この記事を監修したのは
介護認定審査会委員/株式会社アテンド代表取締役
河北 美紀
2000年4月に介護保険法が施行され、高齢者の介護を社会全体で支え合う国の仕組みである介護保険制度がはじまりました。介護保険制度の創設以来、65歳以上の被保険者数は約1.7倍に増加、サービスの利用者数は約3.4倍に増加しており(2021年3月現在)*1、医療・介護サービスのニーズが高まる一方で、医療・介護の財源や人材の不足が懸念されています。この記事では、介護保険制度について詳しくお知りになりたい方向けに、介護保険制度の成り立ちと目的、しくみ、介護保険法の最新の改正ポイントなどについて詳しく解説しています。
★こんな人に読んでほしい!
・介護保険制度について詳しく知りたい方
・介護保険制度の最新情報(改正など)について知りたい方
・公的な介護保険と民間の介護保険の違いについて知りたい方
★この記事で解説していること
・2000年4月に介護保険法が施行され、高齢者の介護を社会全体で支え合う国の仕組みである介護保険制度がはじまった
・介護保険の保険者は全国の市区町村で、国民は40歳になると被保険者として介護保険に加入し、毎月介護保険料を支払うしくみとなっている
・介護保険が利用できる条件は、要支援または要介護認定された65歳以上の方(第1号被保険者)、特定疾病が原因で要介護または要介護認定された40~64歳の方(第2号被保険者)で、自己負担額は前年度の所得に応じて1~3割である
・介護保険制度は3年に1度見直され、最新の改正は2021年度である。次回の改正は2024年度で、利用者の負担割合の増加やケアプランの有料化などが検討事項として議論されている。
・国の公的な介護保険が介護サービスを支給するのに対し、民間の介護保険(任意)は現金が支給され、保険会社によって保障内容や条件はさまざまである。
1. 介護保険制度とは?
1-1. 介護保険制度の成り立ちと目的
介護保険法は、1997年12月に国会で成立し、2000年に施行されました。高齢化が進み、介護を必要とする高齢者の増加や介護の期間の長期化などにより、介護の必要性が増大したことが介護保険制度が設けられた背景です。また、核家族化の進行や介護する家族の高齢化により、介護を必要とする高齢者を個人や家族だけでは支えきれなくなるため、社会全体で高齢者の介護を支えることを目的とし、国の仕組みとして介護保険制度が設けられました*2。
1-2. 介護保険制度を運営するのは市区町村。介護保険のしくみと対象者について
介護保険の財源の半分は被保険者の納める保険料、残りの半分は国・県・市が分担して負担している公費*2となっています。したがって、被保険者の納める保険料は、介護保険の給付費の半分を65歳以上(第1号被保険者)と40~64歳(第2号被保険者)の人口比で按分し、決定されています。
介護保険法に基づく介護保険制度を運営するのは、全国の市区町村です。市区町村が保険者であり、国民は40歳になると被保険者として介護保険に加入し、毎月介護保険料を支払うしくみとなっています。
介護保険の対象者*2
名称 | 第1号被保険者 | 第2号被保険者 |
対象者 | 65歳以上の方 | 40歳以上64歳以下で医療保険に加入している方 |
納付方法 | 公的年金が年間18万円以上の場合:年金から天引き 公的年金が年間18万円未満の場合:市区町村から郵送される納付書または口座振替 | 医療保険加入者:給料から天引き 国民健康保険加入者:国民保険料と一緒に納付 |
介護保険を利用できる条件 | 要介護認定で要支援または要介護と認定されること | 特定疾病が原因で、要介護認定で要支援または要介護と認定されること |
介護保険法で規定されている16種類の特定疾病*3
がん(がん末期) | 関節リウマチ | 筋萎縮性側索硬化症 | 後縦靱帯骨化症 |
骨折を伴う骨粗鬆症 | 初老期における認知症(若年性認知症) | 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病 | 脊髄小脳変性症 |
脊柱管狭窄症 | 早老症 | 多系統萎縮症 | 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症 |
脳血管疾患 | 閉塞性動脈硬化症 | 慢性閉塞性肺疾患 | 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 |
65歳以上の方は、要介護認定で介護が必要と認定された場合、介護保険のサービスを利用することができ、40~64歳までの方は、介護保険の対象となる16種類の特定疾病により介護が必要と認定された場合のみ、介護保険サービスを利用することができます。
