玄関の介護リフォームで広がる外出機会と社会参加の可能性

玄関の介護リフォームのポイント 介護コラム
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

遠藤 哉

足が弱くなってからは、玄関の段差が怖くて、外に出る機会が極端に減ってしまったんです。そんな声をたくさんの方より伺っています。

玄関は家の出入口であり、日常生活において欠かすことのできない場所です。

しかし、高齢者や身体的な制約のある方々にとって、玄関は家の外へつながる出発点であるだけでなく、潜在的なリスクを含んだ場所でもあります。段差や滑りやすい床、開き戸などの設計上の問題が、安全性を損ない、外出意欲を奪う原因となることもあります。

この記事では、玄関の介護リフォームがどのように外出機会の拡大と社会参加の促進につながるか焦点を当てます。高齢者や障害などで身体的な制約のある方々が、自宅の玄関をリフォームし、安心して外出しするためのヒントを提供します。

【この記事を読んでほしい人】

  • 玄関のリフォームを検討している人
  • 膝や腰の痛み、疾患などの影響で外出することが大変に感じている人
  • 将来に備えて自宅の生活環境を見直したい人

【この記事で解説していること】

  • 上がりかまちの段差を安全に移動できるように、手すりを取り付ける・踏み台を取り付ける・スロープを取り付けるなどの改善策を
  • 滑りやすい床面を変更することで転倒予防を
  • 扉を開き戸から引き戸にすることで車いすでも移動しやすく
  • いすやベンチを設置することで靴の着脱や休憩を

玄関での転倒リスクに注意

少し古いデータですが、内閣府による「平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」には自宅内で転倒した場所に関する調査結果があります。これによると、玄関での転倒は17.4%と第3位となっています(*1)。日常的に使われる、階段や浴室、トイレなどよりも高い順位になっており、玄関がいかに転倒リスクの高い場所であるかがわかります。

玄関ではどんな移動動作に転倒のリスクがあるのでしょうか。玄関での動作を大きく分けると、この5つの動作が存在します。

  • 出入口までの屋内移動
  • 上がりかまちの昇降
  • 車いす等、装具の着脱
  • 履物の着脱
  • 出入口の出入(扉の開閉含む)

玄関という限られたスペースの中で、上記のような様々な動作が必要になります。これらの動作を安全に実施するためには、身体状況に合わせて環境を改善していく必要があります。どんなリフォームをすることが効果的なのか。

転倒リスクの高いポイントを4つに絞って紹介します。

  • 玄関上がりかまちの昇降
  • 床の滑り止め
  • 玄関扉の変更
  • 靴の着脱

介護リフォームによる具体的な改善策を紹介します。

上がりかまちの段差

玄関上がりかまち

玄関には、上がりかまちの段差が存在します。この上がりかまちの昇降動作には、大きなリスクが伴います。片足を上げた姿勢を保持することが困難な方や、バランスの保持が難しい方には特に重要な問題です。また、高さのある段差がある場合、車いすを使用する方や歩行が困難な方々は、その段差を越えることが難しくなります。

玄関の段差が外出を阻害する大きなバリアとなり、外出機会を失うきっかけになる可能性があります。外出機会が少なくなると、閉じこもり傾向・うつ傾向が強くなり、運動機会減少のための筋力低下など、様々な要因から要介護状態が悪化する可能性があります。

上がりかまちの問題を解消することは、外出機会を増やすための第一歩であるとともに、社会参加を維持するために重要なポイントとなります。介護リフォームによる具体的な解決策を紹介します。

手すりを取り付ける

上がりかまちの段差を安全に昇降するためには、片足を上げた姿勢を保持し、段差を越えることが必要です。筋力の低下から片足だけで体を支えることができない場合には、手すりにつかまることが有効です。

上がりかまちを上がるときには手すりをつかんで、腕の力も使って自分の体を引き上げることができます。上がりかまちを降りるときにはバランスを崩すことがないよう手すりを使って姿勢をコントロールしながら移動することができます。

一般的には縦方向・斜め方向の手すりにつかまりながら上がりかまちを上がり、横方向の手すりにつかまって段差を降りるパターンが多いです。

手すりにはいくつか代表的なパターンがあります。代表的なパターンとして、
横・縦・横を組み合わせたもの、
縦と横を組み合わせたいわゆるL字型のもの、
階段状に横・斜め・横を組み合わせたもの、
横2本を段違いにしたものなどがあります(図参照)。
手すりを設置するスペースが限られるときなど、縦だけを設置する場合もあります。

