在宅介護を行うために、要介護者の生活環境を整えることが重要になります。
障害や疾患に合わせて最適化された暮らしの場があれば、介護にかかる負担を少なくすることができ、より長く在宅での生活を維持することができます。
介護認定を受ければ、介護保険での住宅改修を利用して、生活環境を整えることができます。
介護リフォームではどんなことができるのか、どのような手続きが必要なのか。介護リフォームに関する基礎知識についてお伝えします。
住環境を整える
日本の住宅事情と介護
介護リフォームの話をする前に、まず日本の住宅事情、高齢者の住まいに関する現状から説明します。
日本の住宅事情としては持ち家率が高く、住み替えが少ないことが特徴として挙げられます。ライフスタイルに合わせて住まいを変えるのではなく、長く継続してその家に暮らすという文化が定着しています。図を見てわかる通り、高齢者の住まいについて、全体の81.4%は持ち家・一戸建てとなっています。
しかし、高齢者の暮らす住宅は古い住まいが圧倒的に多く、バリアフリー化されていません。総務省「住宅・土地統計調査」によると、トイレや浴室に手すりがあるなどの一定のバリアフリー設備のある住宅は全体の50.9%とまだまだ低いことがわかります。
1996年以降の住宅にはバリアフリー基準を満たす住宅が多いものの、それ以前の住宅はバリアフリーのための設備がないことが多く、高齢者が安全に暮らすための住まいとしては適していません。下のグラフを見ての通り、現在の住まいに関しての不安として、虚弱化したときの住居の構造を一番にあげる人は27.3%と多く、住宅構造・住環境に課題を感じている高齢者が多いことがよくわかります。
日本の住宅に今も残る、大きな段差、手すりのない壁面、深い浴槽、和式トイレ。暮らしにおけるバリア(障壁)を取り除くため、介護リフォームを行うことが快適な暮らしを実現するために必要です。
障害や疾患に合わせた住まいを
障害や疾患を機に、住み替えをするという選択肢もあります。しかし、住み替えることで地域とのつながりが失われることや、愛着のある自宅と離れることに抵抗がある高齢者も多く、また住み替えにかかるコストなども考えると、簡単に決断できることではありません。
介護リフォームをして現在の住宅を最適化し、現在の暮らしの場で生活を続けていく場合が多くなっています。
バリアフリー化すると一言で言っても、すべてをバリアフリー化することはできません。障害や疾患によって必要な対応も異なります。
車いすで移動するのであれば段差を乗り越えられるようにスロープを付けることが必要ですが、歩いて移動する場合はスロープの傾斜を踏んだ時にバランスを崩しやすく、かえって転倒しやすくなるリスクを生みます。転倒しないように手すりを付けたものの、車いすを使うになったら手すりの幅が邪魔になり廊下を通れなくなる、ということもあります。
つまり、誰かにとってのバリアフリー化が、違う誰かにとってのバリアにもなりえるし、数年後のバリアにもなりえるのです。すべてのバリアを取り除くことはできません。優先順位をつけて、解決したい課題を抽出し、リフォームしていくことが必要になります。
次の章からは具体的な介護リフォームの方法について解説します。
介護保険制度の住宅改修
介護保険の住宅改修について説明します。
介護保険制度では、自宅での生活を続けられるように住宅改修を行った場合、住宅改修費が給付される制度があります。住宅改修の概要や手順、住宅改修で認められる工事内容について解説します。
住宅改修を行うまで
まずは制度の概要と手順について解説していきます。
上限金額は20万円
介護保険の住宅改修では上限20万円までのリフォーム工事が給付対象となります。20万円分が無料で使えるわけではなく、利用者の所得等によって決まる自己負担割合に応じた自己負担が発生します。例えば、自己負担割合1割の方が保険対象20万円の介護リフォームを行った場合、18万円が保険給付され、自己負担は1割分の2万円となります。簡単に言うと、20万円分の工事を2万円でできる、ということです。ただし、上限である20万円を超えた部分は全額自己負担となりますので、注意しましょう。
