この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
お住まいの市区町村によっては、介護保険サービスを利用せずに重度の要介護者を在宅で介護しているご家族を支援する「家族介護慰労金」という手当があります。家族介護慰労金は、要介護度が高いにもかかわらず、在宅で介護サービスあるいは家族から介護を受けている方にとっては有用な手当です。この記事では、家族介護慰労金の支給要件や申請方法などについて、くわしく解説しています。
★こんな人に読んでほしい!
- 家族介護慰労金の詳細について知りたい方
- 介護サービスの利用を拒んでいる要介護者を介護するご家族の方
- 在宅介護でもらえる手当などについて知りたい方
★この記事で解説していること
- 家族介護慰労金とは、市区町村の在宅介護を支援する手当のひとつで、名称はこの限りではない。支給額は市区町村によって異なるが、年額10万程度支給されることが多い
- 家族介護慰労金の支給対象者や条件も市区町村によって異なる。「要介護4または5の要介護者を、介護保険サービスを利用せずに1年以上在宅介護をしているご家族」を条件としている市区町村は多いが、より条件が厳しい場合もあれば、緩和されている場合もある
- 家族介護慰労金の申請先は市区町村の高齢者福祉課や介護保険課となる。くわしい支給対象や要件、必要書類、申請期限などは窓口で確認しましょう
- 家族介護慰労金を廃止する市区町村も増えている。手当を得るために家族だけで介護を負担するのではなく、適宜適切な介護サービスを利用するようにしましょう
- 家族介護慰労金以外にも、利用できる可能性のある補助金や給付金、制度などはたくさんある。市区町村独自の支援制度もあわせて、利用できるものがないか確認しましょう
1. 家族介護慰労金とは?
1-1.「家族介護慰労金」とは、市区町村の在宅介護を支援する手当のひとつで、年額10万円程度が支給される
「家族介護慰労金」とは、介護保険サービスを利用せずに重度の要介護者を在宅で1年以上介護している家族の方などで、要件を満たした方に支給される、市区町村の実施する手当です。家族介護慰労金という名称ではなく、「ねたきり高齢者介護者慰労金」や「在宅高齢者介護手当」などの名称となっている市区町村*1.2.3.4もあります。また、家族介護慰労金そのものを実施していない市区町村も多くあります。
市区町村によって支給額は異なりますが、年額約10万程度を支給している市区町村がほとんどです。
1-2. 支給対象者や条件は地域によって異なるが、要介護4を基準にしている市区町村が多い
家族介護慰労金の支給対象や条件は、市区町村によって異なりますが、概ね以下の通りとなっている市区町村*5.6.7.8が多いです。
市区町村によっては、上記に加え「医療機関に90日以上入院をしていない」などの条件が加わる場合もあれば、「介護保険サービスの利用実績の平均が何日以下」など、標準的な条件より緩和されている場合もあります。
多くの市区町村の場合、要介護4または5と認定された方の介護者を対象としていますが、「要介護2または3以上」としている市区町村もあります*4.9.10。支給要件の審査後、要件を満たした場合、介護状況の調査のために地域包括支援センター職員などが自宅を訪問する場合もあります*5。
くわしい支給対象者や条件は市区町村によって異なるため、お住まいの市区町村でご確認ください。
2. 家族介護慰労金の申請先や申請期限
2-1.申請窓口は市区町村の高齢者福祉課や介護保険課
家族介護慰労金の申請先は、要介護者と介護者がお住まいの市区町村の介護保険課や高齢者福祉課などが窓口となります。
申請に必要な書類は市区町村によって異なりますが、支給申請書のほか、支給条件を確認できる書類(住民票、介護保険被保険者証、非課税証明書など)、口座振替依頼書などを求められることが多いです。支給対象者や要件などとあわせて、市区町村の窓口で申請に必要な書類も確認しましょう。
2-2.申請できる期間は市区町村によって異なるため、確認が必要
申請のタイミングは、家族介護慰労金の支給要件を満たしたときです。申請できる期間(申請期限)を、「対象となる期間が終了した日の翌日から1年間」としている市区町村*11や、「支給要件を満たした年度の年度末」、あるいは「その年の年内営業日まで」としている市区町村*10.12もあります。
市区町村によって申請期限は異なるため、要件を満たしたタイミングで、いつまでに申請しなければならないのか確認しておくことをおすすめします。要件を満たしているのに、申請期限が過ぎてしまったせいで手当がもらえなかった、ということがないように注意しましょう。
3.家族介護慰労金は無理をしてまで受け取る必要はない
家族介護慰労金は、介護保険制度の発足後、介護保険サービスの内容や量が十分ではなく、家族が介護の大部分を担っていたことから、その負担軽減を図るための事業として実施してきた背景があります。
介護サービスの整っていない離島やへき地などでは助かる制度ではありますが、現在では、日本全国で介護保険を利用して受けられる介護サービスは充実しており、要介護者の心身の状況に応じた適切なサービスを受けられる環境が整ってきています。
一方、支給要件に「1年間介護保険サービスを利用していない」という内容を入れたことで申請数が少なく、且つ必要な介護サービスまで利用を控えてしまうのではないかという懸念もあり、申請数も少ないことからも、その意義を問われており、家族介護慰労金を廃止、あるいは廃止を検討する市区町村*13.14.15も出てきています。
