いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
訪問介護サービスは自宅にホームヘルパーが訪問し、身体介護や生活援助といったサービスを提供します。サービス利用者の生活の基盤を支える重要なサービスですが、何でもできるわけではありません。
誤解を生みやすい訪問介護サービスの提供内容について紹介していきます。
訪問介護はお手伝いさんや何でも屋さんではない
最初に断っておきますが、訪問介護はお手伝いさんや何でも屋さんではありません。言われれば何でもやる仕事ではなく、できないことがあります。
なぜ訪問介護のサービス内容は細かく決められてしまうのか、なぜ使いにくいと感じてしまうのか、訪問介護サービスの特徴も含めてお伝えします。
介護保険の制度上、定められたサービスしか提供できない
訪問介護サービスは介護保険のサービスです。制度に定められたサービス内容・ケアマネジャーがプランに位置付けたケア内容しか提供できません。
なぜそんなに融通が利かないのか。それは、保険給付のサービスだからです。
全額自腹で払う契約であれば制度上の縛りはありません。ただし、介護保険制度のサービスとして行われる以上は、費用の7割から9割分は介護保険から事業者に支払われます。その介護保険の財源となっているのは、国民が支払う保険料と税金です。保険料と税金を投入するサービスを、好きなように使っていい訳はありません。
要介護認定を受けているからといって、何でもかんでも介護保険でサービスを利用することはできません。サービスの不正利用・不適切なサービスとみなされます。不適切なサービス提供に関しては、事業者側も不正受給として処分を受けるため、厳格にルールを守らなければいけません。
介護保険サービスである以上、ルールに則っていないサービスは提供できないという事情があるのです。
訪問介護サービス事業所やケアマネジャーに相談を
じゃあ、訪問介護サービスってどこからどこまで大丈夫なの?という疑問が生まれます。
もちろん、厳格にルールで定められている部分もありますが、個別具体的な状況によってAさんは必要性が認められるけれど、Bさんはダメ、という場合もあります。また、市町村によって判断が分かれるケースもあります。
どこからどこまで介護保険で認められるのか、これは訪問介護でお願いしていいのか、疑問があれば、訪問介護事業所の管理者やサービス提供責任者、担当のケアマネジャーさんなどに質問してみましょう。市役所などに確認してもらうことや、別の解決策などを提案してもらうことなどもあります。ひとりで悩まないで相談することが一番です。
2種類ある訪問介護サービス
まずは、介護保険上の訪問介護サービスには、どんな内容が位置づけられているのかを解説します。訪問介護サービスは大きく2つの種類に分かれます。
まずはこの2種類の訪問介護サービスの特徴と違いを説明します。
身体介護
身体介護は、簡単に言えば利用者の身体に触れて介助を行うサービスです。定義としては以下のように定められています。
- 利用者さんの身体に直接接触して行う介助サービス
- 利用者さんのADL・IADL・QOLや意欲の向上のために、利用者さんと共に行う自立支援・重度化防止のためのサービス
- その他専門的知識・技術をもって行う利用者さんの日常生活上・社会生活上のためのサービス
具体的なケアの内容は以下のようなものになります。
- 食事
- 排泄や更衣、洗面、入浴
- 体位変換や移乗、移動
- 通院や外出
- 利用者自身が家事を行う際の声掛けや見守り
- 服薬など
これに加えて、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアに関しても、一定の研修を受けた介護職員であれば実施できます。
身体介護では見守り的援助というケアも認められています。利用者本人の自立支援のために家事を行う際に、見守りや声掛けでサポートすることも身体介護に含まれます。利用者自身の自立支援のためにヘルパーと利用者がともに行う家事は身体介護、ヘルパーだけが行う家事は生活援助として区分されます。
生活援助
生活援助は主にヘルパーが行う家事の支援です。
具体的には以下のような内容となっています。
利用者の代わりにヘルパーが掃除・調理・洗濯・買物といった家事を行うのが生活援助です。