この20万円の枠は何回かに分けて使うこともできます。最初に5万円分の工事をして、次に15万円分の工事をするなど、20万円の限度額を分けることができますので、その時必要な工事に必要な分だけ使うことができます。
支払いに関しては、市町村によって取り扱いが異なる場合があります。主に、償還払いと受領委任払いという2つの方法があります。償還払いは、リフォームを行う事業者に工事代金の全額をいったん支払い、市町村への手続きがすべて完了した後、市町村に届け出た銀行口座に保険給付分が払い戻されるシステムです。受領委任払いは、リフォーム事業者には自己負担割合分の金額のみを支払い、保険給付分は市町村から事業者に直接支払われるというシステムです。償還払いでは、いったん全額分を支払わなければいけないので、受領委任払い制度の方が利用する側のメリットが大きいのですが、市町村によっては対応していない場合や、受領委任払いは研修を受講した事業者のみを対象にするなど、制限もあるので事前に確認しましょう。
また、リフォームの上限金額20万円は要介護度が3段階以上(要支援2と要介護1は同じ段階とみなす)上がった場合は再度利用することができます。例えば、要支援1の時に手すり設置で20万円分の住宅改修を行った後、要介護3の認定を受けて車いすでも通れるように段差解消の工事で20万円分のリフォームを行うということが可能です。また、転居した場合も再度20万円の限度額を利用することができます。
高齢者夫婦世帯で二人とも介護認定を受けている場合は、二人分、あわせて40万円分の介護リフォームをすることもできます。
住宅改修のために必要な手続き
住宅改修のために必要な手続きを説明します。
まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センター職員に相談しましょう。介護認定を受けていない方は、要支援1から要介護5までいずれかの認定を受ける必要がありますので、介護認定の申請から行います。
ケアマネジャー立会いの下、リフォーム業者と改修工事についての打ち合わせを行い、見積もりを作成します。一社だけに見積もりを依頼するのではなく、複数の業者に見積もりを依頼する相見積もりをお願いすることも可能です。特に、見積もり金額に納得がいかない場合や、金額の大きな工事になる場合などは相見積もりも検討しましょう。
見積もり金額や工事内容を確認し、問題がなければ住宅改修工事の申請書を作成します。ケアマネジャーは、利用者の身体状況などを踏まえて「住宅改修に必要な理由書」を作成します。その他、工事施工前の写真や工事箇所を記載した図面などの書類を役所に提出し、市町村の許可が下りたら工事に着工します。
工事完了後は事業者が完了後の写真を撮影し、工事完了報告を役所に行います。手続き完了後に市町村から償還払いまたは受領委任払いに基づいて工事費用のうち保険給付分が利用者又は事業者に支払われます。これが介護保険の住宅改修の流れになります。
住宅改修の対象となる工事内容
介護保険の住宅改修対象となる工事内容について解説します。
どんな工事でも認められるわけではありません。介護保険の対象となるのは以下の6種類となります。
1つずつ工事内容を紹介していきます。
手すりの取り付け
最もポピュラーな介護リフォームと言えば手すりの設置です。
高齢になると、加齢や疾病に伴う筋力低下や、膝・腰などの痛みなどによって、転倒・転落のリスクは急激に高まります。そこで、足の力を補うために、手の力を利用することが必要になります。手の力で体を引き起こす、バランスを崩した時には手の力で姿勢を保つなど、手すり一本あるだけで転倒や転落のリスクを大きく軽減することができます。
立ったり座ったりする動作、または階段、玄関の上がりがまち、浴室など、上下の動きが必要な場面で特に必要になります。
縦の手すり、横の手すり、L字型の手すり、階段などに使う連続手すりなど、手すりと一言で言っても様々な種類があります。体を引き上げるときには縦の手すり、座る時にバランスを崩さないように姿勢を支えるために横手すりを使う、浴室でぬれている手でつかむので木製ではなく樹脂製の手すりにする、など場面に応じて使いやすい手すりの形状や材質も異なります。