介護保険の本来の目的は、介護を社会全体で担うこと。介護を社会化することでした。でも、介護慰労金は介護サービスを使わない代わりに給付金を支給するというもので、介護保険の目的と逆行するという見方もできます。
慰労金という制度を推奨することで、在宅介護で孤立してしまう介護者がいては本末転倒です。そのため、あまりこの家族介護慰労金という制度が知られていないという面もあります。
家族介護慰労金を得るために、介護サービスを全く利用せず、家族だけで介護を負担するのではなく、適切に介護サービスを利用するようにしましょう。
4. 在宅介護の方が利用できる介護保険サービスや、知っておきたい補助金・給付金・制度など
4-1.在宅介護で利用できるサービスは充実している
現在、介護保険サービスは充実しており、要介護者の状態や状況に応じた適切なサービスが利用できるようになっています。介護保険を利用した、在宅介護サービスを紹介します。
介護保険を利用した在宅介護サービス*16
自宅に訪問してもらう | 訪問介護(ホームヘルプ) | ヘルパーが自宅を訪れ、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活支援(生活援助)を行う |
訪問入浴 | 看護職員と介護職員が自宅を訪れ、持参した浴槽により入浴の介助をする | |
訪問看護 | 看護師や保健師が自宅を訪れ、主治医の指示にもとづいて療養上の世話や診療の補助などを行う | |
訪問リハビリ | リハビリの専門家が自宅を訪れ、リハビリテーションを行う | |
居宅療養管理指導 | 医師や歯科医師、薬剤師、栄養士などが自宅を訪れ、療養上の管理や指導を行う | |
施設に通う | 通所介護(デイサービス) | デイサービスで、食事や入浴、リハビリテーションを行う |
通所リハビリ(デイケア) | 介護老人保健施設や病院、診療所などで、食事や入浴や、医師の指示のもとリハビリの専門家がリハビリテーションを行う | |
短期間の宿泊 | 短期入所生活介護(ショートステイ) | 介護老人保健施設などに短期間宿泊し、食事や入浴などの介護サービスやレクリエーション、リハビリテーションを行う |
短期入所療養介護 | 医療の助けが必要な方が介護老人保健施設などに短期間宿泊し、医療や看護、リハビリテーションを受ける | |
住環境を整える | 福祉用具貸与・特定福祉用具販売 | 手すりや歩行器など、対象となる福祉用具のレンタルができる。レンタルに向かない衛生用具の購入には費用補助が受けられる |
住宅改修(介護リフォーム) | 手すりの取付けや段差の解消など、対象となる住宅改修の費用補助が受けられる |
このほか、地域密着型サービスなどもあります。
これらの介護保険サービスは、サービスにかかった費用の1割(一定以上の所得の方は2割または3割)の自己負担で利用することが可能*17です。
在宅介護におすすめのサービスや特徴、かかる費用など詳細はこちらの記事でくわしく解説していますので、ぜひご覧ください。
4-2.介護費用の負担を軽減できる補助金や助成金、制度
「家族介護慰労金」以外の、介護費用の負担を軽減できる補助金や助成金、制度などをご紹介します。
利用できる可能性のある補助金や助成金、制度の一覧
住宅改修費給付(介護保険の給付対象) 特定福祉用具購入費給付(介護保険の給付対象) 高額介護サービス費制度 高額医療・高額介護合算療養費制度 介護保険負担限度額認定(特定入所者介護サービス費) 特別障害者手当 介護休業給付金 |
これらは国の制度や補助金ですが、「家族介護慰労金」のように、介護を支援する手当や制度を独自に設けている市区町村も多くあります。市区町村の補助制度の例を紹介します。
市区町村の補助制度の例
名称 | 市区町村 | 内容 |
在宅寝たきり高齢者介護者慰労事業 | 中央区*18 | 要介護2以上の寝たきりや認知症の高齢者を、日常的に在宅で介護している方に、食事・マッサージ共通券や旅行券など合計3万円分を限度に年1回支給 |
介護用品購入費支給 (紙おむつなどの支給) | 今治市、八代市など*19.20 | 在宅介護をされている方を対象に、介護用品(紙おむつ、尿取りパッド、防水シート、おしり・からだ拭きなど)購入費を支給。介護用品の購入に利用できる介護用品券を支給している自治体もある |
徘徊高齢者位置情報探索サービス利用費補助金 | 今治市、岡崎市など*21.22 | 認知症で徘徊の症状がある高齢者を在宅で介護している方が、位置情報探索サービスを利用する際、その初期経費(加入金、事務手数料、機器購入費など)を補助する |
高齢者見守りサービス助成金 | 葛飾区*23 | 一人暮らしなどの状況にある高齢者の日常生活を見守るサービスを家族が導入する際、その初期設置費用などを助成する |
熟年者奨励手当 | 江戸川区*24 | 60歳以上の要介護4・要介護5で在宅の方に在宅月数に応じて月額を支給 |
この章で紹介した補助金や制度は、こちらの記事でくわしく解説しておりますので、ご確認ください。
市区町村が実施している、介護を支援するための補助金や給付金、現物支給サービスなど、利用できる支援や手当がないか、お住まいの地域の市区町村の窓口に確認し、活用するようにしましょう。
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