2-3.介護休業中の賃金が賃金月額の80%未満であること
介護休業給付金の支給対象となる介護休業中に賃金が支払われた日があり、そこで支払われた賃金が、休業前の賃金の80%未満でなければ支給対象となりません*6.7。つまり、休業中も休業前と同じくらいの賃金をもらっているときは受給できないということです。
2-4.契約期間のある方は条件が追加される
期間を定めて雇用されている期間雇用者の場合は、上記に加えて、介護休業開始日から数えて93日を経過する日から6ヶ月を経過する日までに、契約期間が終わらないことが条件*6.7です。
3.介護休業給付金の支給対象となる介護休業とは
3-1.支給対象となる介護休業には2つの条件がある
支給対象となる介護休業には条件があります。以下の2つの条件を満たす介護休業を取得した方が対象*6となります。
①負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するための休業 ②被保険者が、その期間の初日および末日とする日を明らかにして事業主に申し出を行い、これによって被保険者が実際に取得した休業 |
3-2.対象となる家族の範囲
対象となる家族は以下の通りです*6.7。
配偶者(事実婚含む)父母(養父母含む)子(養子含む)配偶者の父母(養父母含む)祖父母兄弟姉妹孫 |
同じ対象家族について、複数の被保険者が同時に介護休業を取得しても、それぞれに介護休業給付金の支給要件を満たしていれば給付金が支給されます。例えば、祖父の介護をするために、父や母、孫がそれぞれ同時期に介護休業を取得しても、全員が介護給付金を受け取ることが可能です。
3-3.「常時介護を必要とする状態」の判断基準はあるが、この限りではない
介護給付金の支給対象となる介護休業の条件のひとつに、「『2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態』にある対象家族を介護するための休業」があります(「3-1.支給対象となる介護休業には2つの条件がある」参照)。
「常時介護を必要とする状態」には判断基準が設けられており、以下のいずれかに該当する場合とされています*8が、審査などがあるわけではありません。そのためこの限りではなく、事業主は個々に柔軟に対応することが望まれています。
【1】介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること
【2】状態(1)~(12)のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること
項目/状態 | 1 | 2 | 3 |
(1)座位保持(10分間一人で座っていることができる) | 自分で可 | 支えでもらえればできる | できない |
(2)歩行(立ち止まらず、座り込まずに5m程度歩くことができる) | つかまらないでできる | 何かにつかまればできる | できない |
(3)移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間を移るなどの乗り移りの動作) | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
(4)水分・食事摂取 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
(5)排泄 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
(6)衣類の着脱 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
(7)意思の伝達 | できる | ときどきできない | できない |
(8)外出すると戻れない | ない | ときどきある | ほとんど毎回ある |
(9)物を壊したり衣類を破くことがある | ない | ときどきある | ほとんど毎日ある |
(10)周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがある | ない | ときどきある | ほとんど毎日ある |
(11)薬の内服 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
(12)日常の意思決定 | できる | 本人に関する重要な意思決定はできない | ほとんどできない |
3-4.実際に取得した介護休業の期間が2週間未満でもOK
「2週間以上の常時介護が必要な状態」とは、あくまでも対象となる家族が常時介護を必要とする期間であり、実際に取得した介護休業の期間が2週間以上である必要はありません*7。介護休業を取得した期間が2週間未満でも、介護休業給付金を受給することは可能です。
4. 介護休業給付金の支給額
4-1.介護休業給付金の支給額は「賃金日額×支給日数×67%」で計算される
介護休業給付金の支給額は、支給対象期間ごとに「『賃金日額×支給日数』(賃金月額)×67%」で計算されます*6.7。
- 【賃金日額】
原則、介護休業開始前6ヶ月の総支給額を180で割った金額。総支給額は保険料などが控除される前の額で、賞与などは含まれない - 【支給日数】
