この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
老健は、介護が必要な方が利用し、リハビリや健康管理によって自宅での生活を取り戻すための施設です。具体的に、どんな特徴があるのか、どのくらいの費用がかかるのかについてご紹介し、施設選びに迷っている方の参考になる情報を解説していきます。
★こんな人に読んでほしい!
- 老健を勧められたけど、詳しくはわからない方
- 入院中で退院したあと自宅に戻るのが不安な方もしくはそのご家族
- 老健を検討しているが費用が気になる方
★この記事で解説していること
- 老健は自宅と病院の中間に位置付けられる、在宅復帰のための施設
- リハビリや医療体制が充実している点が特徴
- 老健は初期費用不要で場合によっては減免制度で安くなる
- 特養とは違い、長期的な施設としての利用は難しい
1. 老健とは?わかりやすく解説
1-1. 介護老人保健施設とは
介護老人保健施設(以下:老健)は、介護が必要な人が自宅で生活をするために、介護や機能訓練、医療、日常生活のお世話を受けることができる施設です*1。介護が必要な方が利用できる施設はいくつか種類がありますが、介護老人保健施設には以下のような特徴があります。
- 在宅復帰、在宅療養の拠点となる施設
- 自宅と病院の中間にあたる施設
老健で行われるケアは、「居宅における生活への復帰を目指すものでなければならない」とされています。つまり、入所したらそのまま長く居続けるのではなく、その大きな目的は「在宅復帰」です。病院からそのまま自宅に帰ることが不安な方が、老健を経由して自宅生活のための準備やリハビリをしたり、自宅に暮らしている方が心身機能を保つために定期的に入退所を繰り返したりして利用することも可能です。
また、老健には医師や看護師も在籍しています。あくまでも、病院ではなく介護施設のため、提供される医療は医学的な管理や看護が中心となりますが、家庭内では十分にケアできない医療面のお世話も受けることが可能です。
老健には、要介護1~5の方が入所することができます。その他の介護施設に比べると、要介護1や要介護2の方の割合も比較的多く、軽度の方から重度の方まで活用されていることが分かります*1。割合としては、要介護4の方が最も多く、2番目に多いのが要介護3です。要介護2と要介護5は同じくらいの割合となっています*1。
1-2. 医療体制が充実している
老健の人員基準は、医療分野の専門職が充実している点が特徴です。介護保険法で定められている職員の人数の基準と業務内容を見てみましょう*1。なお、ここでご紹介するのは入所定員100人あたりの人員配置基準です。
職種 | 人員配置基準 | 定員100人あたりの配置数 | 主な仕事内容 |
医師 | 常勤1人以上 | 1人 | ・利用者の健康管理(診断、治療、処方など)・在宅復帰に向けたリハビリテーションの指示 |
看護師 | ・入居者3人に対して看護師もしくは介護職員が1人以上・看護師、介護職員の総数の7分の2程度 | 9人 | ・医師の指示のもと診療の補助、療養上の世話 |
介護士 | ・入居者3人に対し、看護師または介護職員が1人以上・看護師、介護職員の総数の7分の5程度 | 25人 | ・利用者の身の回りの世話や日常生活上の介護 |
理学療法士作業療法士言語聴覚士 | いずれか1人以上 | 1人 | ・専門的知識と技術に基づくリハビリテーションの実施 |
支援相談員 | 入居者100人に対し1人以上 | 1人 | ・利用者やその家族からの相談対応・レクリエーションの計画、指導・市町村や関係機関との連携 |
介護支援専門員 | 常勤1人以上 | 1人 | ・介護サービス計画書(ケアプラン)の作成、更新 |
栄養士 | 入居者100人以上の場合1人以上 | 1人 | ・栄養バランスに優れたメニューの考案、利用者に適した食事形態への対応 |
以上のように、在宅復帰施設としての役割を持つ老健は、医療の体制が充実している点が特徴です。特に、常勤の医師や理学療法士などのリハビリ専門職が人員配置に含まれていることは、医療面での心配がある方やリハビリを頑張りたい方にとって心強いポイントでしょう。
もちろん、以上の人員配置基準は、あくまでも基準です。人員配置以上の専門職が配置されていることも珍しくありません。
