この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
介護保険で住宅改修を行うためには「住宅改修が必要な理由書」が必要です。
実は多くのケアマネジャーが、この理由書作成に頭を悩ませているのです。
住宅改修理由書の作成はなぜ大変なのか。
住宅改修理由書を効率よく作るためのポイントはどこにあるのか。
現在住宅改修業者に勤務する元主任ケアマネが、ケアマネジャーや福祉住環境コーディネーターの方向けに、住宅改修理由書の書き方を文例付きでわかりやすく説明します。
記事の内容はこちらの動画にもまとめていますので、ぜひご覧ください。
【この記事を読んでほしい人】
- 理由書の作成でいつも迷ってしまうケアマネさん
- 理由書作成しているけれどもっと効率化したい福祉住環境コーディネーターさん
- 住宅改修理由書の文例が欲しいと思っている方
【この記事で解説していること】
- ケアマネジャーの多くは理由書作成を「面倒」と感じている
- 理由書はどこに何を書くかがわかれば全然怖くない
- 市町村が目に見える費用対効果を感じられるような理由書を作成しよう
住宅改修が必要な理由書について
住宅改修が必要な理由書とは
そもそも住宅改修が必要な理由書とは何か、簡単に説明します。※すでに知っている方は読み飛ばしてください。
住宅改修が必要な理由書は、介護保険で住宅改修を行うために必要な書類のひとつです。
介護保険の認定を受けている被保険者(利用者)が、住宅改修を行うにあたり、どのような状況で、どのような工事を行うことで、どのように生活が改善されることが期待されるかを記載する書類です。
書類を作成するのは基本的には利用者を担当しているケアマネジャーです。疾患や障害などの状況、生活状況、生活環境を把握した上で、どのようなリスクがあるかをアセスメントし、改修前後でどのような効果が期待できるかを記載します。これが「住宅改修を行う理由」として根拠になります。
書類は住宅改修の事前申請とともに保険者(市町村)に提出します。これが着工を許可するかどうかの大きな判断材料となります。
一般的にはこのようなテンプレートの書式が市町村から配布されています(※1)。
住宅改修に関して、全般的な内容はこちらの記事にまとめておりますのでご参照ください。
住宅改修が必要な理由書を作成するのは誰か
理由書を作成するのは基本的にはケアマネジャーです。利用者についてのアセスメントができており、継続的にモニタリングしていて、住環境の動線やリスクなどについてもすべてとは言えなくてもある程度は把握ができています。それらの情報を理由書のテンプレートに書き起こすと理由書が完成します。
ただ、ケアマネジャー以外の方が理由書を作成する場合もあります。以下のような方が作成することがあります。
ケアマネも多数の利用者を抱えており多忙なため作成ができない場合など、様々な事情があります。
また、介護保険のサービスを利用していないため、担当のケアマネがついていない被保険者もいます。このような場合は、ケアマネではなく、上記に紹介したような専門職が理由書の作成を代わりに行っています(理由書作成費が支給される市町村もあります)。
ただ、その条件や資格については市町村によって異なりますので、必ず確認しましょう。
住宅改修が必要な理由書はなぜ面倒なのか
ケアマネジャーさんからは「理由書を作るのは面倒くさい」という本音もちらほら聞こえてきます。
独自アンケート調査ですが、ケアマネジャー203名を対象にした調査によると、「住宅改修理由書の作成は面倒ですか?」という質問に、73.3%のケアマネジャーが「はい」と回答しています(*2)。
そもそも住宅改修が必要な理由書はなぜ面倒なのか。その理由から解説します。
1.あまり作る機会がないから慣れていない
慣れているケアマネジャーであればすぐに理由書を作成することができます。でも時間がかかるケアマネジャーもいます。それは単純に「慣れ」の問題です。
ケアマネジャーが作成する書類には、ケアプランやアセスメントシート、サービス担当者会議録、経過記録、サービス利用表・提供票など多岐にわたります。ただ、これらの書類と比べると、住宅改修が必要な理由書の作成頻度はそれほど多いとは言えません。地域にもよるかと思いますが、年に数回程度というケアマネジャーが多いのではないでしょうか。