原則として30日。ただし、介護休業終了日を含む支給単位期間については、その介護休業終了日までの日数
ただし、支給対象期間中に賃金が支払われた場合、以下のようになります。
支払われた賃金が賃金月額の
- 13%以下 → 賃金月額の67%相当額を支給
- 14~79% → 賃金月額の80%相当額と賃金の差額を支給
- 80%以上 → 支給されない
正確な金額は、事業主がハローワーク(公共職業安定所)に提出する「休業開始時賃金月額証明書」によって算出さます。
また、介護休業給付金の上限額は33万5871円です。「賃金日額×支給日数」(賃金月額)の下限は7万9710円となっているため、賃金月額がこれを下回る場合は一律7万9710円として計算されます。
4-2.介護給付金支給額の目安
介護休業期間に賃金の支払いがない場合の支給額の目安は、介護休業開始前6ヶ月間の総支給額により、以下の通りとなります。
- 平均して月額15万円程度の場合、支給額は月額10万円程度
- 平均して月額20万円程度の場合、支給額は月額13.4万円程度
- 平均して月額30万円程度の場合、支給額は月額20.1万円程度
5. 介護休業給付金が貰えないケースや注意点
5-1.介護休業期間中に11日以上働いた場合や賃金が80%以上となった場合
介護休業期間中に11日以上働いた場合は、介護休業給付金の支給対象外となります。「3. 介護休業給付金を受給できる条件」で解説した条件のうち、介護休業給付が貰えないケースとして陥りやすいケースのひとつです。働いた日数には、在籍している事業所以外で働いた分も含まれる点にご注意ください。
また、介護休業中に会社から休業手当が出る場合や、有休を取得する場合など、賃金が80%以上を超える可能性がある方も注意が必要です。
5-2.介護休業開始時点で退職を予定している場合
介護休業給付金は介護終了後の職場復帰を全体とした給付金で、仕事と介護の両立のためにある制度です。介護休業終了後にやむを得ず退職した場合は給付金は貰えますが、介護休業開始時点で退職を予定している場合は、介護休業給付金を受給できません。
5-3.他の給付金との併用は不可
介護休業は、産前・産後休業中に開始することはできません。また、介護休業期間中に他の家族に対する介護休業や、産前・産後休業、育児休業を開始した場合は、その新たな休業の開始日の前日に介護休業は終了し、その日以降の分は介護休業給付金の支給対象とならない点にご注意ください。
5-4.要介護度が上がっても、再度介護休業給付金は支給されない
対象家族1人につき取得できる介護休業は通算93日と規定されており、これは要介護度が上がっても追加されることはありません。また、介護休業給付金についても同様で、要介護度が上がったとしても、再度介護休業給付金が支給されることはありません。
ただし、通算93日の介護休業を3回を上限に分割で取得することは可能で、それぞれ取得した介護休業の期間に応じて介護給付金が支給されます。
6. 介護休業給付金の申請方法や必要書類、期限など
6-1.原則は事業主を経由してハローワークに申請書類を提出
介護休業給付金の申請は、被保険者本人の希望で自ら申請することも可能ですが、原則は事象主が必要書類を揃えて事業所を管轄するハローワークに提出します*6.7。
不明な点は、勤務先の雇用手続き関係の業務を担う担当部署や担当者に問い合わせをするようにしましょう。
6-2.被保険者本人が準備すべき書類は「住民票記載事項証明書」
【被保険者が準備する書類】*6.7
住民票記載事項証明書など (介護対象となった家族の氏名、申請者との続柄、性別、生年月日などが確認できる書類) |
【事業主が提出する書類】*6.7
受給資格確認に必要な書類 ①雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 ②賃金台帳、出勤簿またはタイムカード(①の内容が証明できる書類) 支給申請に必要な書類 ①介護休業給付金支給申請書(ハローワークHPで確認可能) ②被保険者が提出した介護休業申出書 ③被保険者の提出した住民票記載事項証明書など ④出勤簿やタイムカードなど(介護休業の開始日・終了日、休業日数が確認できる書類) ⑤賃金台帳など(介護休業期間中に支払われた賃金が確認できる書類) |
6-3.提出期限は介護休業終了日の翌日から2ヶ月後の月末まで
介護給付金申請の提出期限は、各介護休業を終了した日の翌日から数えて2ヶ月を経過する日の月末までとなっています*6.7。
例)介護休業終了日:7月25日 → 9月30日までに提出
ただし、介護休業期間が3ヶ月以上になるときは、介護休業を開始した日から3ヶ月以内に提出しなければならないためご注意ください。
7. 介護休業給付金は支給決定日から1週間程度で振込される
介護休業給付金の支給申請の結果は、支給額などが記載された「支給決定通知書」で通知されます*6.7。支給が決定した場合は、支給決定日から約1週間後に被保険者の指定した金融機関口座に振り込まれます。正確な支給日は支給決定通知書に記載がありますので、支給決定通知書で確認するようにしましょう。
コメント