身体に直接触れて日常生活上の介護を行う身体介護に対し、生活援助は利用者の身体に触れずに利用者の代わりに家事を代行するサービス。家族の中に家事を行うことができる同居家族がいれば、生活援助のサービスは認められません。
身体介護と生活援助が基本ですが、それ以外にも車両への乗降介助を行う通院等乗降介助というサービスがあります。この3種類に該当しないサービスは介護保険では認められません。
訪問介護サービスについての詳細やサービス事業所の選び方はこちらの記事をご参照ください。
では、介護保険では認められないサービスとは、どのようなものがあるのか。次の章で具体的に紹介していきます。
介護保険サービスではできないこと
具体的に、訪問介護でお願いすることのできない内容を確認していきたいと思います。
ただし、特殊な事情などにより、保険者である市町村の判断で許可が出る場合もあります。ここから紹介するのはあくまで原則的なルールとして理解いただければと思います。
介護保険ではできないこと
介護保険ではできないことの例として、9つの例を紹介します。
訪問介護で介護保険対象外となる理由を1つずつ詳しく見ていきます。
利用者の「家族」の分の掃除・調理・買い物など
訪問介護の生活援助で行うサービスは、家族の支援はできません。あくまで本人への支援となります。同居家族がいる場合、生活援助のサービスは厳しく制限されると理解しましょう。
例えば、買い物ついでに家族分の食品を購入するようにお願いしたり、家族分の衣類洗濯をお願いしたり、家族の部屋の掃除をお願いすることはできません。
掃除に関していえば、同居家族との「共有部分」であるトイレ・浴室などの掃除はヘルパーにお願いすることは原則としてできません。掃除をすることができる家族が同居しているのであれば、同居家族が掃除をするか、保険外で掃除業者に依頼することになります。
同居家族がいたら生活援助のサービスは絶対に認められないわけではなく、認められる内容もあります。夫婦がともに介護認定を受けている場合や、もしくは介護認定を受けることができない事情がある場合、または虐待などの問題によりヘルパーが支援しなければいけない場合なども生活援助の利用が可能になる場合があります。
1人暮らしであっても、生活援助の利用は要介護認定区分ごとに一か月ごとの基準回数が定められており、頻回な生活援助の利用は認められない場合があります。
草むしり・庭の手入れ
庭の手入れや草むしりなどは介護保険では認められません。
庭が荒れ放題になっている、草が伸びて虫も湧いてくる、など庭の手入れをお願いしたい事情はそれぞれにあるのだと思います。ただ、介護保険では認められません。
ヘルパーにはお願いできないため、シルバー人材センターや地域のボランティア団体などにお願いする場合が多いようです。
日常生活で使用しない場所の掃除
本人が日常生活で使用しない場所に関して、ヘルパーは掃除できません。
2階に上がることはないのに、2階も掃除してほしい、というのはできません。本人以外の部屋ももちろん掃除できません。あくまで日常生活で使用しているかどうかがポイントになります。
ペットの散歩・餌やり
ペットの世話もヘルパーにはできません。
餌やりや散歩、ペットの排せつ物の処理もできません。買い物のついでにペットフードを購入することもできません。ペットも大事な家族の一員で心の支えになっている、とはいえ、家族分の食事や介護ができないのと同様、ペットに対するケアも介護保険対象外となります。
エアコンクリーニング・換気扇の掃除などの日常的ではない掃除
日常的な家事として行わない大掃除などは訪問介護の対象にはなりません。
油にまみれたレンジフードの掃除・換気扇を取り外しての掃除、エアコンクリーニングなどは介護保険の対象になりません。あくまで日常的な掃除を提供するのが訪問介護です。
エアコンのフィルター掃除などについては判断が自治体によって分かれることもあるようです。利用者が気管支ぜんそくのためにホコリでぜんそくの悪化の恐れがあるなどの場合は、ホコリの溜まりやすいフィルターや電球の傘なども掃除が認められる傾向があります。
同じ理由で、窓ふきも日常的な家事と認められないことが多く、介護保険対象外となる場合が多いです。ただ、窓の外を眺めるだけしか楽しみがない寝たきりの高齢者が、窓が汚れ、外を見ることすらできなくなる、というケースで窓ふきが認められた事例なども過去にはあります。