2. 介護保険で利用できるサービスの種類
2-1. 介護保険で利用できるサービス一覧
介護保険で利用できるサービス一覧*4
自宅に訪問してもらう | ・訪問介護(ホームヘルプ)・訪問入浴・訪問看護・訪問リハビリ・居宅療養管理指導・夜間対応型訪問介護※・定期巡回・随時対応型訪問介護看護※ |
施設に通う | ・通所介護(デイサービス)・通所リハビリ(デイケア)・地域密着型通所介護(地域密着型デイサービス)※・療養通所介護※・認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)※ |
短期間の宿泊 | ・短期入所生活介護(ショートステイ)・短期入所療養介護 |
訪問・通い・宿泊を組み合わせる | ・小規模多機能型居宅介護※・看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)※ |
施設への入居 | ・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設・特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム等)・介護医療院 |
地域密着型の小規模な施設など | ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)※・地域密着型特定施設入居者生活介護※ |
福祉用具を使う | ・福祉用具貸与・特定福祉用具販売 |
※市区町村指定の事業者が地域住民に提供する地域密着型サービス
このほか、介護予防サービス、介護予防・日常生活支援総合事業があります。
2-2. 被保険者は介護サービスを1~3割の自己負担で利用できる
介護保険の被保険者は、これらの介護サービスを被保険者の前年度の所得に応じて1~3割の自己負担で利用できます。以前までは、1割または一定以上の所得のある方は2割の負担割合でしたが、2018年度の介護保険法改正により、現役並みの所得がある方は3割の負担割合となりました*5。
介護サービスを利用した際の支払いは、自己負担割合に応じて自己負担分を利用者が支払う現物給付方式となっています(残りの金額はサービス事業者や施設が国保連を通して市区町村に請求)。施設入所の食費や居住費などは介護保険の支給対象外のため、全額利用者負担となります。ただし、所得によって負担の上限額が決まっています。
介護保険サービスを利用する際の自己負担割合の判定基準など、詳細はこちらの記事をご覧ください。
3. 介護保険制度の利用方法や相談窓口
3-1.介護保険サービスを利用するには要介護認定の申請が必要
介護保険制度を利用して介護保険サービスを利用する場合には、要介護認定を申請し、要支援・要介護の認定を受けなければなりません。介護保険制度における要介護認定制度とは、介護の必要量を客観的に判定する仕組みです。
要介護認定の申請は市区町村の窓口で行います。市区町村の認定調査員による認定調査と主治医(かかりつけ医)の意見書に基づくコンピュータ判定(一次判定)が行われたのち、介護認定審査会により、一次判定の結果と主治医の意見書等に基づき最終的な判定が行われます(二次判定)。
要介護認定を受けたらケアマネジャーにケアプランを作成してもらい、介護保健サービスを利用することができます(要支援の場合は地域包括支援センターで作成)。
要介護認定申請の流れや方法など、詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
3-2. 困ったことや分からないことなどは地域包括支援センターを利用しましょう
高齢者の保健医療の向上および福祉の増進を包括的に支援することを目的として設置された地域の高齢者の総合相談窓口が地域包括支援センターです。2006年度の介護保険法改正によって創設されました。地域包括支援センターの運営主体は市区町村で、厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の調べによると、全国に5351ヶ所が設置されています(2021年4月現在)*6。
地域包括支援センターには、介護・保健・福祉の専門職が常駐しており、高齢者の暮らしに関する困りごとや不安などを気軽に相談でき、問題の解決に向けて具体的な提案をしてくれます。お住まいの住所ごとに管轄が分かれているため、インターネットで調べたり、市区町村の役所窓口へお尋ねください。
