この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
保険会社の介護費用に関する調査によると、在宅介護の初期費用(福祉用具の導入や介護リフォームなどを含む)の総額の平均は約64万円、施設入居時の総額費用の平均は約74万円*1であることがわかりました。介護費用は、介護をする方・される方にとって大きな心配ごとのひとつです。この記事では、介護の経済的負担を軽減できるような補助金や助成金、制度などについて、詳しく解説しています。
★こんな人に読んでほしい!
- 介護にかかる費用が心配で、公的な補助金や助成金、給付金について知りたい方
- 高額な介護費や医療費の負担を軽減できる制度(払い戻しされる制度)について知りたい方
- 介護のために仕事を休んでいる方で介護給付金について知りたい方
★この記事で解説していること
- 住宅改修費や特定福祉用具購入費は介護保険の給付対象となり、それぞれ上限は20万円と10万円である
- 高額となった介護費や医療費は、「高額介護サービス費制度」や「高額医療・高額介護合算療養費制度」で払い戻される可能性があり、該当者には市区町村から支給申請書が送付されてくる
- 所得や資産が一定以下の低所得者世帯への助成として、介護保険施設やショートステイでの居住費や食費が軽減される「介護保険負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)」がある
- 在宅介護をしている要介護4、要介護5の方は「特別障害者手当」の受給条件に該当する可能性があり、該当する場合、年間約33万円を受給できる
- 家族の介護のために介護休業を取得した会社員は、受給条件に当てはまる場合、月額の約67%が雇用保険から介護給付として支給される
- 家族介護慰労金や介護用品の購入費や現物支給などの補助制度を設けている市区町村も多い。利用できるものがないか、お住まいの市区町村の補助制度を確認してみましょう
1. 介護で利用できる補助金や助成金、制度の一覧
以下は、介護費用の負担軽減に関して、利用できる可能性のある補助金や助成金、給付金などの一覧です。それぞれの補助金・助成金が受給できる条件、制度が利用できる条件などの詳細はこのあとの章でくわしく解説します。
住宅改修費給付(介護保険の給付対象) 特定福祉用具購入費給付(介護保険の給付対象) 高額介護サービス費制度 高額医療・高額介護合算療養費制度 介護保険負担限度額認定(特定入所者介護サービス費) 特別障害者手当介護休業給付 |
このほか、市区町村の「家族介護慰労金」をはじめとする介護手当や現物支給サービスなどがあります。名称は各市区町村で異ります。それらは、「8.その他、市区町村の介護手当や現物支給サービスなど」で解説します。
2. 介護保険の給付対象となる「住宅改修費給付」
2-1.介護リフォームは上限20万円まで介護保険が適用
在宅での介護を行ううえで住環境を整えることは、事故や転倒などのリスクを減らすためにも非常に重要です。介護保険でも、在宅介護を重視し、高齢者の自立を支援する観点から、段差の解消や手すりの設置などの住宅改修(介護リフォーム)を、保険給付の対象としています*2。
要支援・要介護度に関わらず、上限20万円までの範囲であれば、対象となる住宅改修に対し介護保険が適用されます。つまり、介護保険の自己負担額の割合に応じて1割(一定以上の収入がある方は2割または3割)の支払いで、介護のためのリフォームができるということです。
限度額の範囲内であれば、複数回の申請も可能です。ただし、20万を超える部分については全額自己負担となりますのでご注意ください。
また、初めて住宅改修を行ってから、要介護状態区分が三段階上昇した場合(要介護1から要介護4になった場合など)には、再度20万円までの支給限度基準額が設定され、介護保険を利用することができます。
2-2.給付対象となる介護リフォームは6種類
介護に関するリフォームすべてが、介護保険の支給対象となるわけではないことに注意しましょう。介護保険の給付対象になる住宅改修は以下の通りです。
介護保険の給付対象となる住宅改修*2 | 手すりの取付け 段差の解消 滑り防止および移動の円滑化などのための床材や通路面の材料の変更 引き戸などへの扉の取替え 洋式便器などへの便器の取替え そのほか上記改修に伴い必要となる住宅改修 |
2-3.支給方法と注意点
住宅改修費給付の支給方法は、原則、利用者が一度全額支払ったのちに費用が介護保険から払い戻される「償還払い」で、工事完成後、領収書等などを提出することで払い戻しを受けられます。
しかし、利用者の一時的負担を考え、利用者の自己負担分のみの支払いで済む「受領委任払い」を導入し、登録された事業者を使うことで受領委任払いを認めている市区町村もあります。この場合、残りは市区町村が直接事業所に支払います。どのような支給方法があるのか、くわしくはお住まいの市区町村にご確認ください。
注意点として、住宅改修費の給付を受ける場合には、必ず改修工事前の事前申請が必要です。事前に申請していない場合、住宅改修費の給付を受けられませんので、介護リフォームを考えている方は、先にケアマネージャーなどに相談するようにしましょう。
