いえケア 編集部
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いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
ケアマネ更新研修が揺れています。
過去の記事でも紹介した通り、ケアマネの人材不足が深刻化しています。
そこで注目されるのがケアマネの負担軽減。ケアマネの大きな足枷になっているのが、その研修制度。ケアマネの更新研修を廃止すべきという意見が現場の多くのケアマネジャーから上がり、署名活動に発展しています。
これまでも、ケアマネ更新研修不要論は根強くありましたが、ここまで表面化し大きなムーブメントとなったことは初めてではないでしょうか。なぜ今、ケアマネ更新研修の意義が注目されているのか。この記事ではケアマネの研修制度の不要論についてまとめます。
【この記事を読んでほしい人】
- ケアマネの法定研修の仕組みに疑問を持っている人
- ケアマネが減っている原因について知りたい人
- ケアマネ更新研修の不要論について論拠が足りないと思っている人
【この記事で解説していること】
- ケアマネの人手不足深刻化の原因のひとつが更新研修であること
- ケアマネ更新研修が不要とされている3つの理由
- ケアマネが更新研修以外に自主的に研修に参加する理由
ケアマネの研修制度とケアマネを取り巻く現状
減少するケアマネ、高齢化するケアマネ
まずはケアマネの研修体系について簡単におさらいします。
ケアマネジャーになるためには、介護福祉士や看護師などの国家資格を基礎資格として有する専門職が実務経験を積み、実務者研修受講試験(いわゆるケアマネ試験)を合格し、介護支援専門員実務者研修に合格しなければいけません。
合格率は例年20%前後で、1万人前後の合格者が毎年生まれています。
現場には毎年1万人のケアマネジャーが投入されている。はずですが、残念ながらそうではありません。以下の図で示している通り、近年、居宅介護支援事業所に勤務するケアマネ従事者数は減少を続けています。
ケアマネの資格を取得しても、「ケアマネとして働きたくない」人も多く、離職者も増えています。資格があってもケアマネの仕事をしない「潜在ケアマネ」が増えている状況です。介護保険創成期から現場を支えてきた多くのベテランケアマネも定年退職・引退を迎えています。ケアマネの平均年齢は53歳を超え、深刻な高齢化が進んでいる現状です。
今後数年でさらに多くのケアマネが引退を迎えるため、人員不足がますます深刻化することが確実視されています。
介護職員の給与が処遇改善等で引き上げられているのに対し、ケアマネの賃金の改善は進まず、介護報酬上も十分評価されているとはいえず、賃金の逆転現象が起きていることなども大きな要因となります。
賃金の問題だけではありません。ケアマネが減っている大きな原因の一つとして注目されているのが、ケアマネ更新研修です。
ケアマネの更新研修
ケアマネ資格は更新制がとられています。ケアマネジメントの質を向上するために、実践的な知識を身に着ける場として、資格更新のためには更新研修の受講が必須となっています。
更新は5年に一回。なお、主任ケアマネも5年に一回の更新が必要です。下の図の通り、ケアマネとして働き続けるためには、これだけの研修を受講することが必要となります。
ちょっと見るだけでうわっと、なりそうですが。ケアマネとして働き続けるためにはこのループから抜け出すことはできない仕組みになっています。
ケアマネ更新研修は各都道府県単位で開催されます。研修実施事業者及び都道府県は、以下のようなPDCAサイクルを構築し、研修を開催することが求められています。
また、更新研修のカリキュラムは以下のようになっています。今回の見直しで5年ごとの更新に必要な研修時間数は88時間に設定されました。
ケアマネ更新研修は不要
ケアマネ更新研修は必要か?
