ゲスト:
音楽療法士 柳川円先生
認知症予防や認知症の進行を遅らせるために、脳に適度な刺激を与えることが有効だと言われています。認知症や認知症予防には様々なアプローチがありますが、その中でも、近年、音楽を通した認知症に対する効果が注目されています。
今回は認知症の方への音楽療法の効果について、音楽療法士として活躍される柳川円先生のコメントも含めて紹介していきます。
認知症の方へ音楽が与える影響
認知症予防・進行予防のためには、脳を活性化することが重要だと言われています。前頭葉の前頭前野を刺激・活性化することで、脳の老化を遅らせる効果があります。人と会って話をする・指先を動かす・家事を行うなど、日常の中にも脳を活性化させるためのヒントがたくさん隠れています。
日常的に私たちが触れる「音楽」にも大きな力があります。ただ音楽を聴く・歌を歌うなどの行為を通して、誰でも音楽を楽しむこともできます。音楽は人の感情に働きかける効果が大きく、脳へ与える活性化の効果も期待できます。
しかし、ただ音楽を聴く・歌う・演奏するだけでは、リハビリテーションとして十分な効果を発揮することはできません。音楽の持つ力を最大限に活用し、専門的なリハビリテーション、セラピーとして体系化・発展させたのが「音楽療法」です。
音楽療法とは
音楽療法とは、音楽の持つ力を治療の中に用いて効果を得るリハビリテーションやセラピーの手法です。音楽療法は、心身にリラックス効果をもたらすことや、乏しくなった感情表現を引き出すこと、音楽によって自発的な動きを引き出すこと、ストレスの軽減など、様々な効果を生むことができます。音楽療法を通して、認知症の周辺症状であるBPSD(幻覚、妄想、興奮、不穏、徘徊など)などが軽減することもあります。
また、音楽を通して意図的に過去の記憶を呼び起こし、脳を活性化させ、コミュニケーションにつなげる「回想法」として取り入れる場合もあります。「あの音楽を聴くと思いだす」「あの頃はこんなことをしていた」など、音楽を通してコミュニケーションも活発に行われます。記憶から生まれた会話を通して、表情や発言などが次々と引き出され、コミュニケーションが豊かになり、心身の活性化につなげることができます。
このように、音楽療法には認知症によって低下した機能をもう一度活性化して引き出し、生活の質を改善する効果があります。
音楽療法士とは
音楽療法は音楽療法士という専門のセラピストが行うリハビリテーションです。
音楽療法士の資格は、他の代表的なリハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)と異なり、国家資格ではありません。
代表的な資格として、日本音楽療法士学会「学会認定音楽療法士」と、全国音楽療法士養成協議会の「協議会認定音楽療法士」があります。
音楽療法士の資格
「学会認定音楽療法士」になるには、日本音楽療法学会が認定する音楽療法士資格試験受験認定校に入学して体系的に音楽療法を学ぶ必要があります。カリキュラムを学び、必要な単位を取得した後、音楽療法士(補)試験を受験します。試験に合格した後、面接試験にも合格して、はじめて音楽療法士の資格を取得できます。
「協議会認定音楽療法士」には「専修」「1種」「2種」という3種類の認定があります。協議会認定の養成課程を設けている大学院、大学・短期大学等に入学して所要の単位数を取得して、卒業(修了)し、協議会の認定を受けることで、音楽療法士の称号を取得できます。
それ以外にも高齢者を対象にした音楽に関する民間資格は数多くあり、一言に音楽療法士といっても経験や能力にも大きな差があります。
音楽療法士が活躍する場
音楽療法士は主に病院や高齢者・障害者・児童施設、学校等に勤務し、音楽療法を実施しています。音楽療法の対象者は乳幼児から高齢者まで幅広く、活躍の場を広げています。
リハビリテーションとして音楽の効果が証明されるとともに、音楽療法が認知され、ますます需要も高まっています。
そんな音楽療法の実際について、現在、フリーの音楽療法士として活躍されている柳川円先生にインタビューをさせていただきました。
音楽療法士の先生に聞いてみた
柳川円先生は児童福祉施設専属の音楽療法士を務めた後、フリーの音楽療法士として活動されています。これまでの経験をもとに音楽療法についてブログ・SNSを通して発信するなど、活躍している音楽療法士の先生です。
それでは柳川先生よろしくお願いします。
質問1「音楽療法とはどのようなものか教えてください」
柳川円先生