玄関手すりによくあるパターン

もちろん、手すりを利用される方の身体状況や体の使い方、普段の行動パターンなどによって手すりの取り付け方や種類などは異なります。

また、住宅改修での手すり設置が適さない場合は、介護リフォームではなく、福祉用具の置き型手すりを介護保険でレンタルするという手段もあります。

どんな方法が最適か、専門家と相談しながら決めることをお勧めします。


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介護リフォームで使われる手すりについてはこちらの記事をご参照ください。

踏台を取り付ける

段差が大きければ大きいほど、段差を上がるときには足を高く上げなければいけません。筋力やバランス能力が低下すると、足を上げる動作で転倒する可能性も高くなります。

踏台(式台)を設置することで、ひとつの段差を小さく、階段状にすることで転倒を予防することができます。このときに注意すべきなのが、ひとつひとつの段差の高さを揃えることです。高さが不揃いで急に高い段差・急に低い段差があるとバランスを崩しやすくなります。特に視力の低下する高齢者は注意が必要です。

段差解消のスロープ設置

車いすで移動される場合に、段差を解消する方法はいくつかありますが、あまり大きくない段差であればスロープを設置することも有効な手段です。
スロープは、段差を緩やかな傾斜に変え、車いすや歩行車・シルバーカーなどを使っての移動をスムーズにします。

スロープの設置について詳細はこちらの記事をご参照ください。

ただし、大きな段差をスロープで解消しようとすると、玄関の限られたスペースではスロープの勾配が急傾斜になってしまうため、車いすでの昇降も難しく、かえって転倒リスクを高める要因となります。

スロープは様々なタイプがあり、利用者のニーズに合わせて選択することが重要です。玄関の段差昇降には福祉用具の簡易スロープを使うケースも多いです。こちらは介護保険でレンタルできる商品となっています。


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段差解消リフトを設置する

座ったままで段差を昇降できる段差昇降機・段差リフトを使うこともひとつの方法です。
いす型のタイプで座って段差を昇降できるタイプと、車いすのままで昇降できるタイプがあります。

介護保険のレンタル対象の商品になっていますが、介護度によって利用制限があります。要介護2以上はケアプランに位置づけていればレンタルで利用することができますが、要支援1・2か要介護1の方は、リフトの使用が必要な理由を確認する例外給付という手続きが必要になります。

電動リフトなので、電源をとれる場所があるか事前に確認しておきましょう(足踏み式の商品もあり)。
また、いす型の昇降機を使用する場合は、昇降した後にいすから立ち上がる動作が安全にできるかを確認し、手すり設置を検討することをお勧めします。


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床材をより安全なものに

玄関土間における床材の選択は、安全性と快適さに大きな影響を与えます。床が滑りやすいと、通行時に転倒の危険を伴うことがあります。安全な床材の選択に焦点を当て、玄関の安全性向上について詳しく探っていきます。

滑りやすい床の危険性

まず、玄関の床が滑りやすい場合、歩行者や車いすを利用される方にとって大きなリスクとなります。特に雨の日や雪の日に外から帰宅し、靴が濡れていると滑りやすさが増し、転倒の危険性が高まります。高齢者や身体的な制約のある人々は、転倒によるけがを回避するために、滑りにくい床材を選ぶことが重要です。

クッション性の高い床材

転倒しないことも大事ですが、転倒したときのダメージを少なくすることも重要です。クッションフロアなど、転倒による衝撃を少なくする素材にすることも介護リフォームとして重要な視点のひとつです。

安全な床材の選択は、外出機会向上にもつながります。安全な床材は、スムーズな移動につながり、生活の質を向上させます。

玄関の開き戸を引き戸に変更する

多くの玄関では、前後に開く開き戸が使用されていますが、これが安全性や利便性に影響を及ぼすことがあります。特に、高齢者や障害のある方々は、開き戸の開閉や通行に支障を感じることが多いです。

開き戸の課題と引き戸のメリットについて説明します。

開き戸の制約と問題点

開き戸は、通行時に扉を前後に開け閉めする必要があり、これが高齢者や身体的な制約のある人々にとって問題となることがあります。具体的な制約と問題点について以下に示します。