ケアマネ研修は必要とする人と、ケアマネ研修は不要と考える人。双方の視点から(なるべく客観的に)考えてみたいと思います。
まず、ケアマネ更新研修は不要・ケアマネ更新研修は廃止すべきだとする意見についてまとめていきます。
前提として、「ケアマネ更新研修は不要」だ、という人も、ケアマネジャーは勉強する必要がないとか、ケアマネジャーは研修する必要はないとか、勉強するのは無駄だとかいう人はいません。ニーズも多様化する中、自身のケアマネジメントスキルをブラッシュアップし、わからないことは調べ、新たな知識を習得することを日常的に行っています。ケアマネジャーは自身の質の向上に無頓着だという偏見を持っている専門家や識者がいるとしたら、これこそ本当に残念なことだと思います。
ケアマネ更新研修を廃止すべきであるという意見の根本には、地域からケアマネがいなくなる、ケアマネの成り手がいなくなるという状況を避けるためです。
ケアマネの成り手を増やすための最も直接的な方法としては、ケアマネの待遇を改善することなのですが、これは、そうそう容易なことではありません。ケアマネの処遇改善加算や報酬増などを要望しても、まったく進展しない状況が続いていました。介護保険財政の危機的状況も肌で感じている多くのケアマネは、介護保険財政に影響を与える処遇改善はハードルが高く、早期の実現は難しいのではないかと感じています。
であれば、ケアマネにとって大きな負担となっている更新研修を廃止することで、ケアマネの待遇を改善すべきではないか、という声につながっています。
ここで、現場から上がるケアマネ更新研修についての3つの問題点について、整理しながら解説します。
法定研修にかかる費用が高額すぎる
ケアマネの法定研修の受講費・受講者負担金額は都道府県で設定しています。この費用には地域ごとに大きな開きがあることがわかっています。以下に示しているのが、令和3年度、都道府県ごとの法定研修の費用一覧です。
※全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 令和5年3月
すごい見にくいのですが、更新で7万5千円かかる自治体もあれば、2万円だけという地域もあります。5万円以上の金額の開きがあるのですが、果たしてその内容や効果にどんな差があるかは誰にも見えません。
ちょっと見にくいと思うので主任ケアマネ研修に限定してみるとこのようになっています。最高額は岐阜県で7万900円、最低は秋田県の2万1400円となります。基金を活用して金額を下げている都道府県もありますが、基金を活用していない福岡県でも3万円と、最高額の自治体とは倍以上の金額の開きがあります。なぜこれほどまでに金額の差があるのか、本当にこの費用は妥当なのか、多くの疑念を生んでいます。
※全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 令和5年3月
コロナ渦で更新研修もオンライン化が進みました。会場の確保や、書類の印刷代、準備の手間なども軽減されたはずなのに、金額は据え置きというところが多かったことも事実です。
この受講費用、ケアマネを雇用している事業者が負担するのではなく、受講者が負担しているケースも少なくありません。日本総研による介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業では、研修費用についてこのような調査結果が判明しています。
受講費用全額をケアマネ個人が負担して研修を受けているという方が全体の3分の1を超えていることが判明しています。ポケットマネーから7万円を納めてまで、研修を更新しなければいけないとなると、これはケアマネ個人にとっても大きな負担になります。
主任ケアマネになっても、5年ごとの更新研修受講が必要になります。主任ケアマネの更新研修がもっとも高額な愛知県であれば受講費用は56,400円。5年に一度の更新なので、資格の維持の為だけに毎年1万円以上のペースでお金を納めている計算になります。
また、更新時には研修受講費用だけでなく、協会に支払う更新手数料も別にかかります。
もちろん、日本ケアマネ協会、都道府県のケアマネ協会、市のケアマネ協会などに会員として会費を収めるとなるとさらに大きな負担になります。これだけの重い負担・個人負担のコストが発生しているとなると、ケアマネの仕事から離れたいと思う人がいても十分に理解できます。
「更新研修を前にケアマネをやめる」、「次の更新はしない」と言って退職するケースも非常に多く、更新研修が5年に一度の時限爆弾となってケアマネ減少のきっかけを与えていることもまた事実です。
法定研修の内容には効果があるのか?