あまり作成する機会がないため、書類を作ることに慣れず、毎回どこに何を書けばいいのか戸惑ってしまうことが要因に挙げられます。結果的に、理由書の作成が喫緊の他の業務に押されて後回しになってしまうのはよく目にする光景です。
2.市町村ごとに書式が違う
住宅改修が必要な理由書、すべての市町村が同じ書式かというと、そうではありません。市町村それぞれで異なる書式を用意しています。
最初に示したA4表裏の書式のパターンを使っているところが多いですが、それでもちょっとずつ記載項目が異なります。
まったく異なる書式を使っている場合もあります。
例えば、全国の自治体の中で最も被保険者の多い神奈川県横浜市ですが、A4用紙1枚の書類です(図参照)。
記載項目が少なくてシンプルです(*3)。
他にも変わったテンプレートを使っている自治体もあります。
東京都福生市は以下のようなテンプレートを使っています(*4)。こちらは利用者の現在の自立度と住宅改修後の自立度を記載するようになっています。このように、自治体によって書式はことごとく異なります(全国で統一してくれればいいのに・・・)。
複数の市町村にまたがって事業を行うケアマネジャーも多いので、それぞれの市町村で別の理由書を用意しなければいけません。そして、記載内容も異なるのでどこに何をどう書けばいいのか、混乱してしまいます。
3.理由書の書き方を教えてもらう機会がない
そもそもケアマネジャーは理由書の書き方を教えてもらっていません。
試験合格者を対象にしたケアマネジャーの実務者研修でも理由書の書き方についての講習はありません(今もないと思うのですが)。OJTで職場の先輩ケアマネに教わるしかないのですが、当然先輩ケアマネもちゃんと教えてもらっていたわけではないので、その情報も不正確です。正しい書き方を教わる機会がないので、正しい理由書の書き方を知ることができないのです。
4.市町村のチェック・指摘が入る
理由書をやっとのことで書き上げたとしても、書類提出後に市町村から書き直しを求められることがあります。たいていは些細な内容です。項目のチェック欄が漏れている、誤字がある、施行者が作成した資料との不一致があるなど。
このような指摘事項があり、書類の出し直しを求められると、着工許可が遅れます。利用者側は早めに工事をしてほしいわけですから、ケアマネにとっても理由書作成はプレッシャーになります。ミスのないように書類を作らなければいけないため、余計に面倒に感じるようになります。
これらの事情から、ケアマネに理由書作成に対する苦手意識が生まれ、理由書=面倒 という気持ちにつながってしまいます。
ちなみに、当社の独自調査ですが、「作成した理由書の書き直しを市町村から指示されたことはありますか」という質問に61.1%のケアマネが「はい」と回答しています。半数以上のケアマネは市町村から理由書のダメ出しを受けたことがあることになります(*5)。(私もあります)
それでは、次の項目からは理由書作成を効率化できるように、作成のポイントを紹介していきます。
住宅改修の必要な理由書作成のポイント
では、標準的な理由書書式テンプレートをもとに、理由書を効率よく作成するポイントを紹介していきます。もし、もっと詳しく知りたい方は、社団法人シルバーサービス振興会が作成した「住宅改修が必要な理由書」作成の手引きという資料がありますので、そちらを読んでいただくといいかと思います(*5)。
まずは、理由書の書式をいくつかの大きなまとまりに分けて見ることです。どこに何を書くのかがわかっていれば、理由書を書くのは全く怖くありません。慣れれば作成するまで30分もかかりません。
まずは表面から説明していきます。
①利用者の基本情報
これはおそらく迷わないと思うのですが、住宅改修を行う利用者の基本情報です。
[被保険者番号・氏名・年齢・生年月日・性別・要介護度・住所]を記載します。市町村によっては電話番号の記載欄がある場合もありますが、ここは悩まずに記載できるかと思いますのでさっと飛ばしましょう。本当はケアプランソフトから理由書を出力できれば面倒はないのですが・・・。
②作成者情報
これもおそらく大丈夫だと思うのですが、書類作成者の情報です。ケアマネジャーが作成する場合はケアマネ事業所の名称で作成します。福祉住環境コーディネーターが作成する場合はその所属事業所の名称で作成します。押印欄がある場合もありますが、最近の書式は押印欄は少なくなっていると思います。