4. 最新の介護保険事情
4-1. 介護保険制度は3年に1度見直される
介護保険制度の創設以来、65歳以上の被保険者数は約1.7倍に増加、サービスの利用者数は約3.4倍に増加しています(2021年3月末現在)*1。また、2025年には全人口に占める65歳以上の割合は約30%、75歳以上の高齢者の割合は約18%に達すると予測され*1、医療・介護サービスのニーズが高まる一方で、医療・介護の財源や人材の不足が懸念されています。
こうした社会の実情に合わせ、介護保険制度は原則3年を1期とするサイクルで見直されることになっており、これまでに主な改正は6度ありました。直近での大きな介護保険法の改正は2021年度です。2021年度の改正については次の「4-2.最新の介護保険制度の改正ポイント」でくわしく解説しています。
これまでの主な改正*2
2006年度 | ・地域包括支援センターの創設・小規模多機能型居宅介護等の地域密着サービスの創設 |
2015年度 | ・要支援者が対象の介護予防訪問介護と介護予防通所介護を市区町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)に移行・低所得の第一号保険者の保険料の軽減割合を拡大 |
2018年度 | ・介護医療院の創設・特に所得の高い層の利用者の負担割合を2割から3割に見直し |
4-2. 最新の介護保険制度の改正ポイント
2021年4月1日から新たに改正された介護保険制度が施行されました。
2021年度の改正ポイント
改正ポイント | 利用者への影響 |
感染症や災害への対応強化 | 感染症の発生やまん延予防の措置が義務化され、非常時でも必要なサービスが安定的・継続的に提供されるようになる |
地域包括ケアシステムの推進 | 利用者の情報が介護職、医療職に共有され、適切な介護サービスと医療サービスを受けることができるようになる |
自立支援・重度化防止の取り組みの推進 | サービスの種類によらず、科学的根拠に基づいた心身の維持改善、自立支援に向けたサービスを受けられるようになる |
介護人材の確保・介護現場の革新 | 外国人材や中高年者の採用など、介護人材の多様化により、介護ロボット、AIの活用で介護の質の向上が期待できる |
制度の安定性・持続可能性の確保 | 公平で適正なサービスが利用できる |
4-3. 2024年度の介護保険法改正で検討されている事項
介護保険制度は改正されるたびに複雑化していると言われており、利用者の負担も増える傾向にあります。介護保険が必要になった場合に正しい知識をもって利用できるよう、介護保険制度の最新情報についての理解を深めることはとても重要です。
次回の介護保険法の見直し時期は2024年度です。改正が検討されている事項*7を紹介します。
これらはあくまで検討していくべき事項として議題にあがっているもので、改正の決定事項ではなく、見送りとなる可能性もあります。
介護保険の制度改正については多くの方が不安を感じています。
40歳会社員を対象に、介護保険制度に対する意識調査を実施した結果、2024年の介護保険制度の見直しに対して、およそ8割の方が「不安に感じている」と回答しています。保険料の増額や自己負担割合の変更などを特に不安に感じる内容として挙げています。
詳しくは以下のリンク先に掲載してありますのでご参照ください。
編集部注:
2022年12月19日の厚生労働省介護保障審議会介護保険部会において、
ケアプラン作成等、居宅介護支援(ケアマネジメント)の利用者負担導入 と
要介護1・2への訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行 は今回の制度改定には盛り込まないことでおおむね決定しました。
あくまで先送りであり、その次の制度改定2027年での実施を検討することとなっています。
制度改定に関する最新情報はこちらのページでまとめていますのでご参照ください。
5. 民間の介護保険との違い
これまで説明してきた国の介護保険制度は公的な介護保険で、民間の介護保険とは異なります。民間の保険会社が運営している介護保険は、自由に保険会社を選んで任意で加入するものです。公的な介護保険では介護サービスが支給されるのに対し、民間の介護保険は介護が必要となった場合に一時金などの現金が給付されます。保険会社によって保障内容や条件などはさまざまです。現金が支給されるため、介護にかかわるさまざまな出費を軽減できる可能性があります。
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