音楽療法とは、「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と日本音楽療法学会では定義されています。
音楽療法はただ歌を歌う、音楽を聴くというだけで効果のあるものではなく、音楽を介してコミュニケーションをしたり、言葉かけをすることで意味を持ちます。表面的には歌を歌ったり、音楽を楽しんでいるように見えるかもしれないですが、対象者とのコミュニケーションに音楽療法としての意味があると感じています。
音楽療法は小児・障害者・高齢者、誰でも受けることができます。 私は現在、フリーの音楽療法士として、高齢者や障害を持った方を対象に音楽療法を行っています。
質問2「音楽療法にはどんな音楽が使われていますか?」
柳川円先生
高齢者領域の現場では、個別に音楽療法を行う場合は本人の好きだった音楽や、過去の音楽体験などを踏まえながら、何が最適なアプローチかを常に考えて実施しています。季節の曲やリクエストに応じて選曲することもあります。
デイサービスや高齢者施設など、集団で音楽療法を行うときには、昔の歌謡曲だけでなく、歌いやすく皆さんが共通して知っている童謡なども取り入れることがあります。 ただ、フォーク全盛期を過ごした高齢者も増えてきて、ピアノではなくギターでアプローチをする機会が増えるなど、時代に合わせて高齢者の音楽体験も多様化してきていると感じます。音楽療法で使う音楽も日々アップデートしていくことが必要です。
質問3「音楽療法の場面ではどのように対象者に関わっていますか?」
柳川円先生
その人の状況や音楽の趣味などにあわせてアプローチの方法を変えています。また、対象者に合わせて歌の伴奏の音数を減らすなど、相手の反応を見ながら音楽の足し算・引き算のようなことをしています。指示や声かけなど、演奏以外のひとつひとつのアプローチにも意味を持ち、実施しているからこそ、周辺症状の緩和や認知症の予防といったセラピーとしての効果が生まれると私は考えています。
質問4「音楽療法をしているところを知らないのですが、近くにもありますか?音楽療法を受けられる場所を教えてください」
柳川円先生
現在、音楽療法を専門で行う施設が全国どこでもあるというわけではありません。全国で音楽療法士として活動している方は限られており、インターネットで検索して音楽療法士と検索をしても、お住まいの地域に必ず音楽療法士がいるといえない地域もあるのではないかと思います。
音楽療法は以前よりも認知されるようになりましたが、まだまだ知らない方も多いですし、先ほど挙げたように音楽療法を受けたくても住んでいる地域に音楽療法士がいなくて受けられないという状況もあるかもしれません。
今現在、私はインターネットを通じて音楽療法に関して発信をしていますが、この活動により音楽療法を受けたいと思う方、そして音楽療法士になりたいと思う方が増えていただければうれしいです。
どうもありがとうございます。
最後に、在宅介護をされている方に、一言メッセージをお願いします。
柳川円先生
音楽療法はまだまだあまり知られていない部分が多いと感じています。音楽療法の存在を表面的に知るのではなく、その奥深さも感じてもらいたいと思います。 私自身も音楽療法を実践するだけでなく、ホームページやSNSなどを通してインターネット上で音楽療法に関する情報発信をしています。音楽療法に興味をもって知ってもらえたら幸いです。
柳川先生、どうもありがとうございました。
まとめ
柳川先生の話を聞いているうちに、音楽療法が非常に奥深く、そして対象者との間のコミュニケーションをとても大切に、相互の関係性で成り立っているリハビリテーションであることを感じました。
認知症という疾患は原因疾患によって特徴も異なり、人それぞれに表出する症状も異なります。反応や効果が必ずしも目に見えない場合もあります。その中で音楽療法として効果を生むためには、音楽的な技能はもちろん、認知症に関する専門的な知識や高度なコミュニケーション能力が求められるリハビリテーションだと感じました。
音楽療法がこれからもっと身近に、もっといろんな地域で広まることを期待したいです。
今回質問に回答していただいた柳川先生の活動については先生のブログやツイッターでも告知されていますので、興味を持たれた方はぜひアクセスしてみてください。
ゲスト:
音楽療法士 柳川円先生
フリーの音楽療法士として、これまでの経験をもとに音楽療法についてブログ・SNSを通して発信するなど活躍中
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