リハビリを目的に入所したいと検討している方にとっては、その頻度も気になるところでしょう。基本的に、入所者は週2回以上、1回あたり20分~30分のリハビリを受けることができます。さらに、入所してから3ヶ月までの間は、短期集中リハビリの対象となり、週3回以上のリハビリを受けることが可能です*2。
1-3. 退所後の生活を踏まえたリハビリテーションと環境調整
老健入所中のリハビリは、在宅復帰を目的としたものになっています。そのため、それぞれの利用者の自宅環境を想定し、家での暮らしが安全に、無理なく行えることを目標にして実施されます。
施設の暮らしと自宅の暮らしでは、環境が大きく異なります。いざ自宅に帰った後で困ることのないように、入所中に自宅を訪問して環境を確認し、必要に応じて住宅改修や福祉用具のアドバイスを受けることも可能です。また、退所時指導として、自宅での生活についてのアドバイスももらえます。こうしたサポートは、リハビリ専門職はもちろん、医師や看護師、介護職員などからも受けることができます*3。
1-4. 老健への入所申し込みと入所対象者
老健に入所したい場合、まずは入所対象者にあたるかどうかを確認しましょう。老健に入所できるのは、以下に該当する方となります。
- 要介護1~5の認定を受けている方
- 病状が安定し、入院治療の必要がない方
入所申し込みは、利用者本人やその家族が、施設に対して直接行います。やりとりを円滑に行うために、自宅で暮らしている方はケアマネジャー、入院中ならケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーに相談し、仲介してもらうのもおすすめです。
2. 老健の費用目安
2-1. 介護サービス費・居住費・食費・日常生活費が毎月かかる
老健への入所で発生する費用は、主に、介護サービス費・居住費・食費・日常生活費です。入居一時金は不要で、入居時に支払う初期費用はありません。入所中の医療に関しては、基本的に介護サービス費の一部に含まれています。特別な治療や診察を受けない限り、医療費が発生することはなく、入所中の薬の費用も心配いりません。
介護サービス費は、施設の種類や居室の種類、要介護度、加算の有無、自己負担割合、地域によって変動します。そのため、分かりにくいと感じる方もいるでしょう。
老健には、在宅復帰の実績などによって、いくつかの施設区分に分けられます。在宅復帰を積極的に推進し貢献している施設は「在宅強化型」や「超強化型」の老健となり、「基本型」や「その他」にあたる老健に比べると介護サービス費そのものが少しばかり高く設定されています。
2-2. 介護サービス費は老健の種別で変わる
それでは、具体的に介護サービス費の目安を見てみましょう。ここでは、「在宅強化型」と「基本型」の老健の介護サービス費*4を、居室の種類や要介護度別にまとめています。
在宅強化型老健の介護サービス費
要介護度 | 多床室(1日あたり) | ユニット型個室・ユニット型個室的多床室(1日あたり) |
要介護1 | 836円 | 841円 |
要介護2 | 910円 | 915円 |
要介護3 | 974円 | 978円 |
要介護4 | 1030円 | 1035円 |
要介護5 | 1085円 | 1090円 |
※1単位=10円、自己負担割合1割の場合
基本型老健の介護サービス費
要介護度 | 多床室(1日あたり) | ユニット型個室・ユニット型個室的多床室(1日あたり) |
要介護1 | 788円 | 796円 |
要介護2 | 836円 | 841円 |
要介護3 | 898円 | 903円 |
要介護4 | 949円 | 956円 |
要介護5 | 1003円 | 1009円 |
※1単位=10円、自己負担割合1割の場合
3.減免制度の活用で費用負担が軽くなる
3-1. 特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)
所得の低い方々でも介護保険施設を利用しやすいように、経済的な負担が軽減される制度*5です。具体的に言うと、老健の入所費のうち、食費と居住費が安くなります。
