ひょっとしたらご存じの方もいるかもしれませんが、先日ツイッターのトレンドに「要介護1と2の保険外し」というキーワードが掲載されました。
と疑問に思う方もいたのではないでしょうか。
今回は、「要介護1と2の保険外し」というキーワードが注目された背景と、今後の展望についてお伝えしていきます。
いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
介護保険制度について
まずは簡単に介護保険の仕組みについて確認します。
介護保険は要介護認定を受けた被保険者が、必要なサービスを保険給付を受けて利用することができる社会保障制度です。
家族だけが介護を支えるのではなく、社会全体で支えることができるよう、税金と保険料を財源に、介護サービスを費用の1割から3割の自己負担で受けることができるという仕組みです。
介護給付という介護保険のサービスを利用できるのは、要介護1~5の認定を受けた人に限定されます。
この介護認定は、被保険者や家族が申請し、介護認定調査や主治医による意見書などの情報をもとにした市町村の認定審査会で決定されます。
最も介護の手間がかかるのが要介護5。数字が小さくなるに伴って介護にかかる手間が少なくなるという区分が設定されています。
かなりかいつまんだ説明をさせていただきましたが、詳しくはこちらの記事に掲載していますので、ご確認ください。
介護保険では、このように5段階に認定が分かれるのですが、そのうちの要介護1と要介護2に今回注目が集まっています。
なんと、この5段階のうち、要介護1と要介護2を介護保険の対象から外すということなのです。
要介護1と要介護2はサービスを使えなくなるの?
最大の目的は社会保障費の削減
近年、日本は少子高齢化が進み、介護保険や医療保険、生活保護などを含めた社会保障のために必要な財源が不足しています。
財源を確保するために、政府は消費税を10%に増税しています。その財源でも社会保障費の増加に対応しきれなかったということなのか、具体的な説明がないまま、議論は社会保障費の削減を急いでします。
そこで、介護保険の制度改正に合わせて、いくつかの財源カットが議論されていますが、そのひとつに「要介護1と2の保険外し」というものがあります。
在宅介護は成り立つのか?
要介護1と2は介護保険のサービスを使えなくなる、その状況がイメージできますか?
要介護1と2は認定も軽いから介護の手間もかからない、保険が使えなくても大丈夫なんじゃないの?
という考えは大きな間違いです。
要介護1や要介護2の方にも重度な認知症の方も多く、外へ飛び出して帰れなくなってしまう徘徊や、認知症に伴う暴言や暴力などの周辺症状がある方もいます。
身体的に重度な方も多く、車いすの生活で自力でトイレまで行くことも困難な状況にある方もいます。
このような状態にある人を、サービスを利用せずに対応するという大変さは想像を絶することです。
介護が大変なのに、家族は助けを求めることもできず、社会から孤立していきます。
さらに、今は核家族化が進み、一人暮らしの高齢者や高齢者夫婦のみの世帯も多く、誰も介護をする人がいないという状況も多く発生しています。
生活のサポートを受けられなければ、孤独死・孤立死という状況が数多く発生してしまいかねません。
要介護1、要介護2って、数字が低いからもっと元気なのかと思っていた!それじゃ、やっぱり介護保険使えないと困るんじゃないの!?
そうですね、だからそれを支える介護保険サービスが重要なんですよ!
つまり、要介護1と要介護2の認定であっても、介護保険の介護サービスは在宅介護を支える重要な支えになっているのです。
市町村による介護予防・日常生活支援総合事業
ここまで最悪の事態を説明してきましたが、実は現在も介護保険で要介護の対象にならなくても、サービスを受けることができる仕組みがあります。
それが市町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業です。
介護予防・日常生活支援総合事業では、要介護の手前、要支援という認定だった人への訪問介護・デイサービス・ケアマネジャーのサービスを管轄しています。
要支援になった方への訪問介護は介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスとして、ホームヘルパーや地域のボランティアなどが訪問して支援を行います。
デイサービスも同様に、介護予防・日常生活支援総合事業の通所型サービスという仕組みがあり、デイサービスなどを利用することができます。
ケアマネジャーも介護予防ケアマネジメントというケアプランを作成し、サービスの調整などを行います。
介護予防・日常生活支援総合事業は介護保険の財源をもとに市町村が実施します。
今回の「要介護1と2の保険外し」ですが、「要介護1と2はサービスを使えなくなる」ではなく、
正しくは、「要介護1と2は(介護給付という枠組みでの)サービスを使えなくなる」ことを意味しており、
要介護の認定対象外の人へのサービスである介護予防・日常生活支援総合事業が受け皿になるということを示しています。
介護予防サービスと介護予防・日常生活支援総合事業の違い
じゃあ、今まで通りサービスは利用できるのね。よかった!!
