この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
厚生労働省の介護保険事業状況報告によると要介護・要支援認定者数は約697万人で、そのうち在宅で介護サービスを受けている方は約414万人です*1。在宅介護をされている方が利用できるサービスは多岐にわたります。この記事では、在宅介護で利用可能なサービスやかかる費用の目安、在宅介護を支援する手当や制度についても詳しく解説しています。
★こんな人に読んでほしい!
- 在宅介護で利用できるサービスやかかる費用が知りたい方
- 在宅介護を支援する手当(補助金)や制度について知りたい方
- 在宅介護に不安を抱えている方やメリット/デメリットについて知りたい方
★この記事で解説していること
- 在宅介護サービスには、介護保険サービスのほか、市区町村、社会福祉協議会などの非営利団体、民間企業が提供するサービスがある
- 介護保険外のサービスでは、家事代行や付き添い、見守り、配食などのサービスがあり、これらを利用することで、介護の負担を減らすことができる
- 介護保険の在宅介護サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要がある
- 在宅介護に係る費用は月平均約7.5万円だが、介護状態や利用するサービスにより異なる
- 在宅介護には、住み慣れた我が家で生活を続けられるメリットがある一方で、デメリットとして、介護疲れや老老介護、介護離職の問題がある
- 在宅介護を支援する手当(補助金)や制度を設けている市区町村もあり、家族介護慰労金や介護用品の購入費支給などがある
1. 在宅介護サービスの種類や特徴
1-1. 在宅介護サービスとは、自宅にいながら利用できる介護サービス
在宅介護サービスとは、自宅にいながら利用できる介護サービスのことです。在宅介護サービスには、介護保険を利用したサービスのほか、市区町村が独自に展開するサービスや地域の社会福祉協議会などの非営利団体が提供するサービス、民間企業が提供するサービスなどがあります。介護保険以外のサービスをうまく組み合わせることで、介護保険でサポートできない部分を補うことができます。
1-2. 介護保険を利用した在宅介護サービス
介護保険を利用した在宅介護サービス*2.3をご紹介します。
自宅に訪問してもらう | 訪問介護(ホームヘルプ) | ヘルパーが自宅を訪れ、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活支援(生活援助)を行う |
訪問入浴 | 看護職員と介護職員が自宅を訪れ、持参した浴槽により入浴の介助をする | |
訪問看護 | 看護師や保健師が自宅を訪れ、主治医の指示にもとづいて療養上の世話や診療の補助などを行う | |
訪問リハビリ | リハビリの専門家が自宅を訪れ、リハビリテーションを行う | |
居宅療養管理指導 | 医師や歯科医師、薬剤師、栄養士などが自宅を訪れ、療養上の管理や指導を行う | |
施設に通う | 通所介護(デイサービス) | デイサービスで、食事や入浴、リハビリテーションを行う |
通所リハビリ(デイケア) | 介護老人保健施設や病院、診療所などで、食事や入浴や、医師の指示のもとリハビリの専門家がリハビリテーションを行う | |
短期間の宿泊 | 短期入所生活介護(ショートステイ) | 介護老人保健施設などに短期間宿泊し、食事や入浴などの介護サービスやレクリエーション、リハビリテーションを行う |
短期入所療養介護 | 医療の助けが必要な方が介護老人保健施設などに短期間宿泊し、医療や看護、リハビリテーションを受ける | |
住環境を整える | 福祉用具貸与・特定福祉用具販売 | 手すりや歩行器など、対象となる福祉用具のレンタルができる。レンタルに向かない衛生用具の購入には費用補助が受けられる |
住宅改修(介護リフォーム) | 手すりの取付けや段差の解消など、対象となる住宅改修の費用補助が受けられる |
寝たきりで通院が難しい方などの在宅介護に利用できるサービスには、医師が自宅を訪問し診療する「訪問診療」があります。訪問診療は、歩行が困難な方や人工呼吸器などの装着により移動が難しい方、終末期療養を自宅で行っている方などが対象で、これは介護保険ではなく、医療保険適用サービスとなります。