この制度は、すべての方が対象になるわけではありません。課税状況や、年金収入額、その他の所得額、資産の状況によって、該当するかどうかが決まります。
対象者かどうかは、お住まいの行政機関が審査をして決定します。介護保険の担当窓口に申請書を提出し、該当になると負担限度額が記載された認定証が届きます。
3-2. 高額介護サービス費
1ヶ月に支払う介護サービスの利用者負担額が所得状況に応じて決められた基準(負担限度額)よりも多い場合、その超えた額が払い戻される制度*6です。
負担限度額は、利用者本人の世帯の所得に応じて決まります。課税所得が多い世帯では負担限度額の上限は一般的な世帯に比べると高いです。一方、非課税世帯など所得が低い世帯では負担限度額の上限が低くなります。
3-3. 高額医療高額介護合算療養費制度
病気やケガの治療の負担と、介護サービスの利用の負担の両方があり、それらの合算額が非常に高額になる場合の経済的な負担を軽減できる制度*7です。
基本の限度額は年額56万円ですが、所得の額や本人・家族の年齢によって変わります。低所得世帯の場合は、より低い限度額の適用となり、これを超えた額については後に支給という形で手元に戻ってくる仕組みです。
4. 老健のメリット・デメリット
4-1. 老健のメリット
介護施設の中で、老健を選ぶメリットはたくさんあります。
・在宅復帰が目指せる
「介護が必要になってもできる限り自宅で生活したい」と考える方は多いでしょう。短期間の集中的なリハビリや健康管理によって、元気を取り戻したり、できることが増えたりすると、自宅での生活に対する不安が和らぎます。
・在宅復帰の準備ができる
入所期間中に、自宅の介護リフォームや在宅で利用する介護サービスの調整、自宅で使いやすい福祉用具の選定などが行えます。
・リハビリスタッフによる機能訓練が充実している
老健では、必ずリハビリスタッフとの関わりがあり、専門的な機能訓練等を行うことができます。自宅と病院の間に位置する老健だからこそ、リハビリは生活の中で自然と取り入れられるものも多く、自宅での暮らしに活かせることが可能です。
通所リハビリ(デイケア)・訪問リハビリの事業所を併設していることが多く、退所後も継続したリハビリテーションを受けることができるのも大きな魅力です。
・手厚い医療ケアが受けられる
医学的な管理が必要な方や、処置が必要な方にとっては、医師や看護師のいる老健は心強い存在です。家庭内では十分に行えない範囲の健康管理ができることで、病状が安定したり、状態が安定したりする可能性もあるでしょう。
・初期費用が抑えられる
老健は公的な介護保険施設です。入居一時金などの初期費用はかからず、利用日数に応じた費用の支払いとなっています。
・最近は看取りも可能
老健には、在宅復帰としての役割の他、終末期の生活を支える役割もあります。「延命治療は期待しないけれど、自宅での看取りは難しい」という場合にも選ばれています。
・定期的な利用ができる
例えば、自宅で3ヶ月過ごして、老健に3ヶ月入所し、また自宅に帰るといったように、”行ったり来たり”することができる施設です。リハビリをして心身の機能を保ちながら、無理なく在宅生活を送ることが可能です。
・順番待ちが少ない施設も多い
長期的に入所できる施設は、申し込みをしてもなかなか順番が回ってこない可能性があります。一方、老健は、在宅復帰によって入所者の入れ替わりのサイクルが早く、順番待ちの人数も少ない施設が多いです。
4-2. 老健のデメリット
人によっては、老健の特徴がデメリットに感じられることもあるようです。具体的に、どのような点がデメリットに感じられやすいのか見てみましょう。
・入所期間が限られることもある
老健では、3ヶ月ごとに入所を継続すべきかどうかの見直しが行われます。施設の経営方針にもよりますが、基本的には3ヶ月~6ヶ月程度で退所を勧められることが多いです。特に強化型老健と呼ばれる在宅復帰を積極的に促進していくタイプの老健では早期の退所に向けてリハビリを行っています。老健のタイプによっても異なるので注意しましょう。
・相部屋が多い
個室の数が少ない老健が珍しくなく、相部屋での生活となる場合が多いです。個室を利用すると、居住費が高くつき、相部屋よりも利用料が高額になる可能性もあります。
・生活支援は充実していない