介護リフォームの補助金やリフォーム会社の選び方など、くわしくはこちらの記事をご覧ください。
3.介護保険の給付対象となる「特定福祉用具購入費給付」
3-1.特定福祉用具購入費は上限10万円まで介護保険が適用
介護保険の福祉用具はレンタルを原則としており、身体状況や要介護度の変化などに応じて、適切な福祉用具を利用者に提供できるようになっています。
しかし、直接肌に触れるもので、他の利用者が使ったものを利用することに対抗を感じるものや、使用によってもとの形態・品質が変化し、再利用できないものなどは、特定福祉用具に位置づけられ、購入費が介護保険の給付対象となります*2。
特定福祉用具の購入費は、要介護度にかかわらず、同一年度で10万円までの購入代金に対し介護保険が適用されます。
3-2.支給対象となる特定福祉用具には条件がある
介護保険の給付対象になる特定福祉用具は以下の通りです。
特定福祉用具*2
腰かけ便座 | 和式トイレを洋式トイレに変える据え置き式便器、ポータブルトイレも含まれる |
自動排泄処理装置の交換可能部品 | 本体部分はレンタル可能品目 |
排泄予測支援機器※ | 排尿のタイミングを知らせる機能を持った機器 |
入浴補助用具 | 入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、浴槽内・浴室内すのこ、入浴用介助ベルト |
簡易浴槽 | マットレス、サイドレールなど |
移動用リフトのつり具部分 | 本体部分はレンタル可能品目 |
※2022年4月1日より特定福祉用具販売の給付対象種目に追加された
3-3.支給方法と注意点
特定福祉用具購入費給付の支給方法は、住宅改修と同様に、原則は「償還払い」となっていますが、利用者が費用の1~3割(自己負担割合に応じる)を支払い、残りを市区町村が直接事業者に支払う「受領委任払い」を導入している市区町村もあります。
指定事業者からの購入のみが、介護保険の給付の対象となる点にご注意ください。
特定福祉用具の販売事業所には、福祉用具専門相談員が在籍しており、利用者の身体状況に応じた適切な福祉用具の選定などの相談にのってくれます。
特定福祉用具の購入を検討している場合には、事前にケアマネジャーに相談しましょう。
4. 介護費や医療費の払い戻し制度
4-1.高額介護サービス費制度
「高額介護サービス費制度」*3とは、1ヶ月に支払った利用者の負担が高額介護サービス費の負担限度額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。高額介護サービス費の負担限度額は所得により異なります。
対象となる方には、市区町村から支給申請書が送付されてくるため、振込先など必要な書類をそろえて返送すればOKです。また、原則として一度申請をすれば、次回以降は手続きを行わなくても自動的に支給されます。
高額介護サービス費制度の負担限度額は、2021年8月1日に利用されたサービス分から見直され、一定以上の高所得者世帯は負担限度額が大きくなりました。一般的な所得の方の負担限度額は月額4万4000円です。
高額介護サービス費の対象者区分と負担上限額*3
区分 | 負担上限額(月額) | |
課税所得690万円以上 (年収約1160万円以上) | 14万100円(世帯) | |
課税所得380万円~690万円未満 (年収約770万円~1160万円未満) | 9万3000円(世帯) | |
市町村民税課税~課税所得380万円未満 (年収約770万円未満) | 4万4400円(世帯) | |
世帯の全員が市町村民税非課税 | 2万4600円(世帯) | |
前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方 | 2万4600円(世帯) | |
1万5000円(個人) | ||
生活保護を受給している方 | 1万5000円(世帯) |
以下は、高額介護サービス費の対象とならないので注意が必要です。
4-2.高額医療・高額介護合算療養費制度
「高額医療・高額介護合算療養費制度」*4とは、一年間に支払った医療保険と介護保険の自己負担を合計し、自己負担限度額を超えた場合にその超えた金額を払い戻すことで負担を軽減する制度です。こちらも高額介護サービス費制度と同じく、該当する方には市区町村から支給申請書が送付されてきます。
高額医療・高額介護サービス費の対象者区分と負担上限額は、以下の通りです。
【70歳以上の方】*4
区分 | 世帯負担 上限額(月額) | |
現役並み | 課税所得690万円(年収約1160万円)以上 | 212万円 |
課税所得380万円~690万円未満 (年収約770万円~1160万円未満) | 141万円 | |
課税所得145万円~380万円未満 (年収約370万円~770万円未満) | 67万円 | |
一般 | 「低所得Ⅰ」、「低所得Ⅱ」、「現役並み」のいずれにも当てはまらない方 | 56万円 |
低所得Ⅱ | 住民税非課税世帯 | 31万円 |
低所得Ⅰ | 住民税非課税世帯で、世帯員全員に所得がない世帯 | 19万円 |