現地確認日は自宅の状況を確認した日、作成日は書類を作成した日です。現地を確認してから書類を作成するという順番になっているはずです。順番が逆にならないように気を付けましょう。確認日の日付の方が後になっていると指摘が入ります。
③利用者の身体状況
ここには利用者の身体状況を記載します。以下のような流れで書いていくとわかりやすいです。
- 疾患名・障害名など、動作が困難になっている要因
- 生活動作の様子
- 屋内/屋外の歩行状況
具体例は以下のようなものになります。
身体状況やADLがわかる内容にしましょう。歩行状況は、杖歩行・歩行器使用・手引き歩行など、具体的に書くとわかりやすいです。屋外の住宅改修をする場合は屋外の歩行についても記載します。
要支援の方であれば、予防プランの「運動・移動の状況」の欄をそのまま抜き出して書くくらいの気持ちで内容は埋まります。
④利用者の介護状況
どのような介護を普段受けているかを記載します。家族や介護サービス事業者など、誰が、どんな支援をしているのかをわかりやすく書きましょう。事業所名などの固有名詞は出さないようにしましょう。
- 家族および介護サービス事業者が、どのような支援を、どのくらいの頻度で行っているか
⑤利用者は日常生活をどう変えたいか
これはまとめみたいな部分になっています。今の現状を踏まえて、住宅改修でどうなりたいのかを記載します。裏面の「⑧改修の効果」と混同しやすいのですが、こちらは生活全般を見て、総合的に住宅改修による効果・期待を記載する項目となります。
- 現在の暮らしをどう変えたいか、または、今の暮らしを維持していきたいか
- 自立支援の観点を意識して書くといい
⑥改修前後の福祉用具利用状況
ここには福祉用具利用状況を記載します。
改修前に使用していた福祉用具で、改修後に撤去するものがないか確認しましょう。例えば、レンタルで利用していた手すりがあって、住宅改修でレンタル品が不要になるのであれば改修後のチェックを外しておきましょう。
- 現在利用している福祉用具と、改修後利用していると想定される福祉用具
- 改修後に利用開始するものではなく、改修後の生活で必要な福祉用具なので、前後が同じになる場合が多い。
これで表面は完成です。次は裏面に入ります。
⑦改善したい生活動作
生活動作の中で何が困難なのかを記載します。排泄・入浴・外出・その他というそれぞれの項目別にあてはまる内容にチェックを入れ、その具体的な内容を記載します。どんな動作で困っているのか、より具体的な記述内容の方がわかりやすいです。「段差があって困っている」だけではなく、「なぜ段差が越えられないのか」がわかりやすく書いてあるといいでしょう。
以下のような書き方が一番わかりやすいのではないでしょうか。
- ○○(住環境上の問題)があり、〇〇(症状・機能不全)があるため、○○(できない動作)で困っている。
- 〇〇(住環境上の問題)があり、○○(症状・機能不全)があるため、○○(転倒など)のリスクがある。
住環境の問題に関しては、段差の高さや階段の段数など、具体的な数字などを書くといい、という方もいますが個人的にはあまり気にしないでいいかなと思います(図面や写真資料なども提出しているので)。どんな動作ができずに困っているのかを明確にしましょう。
⑧改修による効果
改修をすることでどんな効果が期待されるかを記載します。表面の「⑤利用者は日常生活をどう変えたいか」の内容が生活全般を見た全体的な内容なのに対し、ここではその場面・その動作をピンポイントでフォーカスし、より具体的な内容を書きます。
- ○○(改修場所)の〇〇(改修内容)をすることにより、○○(改善したい動作)が(安全に/ひとりで/負担なく)できるようになる。
- ○○(改修場所)の〇〇(改修内容)をすることにより、○○(改善したい動作)における転倒のリスクを軽減できる。
⑨改修内容
具体的な改修内容を書きます。改修する場所と改修内容が記載されていれば大丈夫です。
[手すりの取付/段差の解消/扉の交換/便器の取替/床材の変更/その他]という住宅改修の項目ごとに分かれています。これは「段差の解消と床材変更のどっち?」みたいな改修もあるので注意しましょう。すでに住宅改修の担当者から住宅改修に関する図面や写真資料をもらっているのであれば、その書類に記載されている項目名に合わせて記載するといいでしょう。