買い物の代行や外出の同伴などは、サービスのなかに含まれていません。家族などに依頼をして、用事を済ませる必要も出てくるでしょう。
・イベントやレクリエーションは少ない傾向にある
老健は、リハビリがメインとなる施設です。余暇活動を楽しむような取り組みは、その他の介護施設に比べると頻度が少ない傾向にあります。
・入院になると退所しなければならない
病気やケガで入院しなければならなくなった場合、老健の部屋をそのまま確保することはできません。この場合、退所という扱いになり、退院時に再度入所したい場合はもう一度契約を交わして入所することとなります。
・以前かかっていた主治医にかかることができない
老健入所中は、施設の医師が主治医となります。施設の医師の判断で、他の医師の専門的な判断が必要と認められた場合は、施設医師の紹介状を持って受診することが可能です。
・使用している薬が必ず施設でも処方されるとは限らない
入所中の処方は、施設医師が判断して行います。なかには、施設では処方できない薬もあり、特に高額な薬を服用している場合は入所を断られる可能性もあります。
5. 老健と特養の違い早見表
特別養護老人ホームは、公的な介護施設として老健と同様に多くの方に利用されています。しかし、老健と特養、その役割や特徴は異なるため、その違いを知っておくと便利です。
老健 | 特養 | |
主な役割 | リハビリ等の提供により在宅復帰を目指す | 家庭で生活することが困難な方のための生活の場 |
入所対象者 | 要介護1~5 | 原則、要介護3~5 |
設備の特徴 | リハビリの道具や機材のある機能訓練室が充実 | 生活に必要な設備と余暇が充実するような設備 |
部屋タイプ | 個室・多床室※多床室の割合が多い傾向 | 個室・多床室※全室個室の施設も多い |
入居期間 | 3ヶ月ごとに見直し | 終身利用する方が多い |
待機期間 | 待機者が比較的少なく入居しやすい | 待機者が多く入所までに数ヵ月~数年待ちのこともある |
老健と特養では、施設の役割が異なることから、設備や入居期間の目安、待機期間などに違いが見られます。
あくまでも、一時的なリハビリ施設である老健は、生活の場というよりもリハビリ色の強い施設となっており、リハビリ機材などを構える機能訓練室がある点が特徴です。
老健からの退所先として、家庭が占める割合が約33%、死亡による退所は12%となっています。一方、特養の場合は家庭への退所がわずか1%、死亡による退所が67.5%です。このことからも、老健は在宅復帰が前提の施設であり、特養は終の住処としての役割が大きいことが分かります。
わかりやすく言うと、特養は生活の場、老健はリハビリの場。その役割の違いを理解しておきましょう。
6.老健入所中に入院すると退所扱いになるって本当?
よく質問いただくことがあるのが、老健入所中に病院へ入院した場合についてです。老健から入院したらもう老健に戻ることはできないんですか?また施設を探し直さなくちゃいけないんですか?と質問いただきます。
必ずしもそういったわけではありません。
ただし、老健は基本的にいつまでも入所できる施設ではないので、入院期間が長くなる場合には退所扱いになる場合もあります。入所期間を三か月と定めていて、その期間を越えてしまう場合には、退院するまでいつまでも部屋を取っておくということはできません。
また、入院によって状態が明らかに変化する場合、老健での生活が難しいと判断されることもあります。頻回な痰吸引などが必要になる場合、老健では医療的なケアに限界がありますので、療養型の病院などに転院することも考えられます。入院によって認知症が進行して、他の利用者に危害を加える恐れなどがある場合は老健で受け入れができないというケースもあります。
強制退去というと言葉が強いかもしれませんが、入院によって老健を退所扱いになる場合もあることを覚えておきましょう。
退所扱いになったとしても、病院退院後にその老健が再び受け入れを行う場合もありますし、他の老健や施設で受け入れを行う場合もあります。もちろん、自宅という場合もあります。退院後の生活の場については病院の医療ソーシャルワーカーや医療相談室等の退院支援の相談窓口に相談しましょう。
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