科学的介護とは。従来の介護との違いは?LIFE導入のメリット・デメリット、対象施設の拡大についてわかりやすく解説。

科学的介護とは?従来の介護との違い、メリットとデメリット。 介護コラム
いえケア(在宅介護の総合プラットフォーム)

いえケア 編集部

在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。

科学的介護」という言葉を聞いたことはありますか?

いま、介護保険制度・地域包括ケアシステムが様々な課題に直面する中、その解決策として期待されているのが科学的介護です。

今回は科学的介護についてのメリットとデメリットを中心に、これからの介護がどう変わるのか。どんな影響があるかを解説します。

【こんな人に読んでほしい】

  • 科学的介護という言葉は聞いたことがあるけれどどんな介護が知らない方
  • 科学的介護推進体制加算という料金を請求されて不信感を感じている方
  • 科学的介護について利用者やご家族にどう説明したらいいのか困っているケアマネジャーや相談員の方

【この記事で伝えていること】

  • 科学的介護は根拠に裏付けられた自立支援・重症化防止に効果の高いケアを提供するための仕組み
  • 科学的介護のメリット・デメリット
  • 科学的介護はこれからどうなる?

科学的介護とは

科学的介護と科学的介護情報システム(LIFE)

科学的介護・科学的介護情報システムの仕組み

科学的介護とは、利用者の重度化防止や自立支援を目的に、根拠に基づいた最適なケアを提供する仕組みのことです。ちょっと今風の言葉で言い換えると、ビッグデータによるエビデンスに基づいて最適なケアをPDCAサイクルの中で回していく、それが科学的介護です。

では、従来の介護は何だったのかという疑問もあるかもしれませんが、もちろん、従来のケアがすべて間違っているということはありません。ただ、人によって提供するサービスには違いが生まれてしまいます経験や知識の違いで俗人化しやすかったケアの手法や方向性を統一することができる、それが科学的介護です。

従来の介護科学的介護
計画において重視されるもの経験や知識科学的根拠による裏付け
ケアの質人によるばらつきが生まれやすい標準化しやすい
ケアの目的人それぞれ・幸福追求自立支援・重度化防止
従来の介護と科学的介護の違い

「この病気でこの年齢でこの課題がある人であれば、どんなケアをすると改善の効果が高い」という最適なケアをシステムではじき出すことができます。

科学的根拠に基づいたケアを行うには膨大なデータの蓄積が必要です。厚生労働省は根拠のある化学的介護を実践するために、介護サービス事業所からデータの収集を行っています。サービスや利用者の状態に関する様々な情報が集まるデータベースがLIFE(ライフ)です(*1)。

もともと通所・訪問リハビリテーションのデータ収集システム「VISIT」と、介護サービスや状態に関するデータベース「CHASE」という2つのデータベースがありましたが、これを統合したのがLIFEです。

P(計画)→D(実行)→C(評価)→A(改善)といういわゆるPDCAサイクルの中に、科学的介護からのフィードバックを受けることで、より最善なケアを実施することを目指しています(*2)。

科学的介護推進体制加算とは(対象事業所・算定要件)

厚生労働省は、各事業所・施設からデータを収集するために、2021年の報酬改定に合わせて科学的介護推進体制加算という加算を作りました。

情報システムLIFEに参加し、利用者やケアについての情報をLIFEを通じて厚生労働省に提供することで、毎月事業所・施設が介護報酬の加算を受け取ることができます。現在、この加算の対象となっている事業種別は以下の通りとなっています。

  • 通所介護
  • (介護予防)通所リハビリテーション
  • (介護予防)特定施設入居者生活介護
  • 介護老人福祉施設
  • 介護老人保健施設
  • 介護医療院
  • 地域密着型通所介護
  • (介護予防)認知症対応型通所介護
  • (介護予防)小規模多機能型居宅介護
  • (介護予防)認知症対応型共同生活介護
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
  • 看護小規模多機能型居宅介護

利用者一人あたり月40単位~60単位の加算となっています。1割負担の方であれば40円~60円くらい、3割負担であれば120円~180円ほどの自己負担増加となります(地域によって地域加算によって金額は高くなります)。

加算が算定される条件のことを算定要件と言いますが、科学的介護推進体制加算の算定要件は以下の通りとなっています(通所系・居住系・多機能サービスの場合)(*3)。

(1)利用者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他の利用者の心身の状況等に係る基本的な情報を、厚生労働省に提出していること。

(2)必要に応じて計画を見直すなど、サービス提供に当たって、(1)に規定する情報その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用していること。

「必要な情報を活用していること」という要件になっていますが、具体的にどう活用してどう結果を出しているかは問われていません。事実上、必要な情報の提出が条件になっていると言えます。

請求の明細に、「科学的介護推進体制加算」が追加されていて、何これ?と思った人も多かったのではないでしょうか。

言葉を選ばずに言えば、事業所から利用者のデータをLIFEに吸い出すためのエサがこの科学的介護推進体制加算だということです。

科学的介護推進体制加算だけでなく、個別機能訓練加算や口腔機能向上加算などの算定要件に、LIFEへの情報提供が算定要件になっているものもあります。

科学的介護のメリット

科学的介護にはいくつかのメリットがあります。

1.根拠に基づいて標準化されたケアが提供される

スタッフ会議

これまで、職員個々の経験や知識をもとにしたケアを行っていたため、介護サービスの質にはばらつきがありました。科学的介護では、最善なケアが導き出されるため、質のばらつきが少なくなります