  • スペースの制約: 開き戸の場合、扉を開けるためには十分なスペースが必要なので、開閉スペースを確保しなければいけません。
  • バランス保持: 開き戸を引いて開ける、もしくは押して開けるときに、前後にバランスを崩す可能性があります。身体を支え切れなくなり、転倒するリスクがあります。
  • 車いすの利用: 車いすを使用する人々にとって、開き戸は通り抜けが難しいことがあります。車いすの幅や回転半径に制約があるため、開き戸の通行に支障をきたすことがあります。
  • 介助が必要な場合: 開き戸を使用する際、扉を開け閉めするために一歩後ろに下がる必要があり、介助をする方が介助できるスペースを失い、介助者自身の転倒リスクも生じます。

引き戸のメリット

引き戸は、開き戸に比べて利便性が高く、安全性にも優れています。引戸は前後ではなく、左右にスライドさせるタイプの扉です。

以下に、引き戸のメリットについて説明します。

  • 利便性: 引き戸は、体の前後移動が少なくて済むため、高齢者や身体的な制約のある人々にとって通行が楽になります。車いすを利用される方にも非常に便利です。
  • 空間の有効活用: 引き戸は、開閉部分にデッドスペースを生じないため、玄関の空間を有効に利用できます。

引き戸の採用によって、玄関の通行が容易になり、高齢者や身体的な制約のある人々が外出を楽しむための第一歩となります。
ただし、引き戸にするには課題もあります。開き戸に比べて出入口の幅を確保することが難しいことや、設置コストが大きくかかるとため、設置は十分検討が必要です。

いすやベンチを設置する

玄関では靴を脱ぐ、または靴を履くという動作にも転倒のリスクが伴います。以下のような転倒パターンも少なくありません。

  • 立ったまま靴の着脱を使用としてバランスを崩して転倒する。
  • 上がりがまちに腰かけ、低いところから立ち上がろうとして転倒する。

このような転倒事故を起こさないために、玄関にいすやベンチ・スツールを設置することもひとつの解決策です。座った状態で安全に靴を着脱することができ、玄関での転倒リスクを軽減することができます。

いす・ベンチ設置の課題点

いすやベンチの設置は転倒予防のために重要な意味を持ちますが、介護保険の住宅改修対象に含まれていません。設置する場合は全額自己負担となります。安定性が高く、適切な高さのいすやベンチを購入して設置することをお勧めします。

また、転倒を予防するだけでなく、外出から帰った後の休憩場所としてもいすやベンチは効果的です。座っていったん呼吸を整えてから玄関を上がることで室内での転倒リスクも軽減することが可能です。特に心臓系疾患や呼吸器系疾患などをお持ちの方は、休める場所を意識することが重要です。

また、画像のような面付き手すりを福祉用具としてレンタルすることはできますので、この面の部分をいすとして腰かけるという方もいらっしゃいます。


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忘れがちな玄関の片付け

玄関の片づけを忘れずに

玄関の介護リフォームのポイントを紹介しましたが、見落としがちなポイントは片付けをすること。

玄関は狭いスペースの中に、靴・傘立て・外遊びの道具など、いろんなものが置かれていることが多いです。置かれている物が多く、玄関のスペースが狭くなると、移動や方向転換に使うスペースはそれだけ狭くなり、より転倒のリスクが高まります。

あまり頻繁に履かない靴は片づける、対象者が移動する動線上に物を置かない、など移動するための足場を極力広く確保するように心がけましょう。また、手すりを設置することで、手すりで姿勢を保持できるようにすることもひとつの改善策です。

まとめ

玄関の介護リフォームについて、改善をお勧めしたいポイントを4つ紹介しました。

玄関の問題を解消することによって、外出機会が大幅に向上することがあります。効果的な介護リフォームにより、高齢者や身体的な制約のある方々も不安なく外出できるようになります。これは、友人や家族との交流、外部のイベントやアクティビティへの参加、買い物など、日常生活の質を向上させる要因となります。また、デイサービスの利用や通院など、必要な外出機会を維持することができ、自宅での生活を継続することを可能にします。

介護リフォームで玄関の環境を見直すと、介護予防に大きな効果を発揮します。

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

遠藤 哉

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約100,000件を超える。


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