法定研修の効果や質についても疑問の声が上がっています。
同じく日本総研による介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業から引用すると、法定研修の内容や質についての疑問の声も上がっており、「講師の質に問題がある」と回答した受講者が31.3%と、かなり高い数字になっています。主任ケアマネ更新研修にもなると、講師よりも受講者の方が経験や知識を持つケースも多く、長時間、質の低い講師の指導を受けることを苦痛に感じ、不満が募っていることがわかります。
同じ資料からですが、研修の効果について、研修の実施機関と受講者の間の認識に大きなギャップがあることもわかっています。
実施機関側は、受講者はほぼ100%、研修内容に満足しているだろうと判断しています。ただ、受講者の満足度はかなり低く、満足度は55.1%にとどまっています。
さらに、研修で学んだことを日々の業務に活用できるかという質問に対しても、実施機関側は80%程度でかなり高いものの、受講者側では55.7%とこちらも大きく数を落としています。
ここから何がわかるかというと、研修実施機関側は、「受講者も満足しているし、研修の内容は現場で発揮できるはず!」と信じて疑わないのに対し、受講者側の半数は「研修の内容に不満だし、こんなの現場で活用できない」と感じていることがわかります。つまり、両者の間で研修の質や効果について、大きな認識のギャップが生まれているのです。
法定研修はPDCAサイクルを構築してフィードバックしていくという話になっていたはずです。ただ、ケアマネ研修に関してはこの状態が続いており、PDCAサイクルはすでに崩壊していると言っても過言ではありません。自己評価もできない研修機関の行う研修にどれだけの効果があるのでしょうか。
ちなみに、主任ケアマネ研修や主任ケアマネ更新研修では事例検討会といって、提出された事例をもとに、参加者によるグループワークで多くの時間を費やしていました。グループワークなんてただのグループワークのためのコツをつかめばグループワーク無双できます。
ポイントは「事例提出者が解決したいこと」を無視して、対象者の成育歴やパーソナリティを深堀して、問題となった行動の背景を探ること。それだけです。一発で解決することなんてないので、対象者を理解することで今後の行動のヒントを提供することができればそれで事例検討は終わりです。これだけの話です。興味ある人はやってみてね。
研修のカリキュラムの見直しが行われ、「適切なケアマネジメント」に基づいた研修カリキュラムが組まれています。実務未経験者も、更新も、主任も、主任更新も、この適切なケアマネジメントをもとに研修を行います。心疾患のある人のケアマネジメントはどうこうというような、疾患別ケアマネジメントに重点を置いています。どんなキャリア段階にあっても、繰り返し繰り返し、適切なケアマネジメントを学ぶのです。
ケアマネジメントは医療モデルの管理下に置かれたと言ってもいいでしょう。疾患別なんて、知らない病気が出てくることは仕方ないので、その都度調べたらよくね?と言いたくなります。
研修の時間が長すぎる
研修の時間は更新研修88時間。88時間です。気が遠くなります。
およそ11日間の研修カリキュラムです。受講する日程は基本的に選べません。補講もないので基本、何があっても休めません。冠婚葬祭だろうが何だろうが考慮されることはありません。それがケアマネ法定研修です。
また、比較的短期間で研修が行われます。その期間、ケアマネは研修の日程を確保しなければいけない分、稼働日数が減ります。新規受け入れの件数を調整するなどやりくりをしなければいけません。すべてのケースのモニタリング訪問も含め、研修に参加することで業務に大きな皺寄せがのしかかるのです。
ケアマネの業務では、突発的な対応が必要な場面も数多くあります。研修中はそういった対応が必要な場合があっても、研修中に電話やメールをすることも許されません。複数のケアマネがいる事業所であれば連携もできますが、ひとりケアマネ事業所ではそうもいきません。
これだけの長期間ケアマネが業務につけないとなると、利用者の支援や事業所運営に大きな影響が出ることは誰の目にも明らかです。
以上、ケアマネ研修を不要と考える人から見たケアマネ研修の問題点をまとめました。
言葉を選ばずに言うと、「現場で役に立たない」研修に「高額な費用を自己負担」して参加し、「業務に支障があるほど拘束されて」いる、というのが更新研修廃止側の意見です(個人的な意見ではありませんのであしからず)。
これに対して、更新研修が必要だという人の意見を見ていきます。
ケアマネ研修は必要と考える意見
ケアマネ更新研修を必要だという方の意見も紹介します。
ケアマネ更新研修の意義
更新研修継続派側は、ケアマネには継続的に研修する機会が必要だとして、更新研修の必要性を主張しています。ケアマネジメントの質の向上を目指したとしても、本当に質が向上しているのか。
ケアマネ更新研修の意義・目的についてはこのように実施要綱に記載されています。
介護支援専門員証に有効期限が付され、更新時に研修の受講を課すことにより、定期的な研修受講の機会を確保し、介護支援専門員として必要な専門知識及び技術の修得を図ることにより、専門職としての能力の保持・向上を図ることを目的とする。
