いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
近年、高齢化の進展や一人暮らし高齢者世帯の増加に伴い、介護サービスの需要が急速に増加しています。このような状況下で、介護職員の働きやすさや待遇改善は、介護サービスの質と持続可能性に直結する重要な課題となっています。2040年には69万人の介護人材が不足すると言われており、介護人材を確保することが急務となっています。介護職員の処遇改善や給与の向上は、利用者だけでなく、介護事業者や社会全体にとっても重要なテーマです。
このような質問をいただきました。
処遇改善とかなんとかっていうのが変わるから料金上がりますって、ヘルパーさんの責任者に昨日、言われたんです。4月にも料金が上がったばかりだと思うんですけど、値上がり値上がりでいろいろお金もかかるのに、介護の料金もどんどん値上がりしていくのかしら。
加算が変わり、負担するお金も増えます。4月介護報酬改定があったばかりでまた値上げというと不信感を持ってしまう方もいるかもしれません。ただ、これは利用する側にとってもデメリットばかりではありません。
今回は、介護職員の人材確保・待遇改善を目指した新たな処遇改善加算について取り上げ、サービス利用者側への影響を考察します。
処遇改善加算の一本化、加算率の引き上げと賃金配分の柔軟化、そして職場環境の改善と生産性向上の取組みに焦点を当て、今回の制度改正をわかりやすく解説します。
【この記事を読んでほしい人】
- 介護サービスの料金が気になる利用者様もしくはご家族様
- 介護保険の制度が変わったと聞いて気になっている方
- 処遇改善の変更を利用者にどう説明したらいいか悩んでいるケアマネ様
【この記事で解説していること】
- 介護職員処遇改善加算の始まりと現在に至るまでの経緯
- 介護職員処遇改善加算を一本化することによる影響
- 利用者側から見た新しい介護職員処遇改善加算導入によるメリットとデメリット
2024年介護報酬改定で変わる「介護職員処遇改善加算」とは
介護職員処遇改善加算とは何か
介護職員処遇改善加算は、介護職員の賃金や労働環境を改善するための制度です。この制度は、介護職員の確保とサービスの質の向上を目的としています。2009年に初めて導入され、以降、段階的に拡充されてきました。
処遇改善加算の背景と歴史
2009年 交付金導入: 2009年に介護職員の処遇改善を目的として初めて導入されました。当時、介護人材の不足が深刻化し、介護職員の離職率が高かったため、労働条件の改善が急務となっていました。この当時は加算ではなく、交付金として事業所に支給されていたため、利用者の負担はありませんでした。
2012年 介護報酬の加算: 2012年には、介護職員処遇改善加算IからIIIまでの区分のある加算として導入されました。職員の処遇を改善するための財源が拡大されました。これにより、より多くの介護職員に対する賃金改善が行われ、職場環境の整備も進みました。しかし、一方で加算になったため、利用者の負担も発生することになりました。その後も加算は報酬改定によって拡充を続けます。
2019年特定処遇改善加算: さらに、2019年には経験や技能のある職員の処遇改善を図るため、特定処遇改善加算がスタートしました。
2022年ベースアップ加算導入: 処遇改善加算が基本給ではなく一時金や手当として支給される傾向が多かったことから、2022年には介護職員のベースアップを目指したベースアップ等支援加算が設けられました(詳しくは記事参照)。
ここまで、このように処遇改善は拡充されてきましたが、介護の人材不足はまだまだ補われず、いずれの対応も後手後手になっている感は否めないのが現状です。
なぜ処遇改善の拡充が必要になったのか?
日本では高齢化社会の進展に伴い、介護サービスの需要が急増しています。しかし、介護職員の確保が困難な状況が続いています。このため、介護職員の労働条件を改善し、職場環境を整備することが急務となっています。
介護職員の賃金が他の業種に比べて低いため、若い人材が介護職に就くことを避ける傾向があります。また、介護職員の離職率が高いことも問題です。これらの問題を解決するために、処遇改善加算の拡充が必要とされています。
2040年には69万人の介護職員が必要になると言われています。介護の仕事を選ぶ人を増やすこと、介護の仕事を続けていきたいと思う人を増やす。そのために、介護の仕事をする職員の処遇改善、賃金の改善は欠かすことができません。
介護職員処遇改善加算の仕組み
処遇改善加算は、介護サービス事業所が一定の条件を満たすことで、介護職員の賃金改善に充てるための追加の財源を受け取ることができる仕組みです。この加算は、介護職員の給与に反映され、職員の生活の質を向上させることを目的としています。
介護サービス事業所が加算の条件を満たし、算定を申請しなければこの加算は受け取ることができません。これまで、申請の手間が大きく、手続きの負担から見送る事業者などもいたことから、手続きの簡素化が求められていました。
処遇改善加算の一本化とは?