高額介護サービス費制度、高額医療・高額介護合算療養費制度のいずれも、対象となる方には市区町村から申請書が送付されますが、高齢の方で郵便物をチェックせずそのまま放置してしまう方も多くいます。ご両親が要介護者である場合などは、家族が市区町村からの郵便物などをこまめにチェックしてあげるようにしましょう。
その他にも、介護保険サービスの中には医療費控除の対象として該当する費用もあります。確定申告が必要になりますが、医療費控除として還付を受けることも可能です。以下の記事にまとめていますのでご参照ください。
5. 居住費・食費の負担が軽減される「介護保険負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)」
介護保険施設やショートステイでの居住費や食費は、通常、介護保険対象外です。しかし、低所得者世帯(所得や資産などが一定以下)の方の助成として、居住費と食費の負担額を介護保険から支給する制度があり、「介護保険負担限度額認定」*5といいます。
対象となる3つの介護保険施設
以下をすべて満たしている方が介護保険負担限度額認定の対象となります。
介護保険負担限度額認定されると、認定証を提示することで「居住費・食費」が軽減されます。条件に当てはまる方は、お住まいの市区町村に介護保険負担限度額認定の申請についてお問い合わせしてみてください。
6. 年間約33万円を受給できる「特別障害者手当」
「特別障害者手当」*6とは、身体または精神に著しい重度の障害を有する方に対して支給される手当のことです。受給条件は、在宅であることや、医師の診断書により「介護が著しく重度である」と診断されていることなどで、障害者手帳を持っていなくても受給できます。
在宅で介護をされている要介護4・要介護5の方は、この条件に該当し、受給できる可能性があります。特別障害者手当の申請窓口は市区町村になりますので、お住まいの市区町村の受給条件などを確認してみましょう。
受給額
月額2万7300円(2022年4月~)
特別障害者手当は所得制限があり、所得限度額を超える場合や配偶者・扶養義務者の所得が所得限度額以上であるときは支給対象外となりますので、ご注意ください。
7. 介護休業を取得した会社員に給与の約67%が給付される「介護休業給付」
「介護休業給付」*7.8とは、家族の介護のために介護休業を取得した方に雇用保険から支給される給付金です。雇用形態(正社員、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員)に限らず、雇用保険の被保険者であるすべての労働者が対象となります。
支給される額は、おおよそ月額の67%です。受給条件には、介護休業開始前2年間で12ヶ月以上の雇用保険加入期間があることや、介護休業中の就業日数・賃金についての規定などがあります*9。
介護保険給付の詳細な受給条件や支給額の計算方法などは、介護休業給付の記事をご覧ください。
8.その他、市区町村の介護手当や現物支給サービスなど
これまでに解説した国の制度や補助金以外にも、介護を支援する手当や制度を設けている市区町村は多くあります。市区町村が独自で展開する介護手当や現物支給サービスなどを紹介します。
市区町村の補助制度の例(*各市区町村によって名称が異なる)
名称 | 内容 |
家族介護慰労金*10.11 | 在宅介護する家族の方で、一定要件を満たした方に家族介護慰労金を支給 |
介護用品購入費支給*12.13 (紙おむつなどの支給) | 在宅介護をされている方を対象に、介護用品(紙おむつ、尿取りパッド、防水シート、おしり・からだ拭きなど)購入費を支給。介護用品の購入に利用できる介護用品券を支給している自治体もある |
徘徊高齢者位置情報探索サービス利用費補助金*14.15 | 認知症で徘徊の症状がある高齢者を在宅で介護している方が、位置情報探索サービスを利用する際、その初期経費(加入金、事務手数料、機器購入費など)を補助する |
高齢者見守りサービス助成金*16 | 一人暮らしなどの状況にある高齢者の日常生活を見守るサービスを家族が導入する際、その初期設置費用などを助成する |
熟年者奨励手当*17 | 60歳以上の要介護4・要介護5で在宅の方に在宅月数に応じて月額を支給 |
介護には、介護保険サービスの利用料以外にも、医療費やおむつ代などさまざまな出費があり、積み重なることで介護費用は大きくなります。ほとんどの場合、介護費用を負担しているのは、要介護者自身またはその配偶者であり、介護をする家族は無理のない範囲で費用を援助しているようです。
さまざまな補助制度がありますので、利用できる補助制度などは利用し、金銭的な負担を減らすようにしましょう。お住まいの市区町村の補助制度などを確認してみてください。
また、介護が必要となった場合に一時金などの現金が給付される民間の介護保険などもあります。ご家族に介護が必要になった場合には、加入している民間の保険の確認をおすすめします。民間の介護保険などを活用し、今のうちからご自身の将来的な介護に備えることも重要です。
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