と安心するのはまだ早い。
従来の介護予防サービスと介護予防・日常生活支援総合事業には大きな違いがあります。そのうち3つのポイントを紹介します。
サービス提供は専門職以外(ボランティア)が中心に
介護予防・日常生活支援総合事業は市町村が管轄になるので、介護保険のような全国一律の同じ基準ではなく、市町村が独自にサービスメニューを設定することが可能です。
例えば、介護保険の訪問介護であれば、介護職員初任者研修(旧:ホームヘルパー2級講習)修了者もしくはそれ以上の資格を持っていないと身体介護などのサービスを提供できません。
しかし、介護予防・日常生活支援総合事業のサービスは介護の技術を身に着けたホームヘルパーではなくても提供することができます。
ボランティアで提供できるサービスなど、サービスメニューを市町村で設定することが可能です。
そして、市町村独自メニューとしてボランティア等にサービス提供を任せ、市町村は報酬を削減・財政負担を軽減することができます。
予防を視野に入れた専門的なサービスではなく、ボランティアなど地域の互助的な支援の枠組みに移行していくことが既定路線となっています。
市町村の財政事情によってはサービスの削減も
さらに、サービスの利用料金や事業所が受け取る報酬にも市町村で上限を設定することができるなど、
市町村の財政状況によっては、介護サービスの質や量などが大幅に削減されることもあり得ます。
以下のような状況が生まれることは容易に想像できます。
- 事業所は介護予防・日常生活支援総合事業のサービスの提供を見送るため、受けられるサービスがなくなる。
- サービスを提供したとしても要介護1と2と要支援の方が多く、利益が上がらない事業所の経営が不安定になり、営業を継続できなくなる。
このように、訪問介護やデイサービスといったサービスを受けることができなくなることも起こりうるのです。
利用回数の制限
また、要支援の方への介護予防・日常生活支援総合事業は、週当たりの利用回数が制限されています。
要介護1と2の方へのサービス利用に関しても同じように回数制限を設ける可能性はあります。
独自に市町村が利用回数の制限などを設けることで、質にしても、量にしても、必要なサービスが受けられなくなる状況も発生するでしょう。
つまり、要介護1と2の保険外しというのは、介護サービス利用の制限=社会保障費の削減を目的とした施策であることがわかります。
介護給付サービスから介護予防・日常生活支援総合事業に名前が変わるだけで、今までと同じサービスが受けられる、という保証はありません。
要介護1と2の保険外しというトレンドキーワードについて、「大袈裟だ」「事業の名前が変わるだけだ」と発言する方もいますが、それは誤りであるとお伝えしておきます。
まとめ
ここまで「要介護1と2の保険外し」というキーワードについて解説しました。
介護保険から切り離されるからといって、要介護1と2のサービスの重要度が低いということはありません。
むしろ、寝たきりの方に比べて、突発的なトラブルも起こりやすく、特に精神的な負担は大きいのが現実です。
要介護1と要介護2の状態が、軽度な状態とは言えないことは、現場で働く人や介護をされているご家族であればご理解いただけると思います。
次回の介護保険の制度改定・報酬改定は2024年の4月予定ですので、これから様々な情報が出てくるかと思います。
世論の反応も制度改定に大きく影響しますので、こちらでもできるだけわかりやすく情報発信しつつ、メリットやデメリットなどをお伝えしていきます。
追記:
要介護1と2の保険外しに関して、これに反対する公益社団法人 認知症の人と家族の会がオンライン署名を行っており、現在67,697名の方が署名を行っています。
介護の負担増や経済的負担など、介護を行うご家族には深刻な問題。ご家族の声が届くことを願っています。
追記:介護保険部会が見送りを正式決定
2022年12月19日の社会保障審議会介護保険部会において、「要介護1と2の保険外し」と言われる総合事業への移行が見送られることに決定しました。
総合事業への移行をあきらめたというわけではなく、今回の制度改定(2024年)では見送り、その次の改定時の実施を検討するというものでした。3年間先送りにされるだけで、結局解決はしていないのですが、まずは今回の改定には盛り込まれないことが決まりました。
タイミング的に、物価高、高騰する燃料費、政治不信による政権支持率の低下などに加え、SNSなどを通した世論の反発もあり、今回の見送りにつながったと言われています。
その他の改正事項については以下の記事をご確認ください。
2024年改定では見送られましたが、2027に向けて生活援助の介護保険除外を検討しています。軽度者のみが対象外になるか、生活援助全体が対象外になるか、またその場合の受け皿はどうなるのか。まだまだ議論は続きそうです。
この記事を執筆・編集したのは
いえケア 編集部
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