手すりがあるから一人でも安心してトイレに行ける、手すりがあるから一人で入浴できる。介護者の負担も少なくなり、本人にとっても自尊心を保ち、生活への意欲も高まります。たかが手すり1本でも劇的に生活の質を変える効果があるのです。
段差または傾斜の解消
段差解消、傾斜の解消も介護保険の対象工事です。
日本の住宅には段差が多いです。玄関、廊下と居室の間、トイレなど、様々な場所に段差があります。段差があるために移動ができない、というバリアを取り除く工事ができます。
具体的には、床面をかさ上げして段差をなくすことや、踏み台(式台)などを設置して段差を少なくする、段差をなだらかな傾斜にする、敷居の段差を撤去する、などの方法があります。
滑りの防止及び移動の円滑化等のための床、通路面の材料の変更
床面の材料変更も介護保険で認められる工事内容です。
例えば、車いすでの生活になったことを想定します。車いすで移動しようとしても床面が滑るために車いすでこぐことができない、という場合があります。特に滑りやすい畳の床面をフローリングに変更するというのも介護保険の対象となります。
滑り止め加工の塗料やクッションフロアにするなど、介護保険で認められる工事内容は他にもありますので、確認しておきましょう。
引き戸などへの扉の取替え(扉の撤去、扉の新設[取替えに比べ費用が低廉な場合]を含む])
扉を引き戸や折れ戸へ変更することも介護保険で対象となるリフォームです。
開き戸は扉を開閉するためのスペースが必要になり、体を避けなければいけないことが多く、車いすの方には適していません。浴室のような狭い面積の場所では体を避けるスペースを確保することができず、扉開閉時の転倒リスクも高くなります。
引き戸や折れ戸であれば、少ない力で開閉することも可能になります。また、扉が重く開かない場合なども、介護保険で扉の変更が可能となります。
和式便器などから洋式便器への便器の取替え
今でも和式トイレを使用されている家庭はあります。しかし、しゃがむ姿勢を維持することが難しい、座った状態から立つことが困難、衛生面の問題など、様々な問題があることから、洋式トイレへの変更が進んでいます。大手メーカーTOTOの調べでは現在の出荷数で和式トイレの比率は1%を切っているようですが、古い住宅ではまだ和式トイレが健在です。
和式トイレを洋式トイレに変更する場合には、介護保険での住宅改修が認められます。
上記1~5の工事に付帯して必要と認められる工事
これらの工事に付帯して必要と認められる工事も対象となります。具体的には以下のような工事が対象となります。
・ 手すり取付けのための壁の下地補強
・ 浴室、便所工事に伴う給排水設備の工事
・ スロープ設置に伴う転落脱輪防止のための柵等の設置
・ 扉取替えに伴う壁または柱の改修
以上の6種類の工事が介護保険で認められるリフォーム内容となります。
ただし、介護保険ですべてをカバーすることはできません。次の章では、介護保険以外の制度にどんなものがあるのかを紹介します。
介護保険以外の介護リフォーム
リフォームは介護保険だけではなく、様々な制度を活用することが可能です。介護保険以外のリフォーム助成制度について紹介します。
介護保険以外の介護リフォーム助成制度
自治体独自の住宅環境整備事業
自治体で住宅環境整備事業を独自に行っている地域があります。
介護保険でのリフォームが優先となりますが、自治体がそれとは別枠の住宅リフォーム助成制度を設けている場合があります。介護保険よりも審査が厳しく、専門家のアドバイスを受ける必要があるなど、ハードルは高いですが、介護保険の住宅改修と併用してより住みやすい住環境を整えることが可能です。
重度障害者住宅設備改良費助成事業
重度障害者として認定を受けている場合は、住宅設備改良費助成制度も活用することが可能です。介護保険では認められない天井走行リフト設置工事や階段昇降機なども対象になっている自治体もあります。65歳以上になってから障害の認定を受けた場合は適用できないなど、自治体によって基準が異なりますので、適用できるか確認しましょう。