どこまで介護保険の範囲で認められるか、自治体の見解や個別の判断に委ねられる場合もありますので、確認しましょう。
家具・家電の修繕・移動・模様替えなど
部屋の模様替えをしたい、このタンスを動かしてほしい、と言われても訪問介護では対応できません。
男性のヘルパーさんなどもいますので、力仕事をお願いしたくなることはあるかもしれませんが、介護保険で行うことはできません。パソコンや携帯電話が壊れたから直してほしい、というのもヘルパーの業務範囲ではないので、専門業者に相談しましょう。コンセントが抜けたから差してほしいとかはできますが、専門外のことをお願いしてトラブルになる可能性もあり、ヘルパーで対応することはできません。
衣類の整理や夏・冬物の入れ替え(衣替え)などは訪問介護の内容として認められています。
電球交換については自治体によってルールが異なり、独居などの理由があればOKとしている地域もありますので、ケアマネジャーさん等によく確認することをお勧めします。詳細はこちらの記事をご確認ください。
酒・たばこなどの嗜好品の購入
酒やたばこは嗜好品として、訪問介護での買物では認められません。
訪問介護で購入できるのは日常的に必要な品物に限定されることや、酒やたばこは健康被害につながることから保険給付に馴染まないという見解です。それ以外にも、宝くじやお中元やお歳暮の購入なども介護保険では認められません。
病院内待ち時間の付き添い
通院介助の際、病院内での待ち時間は介護保険の対象になりません。病院内は医療機関の中ということで、訪問介護は適用外となってしまいます。病院内では病院が責任を持って対応するのが原則的なルールとなっているため、訪問介護はサービスを提供できないことになっています。
ただ、病院が人手不足などの事情で対応できないという事情や、頻回なトイレ介助や認知症のために座っていることができないなどの事情により訪問介護が対応する必要がある場合は介護保険の適用が認められています。この部分に関してはケアマネジャー・訪問介護事業所・病院も含めた判断が必要になります。
医療行為
医療行為も訪問介護では提供できません。ヘルパーは医療従事者ではないため、医師法第17条“医師でなければ、「医業」をなしてはならない。”というルールにより、医療行為はできません。
医療行為が必要な場合は、医師の指示を受けた訪問看護師などが対応することが基本です。ただ、たん吸引や経管栄養の注入などは、研修を受けた介護職員に限り可能なルールもあります。
また、以下の行為は医療行為に当たらないとされていますので、訪問介護でも対応することが可能であるという見解が示されています(医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知))。
医療行為に該当するのか、ヘルパーで対応可能なのかは、ヘルパー事業所やケアマネジャーとよく相談して確認しましょう。
訪問介護で対応できない内容について解説しました。
保険給付である以上、ついついお願いしたいと思ってしまう内容でも、保険内で提供できないことが多いことがわかります。
でも、「できません」と杓子定規に言われても困ってしまいます。訪問介護でできないのであればどんな方法で解決できるのか、次の章でそんな「困った」の解決法をお伝えします。
介護保険でできない場合の解決方法
介護保険で解決できないときには、これから紹介する3つの方法を検討してみましょう。
保険外サービスを利用する
介護保険で対応できないことは、介護保険外で対応しましょう。
すべての困りごとを介護保険だけで解決するということはできません。介護保険外のサービスも組み合わせて課題を解決することが必要です。
自費サービスオプションを利用する
訪問介護事業所では、介護保険外の自費サービスをオプションとして提供している場合があります。保険で対応できない部分を、ヘルパーが保険外の料金をもらって対応します。
ペットの世話や庭の手入れ、家族の分の食事なども含めて保険外のサービスを提供することが可能です。ただ、ヘルパーにも能力的にできないことがあります。例えば、高所での危険な作業や専門知識が必要なことなどは対応できません。どんなサービスが提供できるのかは事前に確認しましょう。
