いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
ユーザーの方から届いた質問に介決サポーターがお答えします。
今回も悩める介護者の方から質問をいただいています。
今日の質問は高齢者の転倒に関するご相談です。
質問「父が転倒しないようにするにはどうしたらいい」
86歳になる父と同居しています。
先日、夜中にトイレに行こうとして、トイレのドアの前で転倒しました。幸い、大きなケガにはならなかったのですが、やはり足腰はだいぶ弱くなっているんじゃないかと思います。
私の知り合いの方でも、転倒・骨折後に寝たきりになったという方や、認知症になったという方もいると聞いていたので、他人ごとではないと危機感を覚えました。転倒して骨折でもしたら大変なので、一人で歩かないように言っているのですが、何度話しても言うことを聞きません。
父が転倒しないようにするにはどうしたらいいでしょうか。
―――という質問でした。
では、今回も在宅介護の強い味方「介決サポーター」からのアドバイスをお願いします。
介決サポーターがお答えします!
ご相談ありがとうございます。
お父様が転倒したことをきっかけに、転倒することに対して心配をされているということですね。
ただ、結論から申し上げますと、「絶対に転倒させない方法」というのはありません。どんなに手厚い介護をご自宅でされていたとしても、また、介護職員の配置が充実した介護施設で生活したとしても、転倒というリスクをなくすことはできません。
では、足腰の衰えが見えるお父様にどのようなケア・サポートが必要なのか、一緒に考えていきましょう。
転倒のリスクと「転倒させない」ことのリスク
転倒の多くは自宅内で起きている
高齢者にとって転倒は大きなリスクのひとつです。
東京消防庁のデータによると、65歳以上高齢者が救急搬送される日常生活事故のうち821.1%は転倒による事故となっています。転倒による高齢者の救急搬送数は年々増加し、令和元年では都内で59,816人が救急搬送されています。その転倒事故の半数以上は、寝室や玄関、廊下など住み慣れた自宅内で起きています。
また、年齢が高くなるにつれて中等症以上の割合が高くなります。加齢に伴い、骨密度が低下し骨折しやすいことや、転倒する際にとっさに体をかばうことができないなど、高齢者の転倒事故は中・重度の事故につながりやすい特徴があります。
以上のことから、転倒は高齢者にとって、普段の生活の中に潜む大きなリスクであると言えます。
転倒させないためには、歩くときは必ず介助をして一人で歩かせないようにする、という方法もあるかもしれません。ただ、24時間365日そのような介護ができるでしょうか。トイレに行くことひとつにも誰かを呼ばなければできない、誰かが来るまで待たなければいけない、という日常が続けば、介護する側・される側にとって大きなストレスとなり、高齢者の自尊心は失われていくのではないでしょうか。
歩く機会が少なくなることで、筋力は低下し、自分の足で体を支えられなくなるようになり、介助してもうまく歩けなくなります。そうなると、たとえ介助があっても転倒を防ぐことはできません。
つまり、転倒させないようにと、歩く機会を制限していくことで、歩く力は失われていき、さらに転倒のリスクが大きくなるのです。転倒を避けるための「安全」を選択したはずが、さらにリスク要因を大きくしてしまうのです。
歩かせなければ運動機能は衰え、さらに転倒のリスクは高くなる。
極端な話、転倒をさせないためには「ベッドから出られないようにする」しかないのです。ただし、これはもちろん高齢者虐待にあたりますので、現実的にはできません。
転倒へのリスクが過敏になればなるほど、歩く・外出するなどの行動を制限するようになり、かえって本人の運動機能を低下させることになります。むしろ転倒リスクがあったとしても、歩いてもらうことの方が機能維持につながります。
転倒させない、ではなく、転倒のリスクを減らしつつ、歩いてもらうことを意識しましょう。
次の章では、転倒リスクを減らすためにできることを紹介していきます。
転倒リスクを減らすためにすべきこと3つ
転倒リスクを減らすためにできること、大きなポイントは3つです。
転倒予防のための3つの対策について解説していきます。
運動機能を維持・改善する
転倒予防のためにできること、ひとつ目は運動機能を維持・改善することです。
加齢や疾患に伴い、筋力の低下・バランス能力の低下・反応速度の低下など、運動機能が低下することによって転倒リスクが高まります。
- 足が思うように上がらなくなり、今まで難なく越えられた段差に足が引っかかってしまう
- 立ち上がろうとしたら足元がふらつき転倒してしまう
- バランスを崩した際に、手すりをつかみ損ねて転倒してしまう
若い時の筋力やバランス能力があれば何でもないことが、加齢によって転倒を防ぐことができず、骨折などの重大事故につながってしまうのです。