また、科学的介護が広がると、全国どこでも科学的根拠の裏付けのある標準化されたケアが提供されます。最適なケアがどのようなものかがわかるので、全国どこでも同様の質のサービスが提供されるようになり、サービスの質の底上げが図られるでしょう。

2.自立支援・重度化防止への期待

科学的介護の目的は自立支援・重度化防止です。目的が明確になったことで、自立支援・重度化防止が実現する可能性が高くなります。目的がぼんやりしていたサービス計画・ケアプランも見直され、より自立支援に重きが置かれ、職員の目指す方向性も統一することができます。

3.施設・事業所は加算が算定できる

科学的介護を導入している事業所は、科学的介護推進体制加算という加算を算定することができます。一人あたり月400円程度かもしれませんが、利用者数の多い事業所にとっては大きな収入増となります。事業所の収入が多ければ、職員の待遇改善やサービスの質向上に向けての投資も可能になり、利用者側にもメリットがあります。

以上の3点が科学的介護導入のメリットです。

科学的介護のデメリット

科学的介護にはデメリットもあります。以下の3点をデメリットとして紹介します。

1.データ入力などの業務負担

パソコンを利用する

科学的介護では、様々なデータが対象になります。利用者の基礎情報から、日常生活動作の状態、栄養や口腔の状態、認知症の状況など、様々なデータ入力が必要になります。これらのデータを提出しなければ、事業所・施設は加算を受けることができません。

厚生労働省の調査によると、科学的介護の加算を算定している事業所のうち、76%の事業所が入力事務が負担になっていると答えています(*4)。事業所にとっては事務負担という大きなデメリットが発しています。

2.加算算定による利用者負担の増大

施設・事業所は情報システムLIFEにデータを送信することによって、科学的介護推進体制加算という加算を算定することができます。金額自体は大きなものではありませんが、サービス利用者にとっては自己負担額が増えます。当事者に具体的なメリットが見えにくいので、説明をされても不満を感じるという方も少なくないでしょう。

3.自立支援・重度化防止だけが目的でいいのか

最後に、もうひとつ。
科学的介護の目的は自立支援・重度化防止となっていますが、果たして介護の目的はそれだけでしょうか。どんな状況でも自立支援を目指さなければいけないのでしょうか。自立支援以外を目的のケアは間違っているのでしょうか。

末期がんで余命の短い方が目指すゴールは自立支援・重度化防止で本当に正しいのでしょうか。

利用者にとって、人生は人それぞれ。自立支援を目指すことは正しいことかもしれませんが、もっと大切にしたいこともあるかもしれません。職員の介護観も人それぞれです。相互のコミュニケーションの中から生み出されてきた介護は、それはそれで正しい介護だったのではないでしょうか。

以上、科学的介護のメリットとデメリットを紹介しました。

メリットデメリット
・根拠に基づいて標準化されたケアが提供される
・自立支援・重度化防止への期待
・施設・事業所は加算が算定できる
・データ入力などの業務負担
・加算算定による利用者負担の増大
・自立支援・重度化防止だけが目的でいいのか

科学的介護の今後

科学的介護推進体制加算の対象拡大へ?

国は科学的介護のさらなる推進を目指しています。2024年の介護保険制度改定においても、科学的介護の推進は大きなテーマとして取り上げられています(*5)。

現在、科学的介護推進体制加算の対象となっている事業所を拡大し、訪問介護や訪問看護などの訪問系サービス事業所も対象に含めるべきだという意見もでています。また、ケアマネジャーがケアプラン作成を行う居宅介護支援事業所もこれに含めるべきという意見が出ています。より生活に基づいた情報や、医療的な情報も拡充されていくことが期待されます。

今回の報酬改定では訪問系での導入は見送られました。

ただ、小規模事業所の多いこれらの事業形態でLIFEへの情報入力業務などが加わることになると、さらなる業務負担が懸念されます。

ケア内容への反映

立位・立ち上がりの練習

科学的介護推進体制加算の算定事業所は増えており、介護老人保健施設に関しては既に80%近い事業所が加算算定を行っており、LIFEへのデータ提供を行っています。とはいえ、実際のケアに科学的介護のフィードバックが活かされているかというと、まだ進んでいない事業所が多いようです。

科学的介護推進体制加算算定事業所へのアンケートで、まだ活用していないと回答する事業所が22.5%(*6)あることがわかっています。加算の算定が目的で、活用ができていない現状もあります。どのようにケアが改善され、利用者の状態がどう変化した、というデータの蓄積がなければ、十分な効果を発揮することはないでしょう。

まとめ

科学的介護についての情報をお伝えしました。

これからのケアとは切っても切り離せない科学的介護という考え方。多くの場面でこの言葉を聞くことが増えると思います。ただ、どんなにケアの標準化・均一化が進んでも、大事なのは介護サービスを提供する人だと思います。システムにコントロールされる介護ではなく、科学的介護を通して介護の質の向上につながることを期待したいです。

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また、マイナンバーカードと介護保険証の一体化など、デジタルによる管理が進むことで各方面で大きな影響が出ることも懸念されます。利用する側や支援者側にとってもメリットを感じられるシステムになるように声を上げていきたいですね。くわしくはこちらを。

また、介護現場は独自のAI活用も広がっています。データと介護は切り離せない時代。業務を効率化しつつ、負担を軽減できるよう、テクノロジーの利活用が大きなカギになりそうです。

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この記事を執筆・編集したのは

いえケア 編集部

在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
運営会社:株式会社ユニバーサルスペース


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