在宅介護と聞くと、ずっと自宅で介護をするというイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、在宅介護では、自宅に訪問してもらうサービスだけでなく、通いや短期宿泊のサービスなど、施設で受けることのできるサービスを活用をすることで、介護する側の負担を軽減することができます。また、施設に通うサービスを利用することは要介護者にとってもリフレッシュになります。
実際に、「介護をしながら仕事を継続することが可能と考えている」と回答した介護者は、高い割合・回数で自宅に訪問してもらうサービスを利用していますが、施設に通うサービスと組み合わせて活用している方も多くいます*4。
上記のほか、介護保険サービスには、市区町村指定の事業者が地域住民に提供する「地域密着型サービス」があります。地域密着型サービス以外のサービスは、他の市区町村にある事業所や施設の利用も可能ですが、地域密着型サービスは原則、事業所や施設がある市区町村にお住まいの方の利用が対象となります。
地域密着型サービス一覧*2
自宅に訪問してもらう | 夜間対応型訪問介護 | 夜間の定期巡回、緊急時のホームヘルパーによる介助や救急車の手配などを行う |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 昼夜問わず、定期巡回を行う。介護と看護が連携した一体的なサービスを提供する | |
施設に通う | 地域密着型通所介護 | 小規模なデイサービスで食事や入浴などの介護やリハビリテーションを提供する |
療養通所介護 | 常に看護師による観察を必要とする難病、認知症、脳血管疾患後遺症などの重度要介護者や、がん末期患者を対象としており、食事や入浴などの介護やリハビリテーションを提供する | |
認知症対応型通所介護 | 認知症の方を対象とした、食事や入浴などの介護や支援、リハビリテーションを提供する | |
訪問・通い・宿泊を組み合わせる | 小規模多機能型居宅介護 | 小規模な住宅型の施設で、通いが中心の訪問や、短期間の宿泊サービスを行い、食事や入浴などを支援する |
看護小規模多機能型居宅介護 | 小規模多機能型居宅介護と訪問看護など、複数のサービスを1つの事業所内が提供する |
1-3. 介護保険外の在宅介護サービス
「1-2. 介護保険を利用した在宅介護サービス」では、直接本人の援助や日常生活の援助に該当しない行為、日常的な家事の範囲を超える行為は、介護保険の範囲に含まれずサービスを受けることができません。例えば、家族のための家事や来客対応、草むしり、ペットの世話、掃除などです。このようなサービスを受けたい場合は、次に紹介するような介護保険外サービスの利用を検討しましょう。
介護保険外のサービスは、主に市区町村、非営利団体、民間企業が提供しており、市区町村や非営利団体のサービスは、比較的安価となっています。民間のサービスは市区町村や非営利団体のサービスと比較すると費用が高くなりますが、自由度が高いのが特徴です。
2. 介護保険の在宅介護サービスの利用には要介護認定が必要
介護保険の在宅介護サービスを利用する場合には、要介護認定を申請をし、要支援・要介護の認定を受ける必要があります。要支援と認定された方は地域包括支援センター、要介護と認定された方はケアマネジャーによるケアプラン(介護サービス計画書)作成後、介護サービスの利用を開始することができます*5。
ケアプランとは、どのような介護サービスをいつ、どれだけ利用するかを決める計画のことで、介護や支援の必要性に応じて作成されます。サービスを利用する際に、ケアプランにないサービスをその場で依頼しても対応してもらうことはできません。利用するサービスの変更希望がある場合は、ケアマネジャーに相談しましょう。
要介護認定の申請方法や流れなど、詳細はこちらの記事で解説していますので、ご覧ください。
要支援・要介護と認定されなくても利用できる在宅介護サービスには、市区町村の総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の介護予防活動や生活支援サービスなどがあります。詳しくは、お住まいの地域包括支援センターでご確認ください。
3. 在宅介護にかかる費用は月平均約7.5万円だが、介護状態や利用するサービスにより異なる
在宅介護における、月々の同居家族による負担費用は、平均で約7.5万円*6というデータがあります。半数以上の方が1〜10万円未満の費用負担と回答しており、1〜5万円未満の方も3割以上います。また、これらの費用負担の内訳は、おむつなどの消耗品と医療費の割合が最も多く、次いで介護サービスの利用費でした。