三世代リフォーム助成金
三世代同居する世帯では三世代リフォーム助成金なども利用できます。息子家族と同居するようになった、などの状況で利用できる制度です。
これも自治体によって条件が異なりますが、条件に該当するかを確認するとともに、希望するリフォーム内容が基準に合うものか、業者とよく相談しましょう。
介護リフォームに使える制度を紹介しました。これ以外にも自治体独自の制度が数多くあります。介護リフォームに特化した業者であれば、お住まいの地域で使える助成制度にも精通していますので、安心して相談することができます。
失敗しない介護リフォームのために
失敗しない介護リフォームのために、注意点を紹介します。主な注意点は以下の3点です。
1つずつ紹介していきます。
これまでの移動動作をベースにリフォームを
まず、介護リフォームをするときにはこれまでの移動動作をベースに計画しましょう。普段、どのような動作をしているのかを確認し、手すりを付けるのであればどの場所に手すりを付けたらいいのかを検討します。普段の動作を確認できなくても、壁についた手垢を見て、普段手をついている場所がわかれば、そこに手すりを設置するといつもやっている自然な動きを補助することができます。
高齢者は新しいパターンの動作を身に付けることが苦手です。こっちの扉から入れば安全だとわかっていても、普段の動作を変えようとしない方が大半です。利用する人の生活パターンを無視したリフォームを行っても、使われることなく、無駄なリフォームとなってしまいます。
理学療法士や作業療法士といった専門家にアドバイスをもらうのもひとつの方法ですが、一番大事なのはそれを使う本人にとって使いやすいかどうかです。これまでの生活習慣を活かした介護リフォームを計画しましょう。
リフォームだけではなく、福祉用具を利用する方法も
リフォームだけでなく、福祉用具で対応する方法もあります。ここは工事で手すりを取り付けることが難しいから、福祉用具の手すりを設置しましょう。車いすで外出するのはショートステイに行くときだけだから、段差解消はスロープに公示するのではなく福祉用具のスロープをレンタルしましょう。
このように、福祉用具を活用することで生活の利便性を広げることもできます。工事だけでなく、幅広い選択肢から最適な方法を選ぶことができます。
介護リフォームを行うときには、福祉用具貸与等介護保険事業者としての指定を受けている業者に相談することもできます。
高齢者以外の家族の生活にも注意
介護リフォームするときは、高齢者以外の家族の生活にも注意しましょう。
手すりを付けたことで階段が狭くなり荷物を下ろせなくなった、家族の生活導線が不便になった、という失敗例も少なくありません。
介護リフォームの中心になるのは介護が必要な方本人ですが、それ以外の家族の生活スタイルに影響がないかも必ず確認しましょう。
高齢者夫婦の家で手すりを設置する場合は、夫婦で最適な手すりの高さが異なる場合が多く、どちらに合わせるのか、どちらでもカバーできるようにするのか、という視点も必要になります。
また、介護保険のリフォームや福祉用具だけに限らず、介護保険外でより安全で快適な生活環境を作ることも可能です。家具や家電を新しく購入するのではなく、サブスクで利用できるサービスもありますので、上手に活用していくこともひとつの方法です。
以上の注意点に気を付けたうえで、計画的な介護リフォームをすることが必要です。
このサイト、「いえケア」ではお近くの住宅改修事業者を検索する機能がありますので、ぜひ活用してみてください。
まとめ
介護リフォームについて説明しました。
たかが手すり1本の工事でも、住環境を整えるだけで自立度を大幅に改善することが可能です。制度を使って自己負担も少なくリフォームができるのであれば積極的に活用すべきでしょう。
ケアマネジャーや信頼できる介護リフォーム業者に相談し、計画的に住環境の見直しを行いましょう。
より詳しく知りたい方は、こちらの記事で住宅改修についての詳細をまとめていますので、ご参照ください。