2024年6月からの改定では、複数の加算を一本化されます。これは、介護事業所が煩雑な手続きを簡略化できるようにするためです。下記の表を参照ください。
処遇改善加算の一本化による影響
簡素化:
加算の仕組みを簡素化し、介護事業者の事務負担を軽減します。手続きの簡素化により、加算取得のハードルを下げ、多くの事業者が利用しやすくなります。事務的な手間などが問題で加算取得やより高い加算に変更することをを見送っていた事業者にとっては、大きなプラス要素となります。また、手続きにかかっていた時間を他の業務に有効活用することができます。
透明性の向上:
加算の基準や仕組みを明確にし、透明性を高めます。利用者やその家族にとって、サービスの質や改善状況がわかりやすくなります。たとえば、今までは処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ加算の3加算があり、それぞれにランクがあるので、どの程度の加算率になるのか目で見ても容易にはわかりませんでした。
説明するケアマネジャーも、その複雑な仕組みで理解が追い付かず、事業所が指示した通りの加算をシステムに入力するだけで、それがどのような意味なのかも十分把握はできませんでした。サービス事業所ごとに利用表の行だけが何行も増え、作業量だけでなく、紙資源の無駄になる場合も多くありました。一本化することでわかりやすくなり、説明を受ける側も理解がしやすくなります。
処遇改善加算の拡充、利用者にはどんなメリット
サービスの質の向上
新しい加算制度により、介護職員の賃金や労働環境が改善されることで、以下のような具体的なメリットが期待できます。
- 経験豊富な職員の定着:
- 賃金改善によって介護職員の定着率が向上し、経験豊富な職員による継続的で質の高いケアが受けられるようになります。これは、利用者にとって安定したサービスの提供に繋がります。
- モチベーションの向上:
- 賃金の向上と職場環境の改善により、介護職員のモチベーションが高まり、サービスの質がさらに向上します。職員の意欲が高い状態でのケアは、利用者の満足度を高めます。
- 介護職員のスキル向上:
- キャリアパスの整備により、職員が継続的に研修を受ける機会が増えます。国家資格(介護福祉士)保有者も増えていきます。これにより、最新の介護技術や知識を持った職員がサービスを提供するため、利用者はより専門的で質の高いケアを受けることができます。
安心・安全なケア環境
- 職場環境の改善:
- 職場環境の改善が進むことで、介護職員のストレスが軽減され、事故やトラブルの発生が減少します。利用者にとっても安心してサービスを受けられる環境が整います。
- 健康管理の充実:
- 介護職員の健康管理が強化されることで、職員の体調不良によるサービスの質の低下が防止されます。常に健康な状態でのケア提供は、利用者の安全と安心に直結します。
長期的な信頼関係の構築
- 同じ職員による継続ケア:
- 職員の定着率が向上することで、同じ職員から継続的にケアを受けられるようになります。これにより、利用者と職員の信頼関係が深まり、より個別に対応したケアが可能となります。
- コミュニケーションの円滑化:
- 定着した職員とのコミュニケーションが円滑に進み、利用者のニーズや要望が迅速かつ的確に反映されます。利用者の生活の質の向上に繋がります。
このように、介護職員処遇改善加算が新しくなり、内容も拡充されることで、介護職員側だけでなく利用者にとっても多くのメリットが考えられます。
利用者が注意すべき点と料金変更の時期
利用者が注意すべき点
- 料金の変動:
- 2024年6月から新しい加算制度が施行されるため、一部のサービス利用料金が上昇する可能性があります。利用者やその家族は、事前に事業所からの説明を受け、どのような影響があるかを確認しておくことが重要です。
- 高額介護サービス費:
- 負担額が高額になる場合、一定額を超えた分は申請により払い戻しを受けられる「高額介護サービス費」の制度があります。この制度を利用することで、負担を軽減できる場合がありますので、対象になるか確認しておきましょう。
料金の変更時期
新しい加算制度は2024年6月から施行されます。これに伴い、料金の変更が適用されるのも同時期となります。ただ、介護サービスの利用料金は翌月以降の請求されます。これは、介護サービスの利用料金は、一か月の利用分を確定してから国に請求を行い、そのあとに利用者に請求をするという手順を踏むからです。遅れて請求金額が変更されることを念頭に置きましょう。
また、事前に事業所からの通知や説明があるかと思います。4月に料金が変わったサービスもありますが、処遇改善加算は6月に時期をずらして改定されます。つまり、多くのサービスでは時間差、二段階の料金変更が発生することになります。
具体的な金額は事業者から説明があるかと思いますが、参考に厚生労働省の説明用リーフレットを掲載します。
旧処遇改善加算と新処遇改善加算の対比を掲載しておきます。
※旧加算はこのほかに特定処遇改善加算・ベースアップ加算がありますが、ここでは割愛しております。
サービス区分 | 旧加算率I | 旧加算率II | 旧加算率III | 新加算率I | 新加算率II | 新加算率III | 新加算率IV |
---|---|---|---|---|---|---|---|
訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% | 24.5% | 22.4% | 18.2% | 14.5% |
夜間対応型訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% | 24.5% | 22.4% | 18.2% | 14.5% |
定期巡回・随時対応型訪問介護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% | 24.5% | 22.4% | 18.2% | 14.5% |
訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% | 10.0% | 9.4% | 7.9% | 6.3% |
通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% | 9.2% | 9.0% | 8.0% | 6.4% |
地域密着型通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% | 9.2% | 9.0% | 8.0% | 6.4% |
通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% | 8.6% | 8.3% | 6.6% | 5.3% |
特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% | 12.8% | 12.2% | 11.0% | 8.8% |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% | 12.8% | 12.2% | 11.0% | 8.8% |
認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% | 18.1% | 17.4% | 15.0% | 12.2% |
小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% | 14.9% | 14.6% | 13.4% | 10.6% |
看護小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% | 14.9% | 14.6% | 13.4% | 10.6% |
認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% | 18.6% | 17.8% | 15.5% | 12.5% |
介護老人福祉施設 | 8.3% | 6.0% | 3.3% | 14.0% | 13.6% | 11.3% | 9.0% |
短期入所生活介護 | 8.3% | 6.0% | 3.3% | 14.0% | 13.6% | 11.3% | 9.0% |
介護老人保健施設 | 3.9% | 2.9% | 1.6% | 7.5% | 7.1% | 5.4% | 4.4% |
短期入所療養介護(介護老人保健施設) | 3.9% | 2.9% | 1.6% | 7.5% | 7.1% | 5.4% | 4.4% |
介護医療院 | 2.6% | 1.9% | 1.0% | 5.1% | 4.7% | 3.6% | 2.9% |
短期入所療養介護(介護医療院) | 2.6% | 1.9% | 1.0% | 5.1% | 4.7% | 3.6% | 2.9% |
事業者向け:重要事項説明書の変更同意書、記載例
ここからは介護サービス事業所の方に向けてお知らせします。
加算の内容が変更になったら料金が変わります。この場合、「重要事項説明書」の記載内容を変更し、利用者に説明・周知をしなければいけません。法改正で「勝手に」変わるだけなのに!とか、介護保険料が変更になっても誰も役所は説明に行かないぞ!とか、おっしゃる通りですが、介護保険事業者には説明の義務があります。
しかも、今回は4月と6月の2段階で変更がありますので、2回説明している事業所も多いと思うんです(弾力的な運用も可能と通知あり)。
ということで、処遇改善加算が変更になったときのひな型・記載例を紹介します。
重要事項説明書 変更同意書
_______様(以下利用者)と_(法人名)_(以下事業者)とで締結した重要事項説明書の内容に関し、以下の内容で変更を行います。
変更事項
以下の内容で料金変更があります。
1.介護職員処遇改善加算の変更
現行(令和6年5月31日まで)
介護職員処遇改善加算(Ⅱ) | 加算率 ○% |
介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ) | 加算率 ○% |
介護職員等ベースアップ等加算 | 加算率 ○% |
変更後(令和6年6月1日より)
介護職員処遇改善加算(Ⅱ) | 加算率 ○% ※1か月の単位数の総計に(〇)%を乗じて算出した単位 |
算定根拠: キャリアパス要件( )、月額賃金改善要件( )、職場環境等要件( )
令和 年 月 日
事業者は、利用者へ本書面に基づき、上記変更内容の説明を行いました。
所在地
事業者(法人)名
代表者職・氏名
説明者職・氏名
私(利用者)は、事業者より上記のとおり契約及び重要事項の変更内容について説明を受け、同意しました。
利用者
住所
氏名
署名代行者(又は法定代理人)
住所
氏名
本人との続柄
双方で一通ずつ書面を保有することになります。もちろん、電子署名など、電子での対応も認められます。
まとめ
2024年介護報酬改定に伴う介護職員処遇改善加算の変更について掲載しました。
介護職員が長く働き続けるためには、その環境が大切です。他の業界よりも低い賃金では働きたいという人も集まりません。今後の介護を考えるうえで、介護職員の処遇改善は重要なテーマです。
介護職員の賃金自体はゆるやかに上昇しているものの、他業界の賃金上昇率からみると介護はまだまだ魅力的な職場として見られないのかもしれません。賃金だけでなく、介護がもっと働きやすく、10年20年先のキャリアに希望が持てるものになることを願っています。
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
(運営会社:株式会社ユニバーサルスペース)
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