介護サービスの利用費の例として、在宅介護で最も多く利用されている訪問介護サービスの自己負担費用をご紹介します。
介護サービスの利用費の例(訪問介護*7)
内容 | 時間 | 自己負担費用(1単位10円、1割負担として計算) |
身体介護 | 20分未満 | 167円 |
20分以上30分未満 | 250円 | |
30分以上1時間未満 | 396円 | |
1時間以上1時間30分未満 | 579円 | |
以降30分増すごとに | 84円 | |
引き続き生活援助を行った場合の加算(70分を限度として25分毎) | 67円 | |
生活援助(家事支援) | 20分以上45分未満 | 183円 |
45分以上 | 225円 | |
通院時の乗車・降車等介助 | 99円 |
介護状態が進み、要介護度が上がると介護に必要となるサービス量は増えるため、在宅介護にかかる費用は増えると予想されます。また、全額が自費である介護保険外のサービスを利用すると、その分、在宅介護にかかる費用は増えます。しかし、介護保険外のサービスを組み合わせて利用することは、在宅介護の負担を減らすことのできるメリットもあるため、費用のバランスを考えながら利用を検討しましょう。
4. 在宅介護のメリット・デメリット
4-1.在宅介護のメリット
生活環境が変わることは、要介護者にとって非常に大きなストレスとなります。在宅介護のメリットとして最も大きいのは、住み慣れた我が家で生活を続けられる点です。在宅介護では、施設への入居と比較し、ご家族が要介護者の状況を把握しやすいというメリットもあります。また、費用面でも要介護度が低い期間は、施設入居よりも費用負担を抑えることができます。同居老親等などに該当すると税金の控除額が増えることになります。更に、要介護度が高い場合は市区町村から介護手当、国からは特別障害者手当が支給される場合もあるため金銭的メリットは大きいでしょう。なお手当には申請が必要です。
4-2.在宅介護のデメリット
在宅介護で近年問題となっているのが、介護者の介護疲れによる虐待や、介護放棄です。特に、認知症の方の介護では、暴言や暴力を受けて、介護者の精神的な負担が大きくなる可能性があります。さらに、介護者が高齢である「老老介護」の場合、体力的な負担も大きくなります。
仕事をしながら在宅介護をしている方の介護離職の問題もあります。多くの時間を介護に割かなければならず、場合によっては仕事を継続することが困難となり、介護離職を検討する方もでてきます。
また、要介護者が一人暮らしの場合や、日中に家族が不在の場合に、予期せぬ事故(転倒や火の不始末による火災など)が起きる可能性もあります。予期せぬ事故などが起きた際に発見・対処が遅れると、要介護者の安全が脅かされる事態になりかねません。
要介護度が高い場合は移乗や移動の際の転倒リスク、介護者と要介護者双方に負担がかかることがあります。
5. 在宅介護の現状
5-1.在宅介護の希望者は多いが、老老介護や介護離職が大きな問題になっている
厚生労働省の介護保険事業状況報告によると、要支援・要介護の認定者数は約697万人で、そのうち在宅で介護サービスを受けた人は約414万人です(2022年9月末現在)*1。2018年の内閣府の高齢社会白書では、「自分の介護が必要になった場合に自宅で介護を受けたい」と回答した40歳以上の割合は、全体のうち約74%を占めており、多くの方が在宅での介護を希望していることがわかります*8。
一方で、2022年の内閣府の高齢社会白書によると、同居している主な介護する側の年齢は、男女ともに60歳以上が70%以上*9を占めており、「老老介護」が多くなっています。介護をする側も高齢であるため、肉体面でも介護がより大変になります。また、介護のために仕事を辞めざるを得ない「介護離職」も多く、一度介護離職をするとなかなか再就職できないという問題点もあり、そのような状況になると経済面でも苦しくなります。
5-2.在宅介護で大変なことや不安なこと
介護者が不安に感じている介護の内容を割合の高い順*4に紹介します。
- 認知症状への対応
- 夜間の排泄
- 日中の排泄
- 外出の付き添い・送迎など
- 入浴・洗身
このほか不安に感じる介護内容としては、食事の準備(調理など)や屋内の移動、食事の介助などがありました。
特に、介護をしながら仕事を継続するのが困難であると考えている介護者の方は、「認知症上への対応」や「日中・夜間の排泄」を不安と感じている割合が高く、これらが在宅介護を続けながら仕事を継続できるか否かの判断ポイントとなっている可能性があると言えます。