- 〇〇(場所) 〇〇の○○(手すりの取付など)
以上が項目ごとの住宅改修理由書の書き方のポイントです。
手すりの取付けなどのパターンは非常に多いので書き方には迷わない!という方は多いです。でも、扉の交換など、あまり頻回に登場しないパターンだと、どう書けばいいのかわからない!と迷ってしまうという声も聞きます。
扉の交換にスポットを当てて、扉の交換の効果や書き方のポイントを以下の記事で紹介しています。文例・記載例も含めてご参照ください。
大事なのは、住宅改修による費用対効果の大きさを証明すること
市町村に絶対「うん」と言わせる理由書はどんな理由書か。記載事項に間違いがないことはもちろんですが、住宅改修が本人のために効果が大きいことを示すことが重要です。
特に、市町村にとっての費用対効果・コストパフォーマンスの大きさを示してあげるといいでしょう。
住宅改修も1~3割は自己負担ですが、市町村にとっても費用が掛かります。でも、住宅改修をすることでそれ以上の費用対効果が期待できるとなれば、市町村も喜んで着工許可を出すでしょう。
- これまでレンタルで利用していた手すりを住宅改修にすることで、レンタル手すりを使わなくなり給付費の削減につながる。
- これまでヘルパーが介助していた動作を一人でできるようになり、ヘルパー利用を卒業することで給付費の削減につながる。
- これまでデイサービスじゃないとは入れなかった入浴が自宅で入れるようになり、デイサービスに行かないでもよくなる。
- 閉じこもりで重度化リスクが高く、要介護状態の進行が予想されているが、外出・社会参加ができるようになり、活動性向上・状態改善し、サービス利用しなくても生活ができるようになる。
このように、理由書を市町村にとって、住宅改修の効果が高いものと納得できる内容であれば、比較的OKを出しやすくなります。
行政にとって最も大きな費用対効果は、自宅での生活を継続できることです。施設介護にはお金がかかります。施設入所者が増えれば、市町村の介護保険給付額も当然多くなります。いい方は悪いのですが、行政から見れば、自宅での生活を継続してもらった方が「安上がり」なのです。住宅改修によって、自宅で生活できる期間が長くなれば、市町村にとっても大きな費用対効果というメリットにつながるのです。
反対に、住宅改修の目的が、単なる余暇活動・生きがいづくりなど、効果が目に見えにくい内容だとあまりいい顔をされません。生きがいづくりはダメですよ、とか、ただ介護者の負担を軽減したいだけならダメですよ、という市町村もあります。この匙加減は市町村によって異なりますが、明確な効果を主張できる理由書を作成するといいでしょう。
まとめ
住宅改修が必要な理由書の書き方を紹介しました。
書き方さえわかれば、それほど時間がかからずにできます。住宅改修は利用者の生活を大きく変える可能性があり、コストパフォーマンスと利用者満足度の高い支援のひとつだと思っています。理由書の作成に自信をもつことで、より幅広い支援ができるようになると思います。
お知らせ「住宅改修理由書作成支援アプリ」
住宅改修理由書作成をもっと簡単にできないか。もっと早くできないか。
そう思っている皆様に、住宅改修理由書作成をAIが行う住宅改修理由書作成支援アプリを紹介します。
対象者の状況と工事内容をもとに、AIが文書生成し、最適な理由書の案を作成します。
β版ですのでご利用は無制限、無料で利用できます。下記のリンクからお願いします。
参考資料
*1 住宅改修が必要な理由書(標準書式)
*2 株式会社ユニバーサルスペース独自調査 対象:ケアマネジャー203名
*5 株式会社ユニバーサルスペース独自調査 対象:ケアマネジャー203名
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
(運営会社:株式会社ユニバーサルスペース)
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約100,000件を超える。
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