大事なポイントは運動機能を維持・改善するための生活習慣です。
加齢による運動機能の低下だけでなく、外出や運動をしない不活発な運動習慣により、さらなる機能低下を招き、ますます生活が不活発・閉じこもりになっていくという負のスパイラルが起きやすい傾向にあります。この負のスパイラルを断ち切るためには、生活習慣の中に運動機会を取り入れることが必要です。
日常的にウォーキング・散歩などの運動習慣を持つこと、ストレッチや筋力トレーニングを自宅ですることが、転倒予防につながります。
通所リハビリテーション施設や、運動機能強化に特化したデイサービスなどで定期的に運動すること、スポーツジムや体操サークルなどに参加することも効果的です。いつもはバスやタクシーを使って外出する距離を歩いてみる、ボランティアや自治会主催の集まりに積極的に参加するなど、外出機会を増やすことで、普段の日常生活の中に運動習慣を作ることもできます。
衰えた筋力を運動することによって蓄え、体幹の機能をトレーニングすることによって強化し、転倒リスクを軽減することができます。運動するのに遅すぎることはありません。運動したらその分結果がついてきます。
運動機能を維持・改善することで転倒のリスクを大幅に減らすことが可能です。
このサイトではお近くのデイサービス事業所や通所リハビリテーション事業所などを検索することができますので、
よろしければ希望に合った事業所がないか探してみてはいかがでしょうか。
転倒予防のためにできることひとつ目、運動機能を維持・改善することを解説しました。
転倒のリスクを減らすための環境をつくる
転倒予防のためにできること、ふたつ目は転倒のリスクを減らすための環境をつくることです。
すでにお伝えした通り、高齢者の転倒事故の半数以上は自宅で起きています。転倒するのには筋力の低下など身体的な要因だけでなく、環境が要因になるものもあります。日本の住宅の特徴として、家屋が狭いことや段差が多い、階段の傾斜角度が急傾斜であるなど、転倒につながりやすい構造的な問題もあります。高齢者の住まいの環境を整えることで転倒事故を防ぐことができます。
介護保険では保険給付を受けて住宅改修をすることができます。具体的には以下のような工事が保険給付対象となります。
バランスを崩したときや立ち上がるとき、手すりがあれば手の筋力で体を支え、衰えた足の筋力を補うことができます。段差を小さくすれば、足が思うように上がらなくても段差に躓くことがなくなります。このように、住宅改修によって環境を整えることで転倒のリスクを減らすことができます。
それ以外にも、杖や歩行器などの福祉用具を活用することも転倒リスクを減らすのに有効です。介護保険で福祉用具をレンタルすることが可能です。
運動機能の衰えを住宅改修や福祉用具の活用など環境面でカバーし、転倒リスクを減らすことができます。
介護リフォームについてはこちらの記事でまとめていますので、興味ある方はご覧ください。
過ごす部屋の環境をより適したものにすると、それだけで転倒リスクも大きく減少します。
転倒予防のためにできることふたつ目、転倒リスクを減らすための環境づくりを解説しました。
転倒を重大事故にしないための環境をつくる
転倒予防のためにできること、みっつ目は転倒を重大事故にしないための環境づくりです。
筋力をつけても、転倒しにくい環境にしたとしても、転倒を絶対にしないということはあり得ません。転倒事故が起こる可能性をゼロにすることはできません。そのため、転倒したときに骨折などの重大事故にならないよう、被害・ダメージを少なくすることも重要な対策です。
床材をクッション性のあるクッションフロアにすることで、転倒の衝撃を小さくし、骨折のリスクを減らすことができます。ベッドからの転落が頻回に起こるのであれば、ベッドの高さを低床にし、転落してもダメージを避けることもできます。転倒したとしても自力で起き上がりやベッドへ戻る動作ができるように立ち上がりや移動動作の練習をすることもひとつです。
「転倒事故を起こさない」という考えに固執せず、起きたとしても重大事故につながらないようにするアプローチも重要です。
転倒予防のためにできることみっつ目、転倒を重大事故にしないための環境づくりを解説しました。
転倒事故に対する3つのポイントを解説しました。
以上のポイントを踏まえて、何ができるのか、家族・ケアマネジャー・専門職等と相談しながら最善の方法を検討していくことをお勧めします。
まとめ
ここまでお伝えした通り、転倒のリスクをゼロにすることはできません。
転倒が重大事故につながる可能性は大きいものの、過度に警戒することでかえって運動機能低下・廃用のリスクが高まります。
転倒のリスクを軽減するために、運動習慣や環境の整備などを行い、いきいきと生活できるようサポートしていくことをお勧めします。
この記事を執筆・編集したのは
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