6. 在宅介護との向き合い方を考える
6-1.在宅介護を支援する手当(補助金)や制度
在宅介護を支援する手当や制度を設けている市区町村は多くあります。市区町村の補助制度の一例をご紹介します。
市区町村の補助制度の例*10.11.12.13.14.15
名称 | 内容 |
家族介護慰労金 | 在宅介護する家族の方で、一定要件を満たした方に家族介護慰労金を支給 |
介護用品購入費支給 | 在宅介護をされている方を対象に、介護用品(紙おむつ、尿取りパッド、防水シート、おしり・からだ拭きなど)購入費を支給。介護用品の購入に利用できる介護用品券を支給している自治体もある |
徘徊高齢者位置情報探索サービス利用費補助金 | 認知症で徘徊の症状がある高齢者を在宅で介護している方が、位置情報探索サービスを利用する際、その初期経費(加入金、事務手数料、機器購入費など)を補助する |
利用できる補助制度などは利用し、金銭的な負担を減らすようにしましょう。お住まいの市区町村の補助制度などを確認してみてください。
介護を理由に仕事を休めることが法律で定められている、「介護休暇制度」や「介護休業制度」もあります。これらは介護離職を予防するために、国が周知・普及に取り組んでいます。介護をする会社員の方は、これらを上手に活用して、自分の働き方と両立できる介護を目指しましょう。
介護休業制度 | 介護休暇制度 | |
利用できる人 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者 | |
必要な勤続期間 | 1年以上※ | 6ヶ月以上 |
対象となる家族の範囲 | 配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 | |
日数 | 対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得可能 | 1年に5日まで(対象家族が2人以上の場合は10日まで)。1日または時間単位で取得可能 |
※育児・介護休業法の改正により、2022年4月1日以降の申出時点で要件撤廃となりました(入社1年未満の方で労使協定が締結されている場合は対象外)
介護休業制度や介護休暇について詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
6-2.介護期間は長期になる可能性も。限界を感じる前に相談しましょう
厚生労働省では、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を健康寿命と定義しており、平均寿命と健康寿命の差である約10年*16がおおよその介護期間になると考えられます。しかし、これはあくまで平均であり人によって異なるため、介護期間がどのくらい続くのかは誰にもわかりません。
内閣府の高齢社会白書によると、同居している介護者による介護時間(要介護度別)は、「ほとんど終日」と回答した人の割合が要介護1では11.3%だったのに対し、要介護4では45.8%、要介護5では56.7%まで上昇しています*9。
介護度が高くなるにつれ、介護者の負担は増えるため、要介護4以上になると施設入所を選択する人は多くなります*17。在宅での介護は、介護をする側の肉体面・精神面・経済面での負担を考えながら無理せず介護していくことが重要です。限界を感じる前に施設入所の選択肢も検討しましょう。
無理をして、介護をされる側とする側が共倒れになってしまっては元も子もありません。すべてを一人で抱え込まずに、困ったことや不安なことは、ケアマネジャーや地域包括支援センターで相談するようにしましょう。
参考文献
*1.厚生労働省 介護保険事業状況報告 月報(暫定版) 令和4年9月分
*4.厚生労働省 第9期介護保険事業計画作成に向けた各種調査等に関する説明会
*6.SOMPOホールディングス株式会社 介護費用に関する調査
*7.和歌山市 介護給付費単位数等サービスコード表(令和4年4月施行版)
*11.山口市 家族介護慰労金をご存じですか?在宅介護者に慰労金を支給します
*12.今治市 家族介護支援(高齢者を在宅で介護している方へ)
*13.八代市 介護用品購入費支給(市町村特別給付)について
*14.今治市 徘徊高齢者位置情報探索サービス利用費補助金交付事業
*15.岡崎市 認知症高齢者等位置情報検索サービス導入費等補助金
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