一般的に、介護保険分と介護保険対象外の分を続けて提供することが多く、1時間は介護保険分・30分介護保険外分も追加のように設定をします。
料金は事業所ごとに異なります。介護保険の訪問介護の契約とは別に自費サービス契約が事前に必要になりますので、あらかじめ確認しておきましょう。
シルバー人材センターやボランティア団体などを利用する
地域のシルバー人材センターやボランティア団体にお願いすることもできます。
シルバー人材センターには庭の剪定や家具の移動などを得意とする男性ボランティアの方も多く登録しています。介護保険で対応できない作業も対応してくれます。地域の高齢者等がボランティアで自主グループを作り、地域の困りごとの解決をしてくれる場合もあります。
料金は団体や作業量によっても異なります。作業料以外に年間登録料などがかかる場合もありますので、事前に料金を確認しましょう。
介護保険だけに頼るのではなく、地域の助け合いなども活用しながら生活を維持する。厚生労働省の目指す「地域包括ケアシステム」では様々な主体が地域の課題解決に積極的にかかわることを理念としています。地域にどんな社会資源があるのか、ケアマネジャーや地域包括支援センターに確認しておくといいでしょう。
訪問介護事業所の現状
最後に訪問介護事業所の現状について説明します。いま、訪問介護事業所はどんな問題に直面しているのでしょうか。
慢性的な人手不足
訪問介護は今、深刻な人手不足となっています。
訪問介護のサービスを提供するホームヘルパーのなり手が少なく、訪問介護事業所は人員を確保することが困難になっています。厚生労働省の調べでは訪問介護の有効求人倍率はなんと15倍となりました。
訪問介護の仕事をしたいという人ひとりに対して、15社の企業が求人を出しているという有効求人倍率、まさに事業者によるホームヘルパー争奪戦が起きています。
介護報酬の単価が少ないため給与も安く、移動時間も多いため拘束時間が長く、利用者からのハラスメント被害を受けることもあるなど、ホームヘルパーが働く環境はまだまだ改善しません。求人を出してもなかなかホームヘルパーをしたいという人は集まらないというのが現状です。
ホームヘルパーの高齢化
ホームヘルパーの高齢化も深刻です。
令和2年度の介護労働実態調査によると、ホームヘルパーのうち25.6%、つまり4人に1人は65歳以上であることがわかりました。
反対に30歳未満のホームヘルパーは4%にも届きません。
ホームヘルパーをお願いしたら自分よりも年齢が上の人が来たという話も、決して珍しいことではなくなりました。ヘルパーの年齢バランスが偏っていることから、ますますホームヘルパーの人手不足が加速していくことが予想されます。
利用制限の強化
訪問介護はますます使いにくいサービスになっている傾向があります。
生活援助サービスの回数制限、訪問介護サービスの割合が多いケアプランが行政による指導対象になるなど、訪問介護サービスを取り巻く制限が増えています。今後も、訪問介護への縛りは多くなり、自由に使えないサービスになっていくのではないでしょうか。
訪問介護は身体介護に特化したサービスにしていきたいという財務省・厚生労働省の意向が強く反映されており、ホームヘルパーの役割は少しずつ変わっていくのかもしれません。
ホームヘルパーへのニーズは依然として大きいものの、人手不足や利用制限などにより、ホームヘルパーを取り巻く環境は大きく変わっていくことが予想されています。
2024年の介護保険制度改正では訪問介護と通所介護を合体した新サービスがスタートする予定です。人材確保につながる一手になることが期待されています。
まとめ
訪問介護サービスにできること、できないことを紹介しました。
介護保険では対応できないことを、介護保険外のサービスを組み合わせることで解決していくことが求められています。ヘルパーさんに何でもお願いして解決する、という時代ではなく、自分でできることを増やす、いろんな人の協力を得るという形で在宅生活を維持することが求められています。
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
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