果たして、この能力の保持・向上にどれだけ役立っているのか。
たとえば、主任ケアマネ研修で事例検討などの他のケアマネを育成するためのスキルを身に着けたのだとしても、ひとりケアマネの事業所ではそれを活かすこともできません。施設や、小規模多機能、グループホームなど様々な職場がある中で、居宅介護支援事業所を題材にした研修内容でまったく業務に生かせないこともあります。
必ずしもすべての参加者にとって実務で有用な内容ではなく、質の向上につながらない研修も生まれていることは事実です。
法定外研修以外にもケアマネは研修を受講している
ケアマネジメントの質の向上につながる研修であればケアマネジャーは積極的に法定外の研修でも参加しています。
ケアマネジャーは以下のような知識を身に着けたいと思っています。この現実と、更新研修の内容は大きく乖離しているのです。
日本総研による介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業の資料を基に、受講したいテーマの調査結果を見ると、介護保険制度の動向・医師との連携や多職種連携・生活困窮者支援などのテーマに関心が集まっています。受講したいテーマがないと回答しているのはわずか3.1%。ケアマネジャーが研修を受けることへの意識の高さが表れています。
事業所内での研修、地域包括が行う研修、保険者単位で行う研修。関連事業者やイベントなどのセミナー、オンラインメディアなど、様々な機関から研修を受講する機会を得ています。
ひとつ言えることは、コロナ渦でオンラインの研修を受講する機会が増え、質の高い研修を無料もしくは低コストで受ける選択肢・機会が確実に増えました。それに比較して、同じフォーマットで繰り返される法定研修に対する目も厳しくなるのは当然と言えば当然です。ケアマネ更新研修が批判されているのは、研修に対する意識の高さ・向学心の強さからきているものでもあります。
必要な研修は自分で受けている・必要な学習は自分で学んでいる。ということは、裏を返せば、現場で必要となる知識技能の習得という法定研修が果たすべき役割を満たしていない、ということなのではないでしょうか。
ケアマネが減り続けており、需要に応じられなくなっている今、現行の更新研修という足枷を外して、ケアマネの負担軽減に取り組むことは大いに効果があると考えられます。
ケアマネの研修はどうあるべきか
もちろん、ケアマネが学習するする機会は重要です。
ケアマネも職場によって専門性も変わりますし、現場で必要とされるスキルを身に着けるためには、画一的なケアマネ研修は意味を持ちません。
例えば、単位制にすることなども大きな意味があります。より専門性がとがったケアマネがたくさん誕生すると思います。事業所が大規模化する今、得意分野を持ったケアマネ同士がチームとして成立することは大きな強みになります。ITに強いケアマネ、心理・メンタルケアに強いケアマネ・法理解に強いケアマネ・医療連携に強いケアマネ。弁護士や税理士などの士業もより専門分化を高めているのが現状です。地域に様々な能力を持ったケアマネが増えていけば、地域をより様々な視点からアセスメントすることができ、地域包括ケアシステムを推進していくことができます。
そのためには、外部団体・民間企業の研修もレポート提出などを通して単位として認め、一定の単位を修得することで更新の条件としてはどうでしょう。受講者の人数を確保するためにオンラインの開催にし、部分的にビデオ視聴などを取り入れることで受講側の負担軽減も図れます。
都道府県ごとに研修するのではなく、都道府県の枠を取り払うことで効率化し、質の高い講義をする講師を確保することができます。協賛企業も得ることで費用の負担も軽減できます。当然、受講はオンラインをメインにすることで、国の目指す業務効率化やICT化も推進することができます。
また、法改正なども含めた新しい知識について必修的な要素は集団指導で身に着けることが重要です。保険者が開催する集団指導をオンラインも含めて誰でも視聴できるようにしましょう。現状、集団指導を受講していない事業者も多いのが現状です。これをオンラインも含めて必ず受講できるようにすることが必要です。
制度改正についての注意事項や、事業所管理に関して守らなければいけないルールなどをここでしっかり伝えられるようにしなければいけません。
- 単位制にすることでより専門性の高いケアマネを育成する
- 専門的な外部団体の開催する講義を受講することで単位取得
- 広告などによって受講費用の負担を軽減
- オンラインを中心に開催
- 必修的な要素は集団指導を全事業所が必ず受講することでカバーする
ケアマネの質の改善を目指すためには、PDCAサイクルを回すこともできないケアマネ法定研修の主催者が変わらなければいけません。
国・都道府県・自治体・ケアマネ職能団体を含め、ケアマネの人材不足は待ったなしという、現状の危機意識を持つことが必要です。
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
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