いえケア 編集部
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いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
介護の人手不足がますます深刻さを増しています。
政府は2024年度の補正予算案で、介護職員の処遇改善を目的とした一時金として、常勤1人あたり約5.4万円を支給する方針を発表しました。この政策の背景、具体的な支給条件、そして現場にはどんな影響があるのか詳しく解説します。
特に、今回「も」支給対象外となったケアマネジャーの待遇改善や、今後の展望についても解説します。
【この記事を読んでほしい人】
- 一時金が支給されることを聞いて、自分が支給対象かどうか知りたい介護職員
- いつ頃・いくら、手当として支給されるのか気になっている介護職員
- なぜ支給対象から外されたのか不満を感じているケアマネジャー
【この記事に書いてあること】
- 介護職員の一時金支給が決定。詳細なルールは年明け以降公表。
- 一時金であることから恒久的な待遇改善・賃上げにつながらない可能性。
- 一時金の使い道は事業所の裁量が認められるため、5.4万円が必ず支給されるわけではない。
介護職員への一時金の支給決定。政策の背景
まず、介護職員への一時金の支給が決定した背景について解説します。これには現在の介護現場を取り巻く現状が大いに影響しています。
1. 他産業との給与格差の是正
介護業界は長年、他産業と比べて給与水準が低いと言われてきました。
例えば、2023年の厚生労働省の統計によると、介護職員の平均年収は約300万円であり、他産業の平均年収である約440万円に比べて明らかに低い水準にあります。また、厚労省の試算では、2040年までに約250万人の追加介護人材が必要とされており、この不足を補うための人材確保が喫緊の課題となっています。
現状、介護職員は増えるどころか離職超過にあります。つまり、介護業界に入る人よりも、業界を離れていく人のほうが多く、2040年に必要な人材の数との差はますます広がっているのです。その最大の要因は、間違いなく介護職員の待遇が改善していないことにあります。
政府はこの一時金(補助金)を通じて給与格差を縮小し、人材定着や離職防止を目指しています。
2. 物価高騰への対応
物価高騰により、介護事業者の経営は以下のような具体的な影響を受けています。
- 食材費の上昇: 総務省の消費者物価指数によれば、食料品全体の価格は右肩上がりで上昇しています。コメ類を含む食材費の上昇幅も大きく、これまでで最も高い伸びを示しています。デイサービスやグループホーム、特別養護老人ホームなどの食事提供を行うサービスでは価格上昇の影響を大いに受けています。
- ガソリン代の上昇: エネルギー価格の高騰により、ガソリン代も上昇傾向にあります。デイサービスでの利用者送迎や、訪問サービスの移動にかかるガソリン代も増えており、今後の補助金の動向によってはますます大きなコスト高となります。郵便料金なども値上がりしています。輸送コストの増加は、介護事業者の運営費用に大きな影響を及ぼしています。
- 光熱費の上昇: 電気・ガスなどの光熱費も上昇しています。利用者の体調管理のためには暖房や冷房といった空調の使用は必要不可欠で、生命の維持にも大いに影響します。
これらのコスト増加が、介護事業者の経営を圧迫しています。介護事業所の倒産件数も過去最悪のペースで推移しており、経営状況の悪化を物語っています。経営状況が悪化すれば、職員の待遇や労働環境にも大きな影響が出ます。もちろん、その影響は離職者の増加やサービスの質の低下などにも表れます。
介護職員対象の一時金支給は、これらの負担を軽減する一助となることが期待されています。
3. 生産性向上への取り組み
今回の補助金は、支給要件として、処遇改善加算の取得を条件としています。業務効率化や負担軽減に向けた課題の見える化、職員の労働環境改善、キャリアパスの構築などが必要となります。処遇改善加算の区分と連動する形で支給額が変動する仕組みになるため、上位の加算を取得すれば支給額も増加します。人材確保の難しさが増す中で、介護事業所に長期的な生産性向上を促す形となっています。
2024年に改定された処遇改善加算についてはこちらの記事にまとめています。
また、厚生労働省は、今回の補助金について処遇改善加算の申請書類と一体化する方針を示しました。詳細はまだ公表されていませんが、事務負担の軽減が期待されています。
一時金支給の対象者と支給金額
支給対象になるのは誰?
現時点で支給対象とされているのは、「処遇改善加算を取得している事業所に勤務する常勤職員」です。処遇改善加算対象外の事業所や、対象事業所であっても非常勤の職員は一時金の対象となりません。
ただし、補助金の使途は事業者の裁量に委ねられており、必ずしも常勤職員にすべて支給するわけではありません。非常勤職員への分配や、事業所の設備投資にすることも含め、広い裁量権を認めています。
そのため、一時金をもらえるかもらえないかは事業所の裁量次第となりますが、もらえる可能性の高い人とそうでない人を分類します。
もらえる可能性が高い人 | 事業所の裁量によって支給対象となる人 | もらえない人 |
処遇改善加算取得事業所に勤務する常勤介護職員 | 処遇改善加算取得事業所に勤務する非常勤介護職員(パート等) 処遇改善加算取得事業所に勤務する介護職員以外の職員 | 処遇改善加算を取得していない事業所に勤務する介護職員 処遇改善加算対象外事業所の職員 |
一時金の支給の可能性が最も高いのは処遇改善加算取得事業所に勤務する常勤介護職員です。今回の一時金の支給対象者なので、当然といえば当然です。ただ、あくまで「もらえる可能性が高い」であって、確実にもらえるわけではありません。事業所の裁量によって、一時金を設備投資に回す場合など、支給対象外とされる可能性もあります。
事業所の裁量がどこまで認められるのか、詳細はまだ明らかになっていませんが、必ずもらえるものとは限りません。また、常勤一人当たり5.4万円ということで、5.4万円もらえるかというとそうでもありません。支給された額を、非常勤職員や施設・事業所内に勤務する他職種に分配する可能性もあります。そのため、5.4万円がまるまる常勤職員に支給される事業所は少ないのかもしれません。
支給額はいくら?
補助金額は支給対象事業所内の常勤職員数に基づいて計算されます。例えば、常勤職員が10名いる場合、その人数に応じた金額が支給されるため、事業所には最大54万円支給される可能性があります。
ただし、これを事業所内で分配する可能性があります。非常勤職員も含めた職場全体で分配する場合、1人あたりの金額が減少する可能性があります。パート職員にも分配を行う場合があり、その場合は常勤職員への配分額が減少します。
特に訪問介護など、非常勤職員の割合が高い事業種別では、非常勤職員に分配すると一人当たりの支給金額はかなり小さな金額になる可能性が高いです。一人当たり5.4万円という金額に過度に期待することはできないでしょう。
一時金の支給時期は?
一時金の支給時期はまだ未定です。詳細については年明け以降に公表される予定ですが、まだ具体的なスケジュールは決まっていません。年明けにルールなどが決定し実施要項が発表され、一時金申請の受付をし、その後事業所に支給されるスケジュールとなります。
できるだけ早く支給できるようにとは言うものの、スピード感に欠けた対応に見えます。支給までの間にも、さらに物価の高騰などが進む可能性もあります。
一時金はどのように支払われる?
今回の一時金の使い道は事業所の裁量が認められます。以下のような幅広い使途に利用することが可能です。
- 一時金としての支給: 支給された一時金をそのまま職員にボーナスのような形で「手当」として分配する可能性があります。
- 給与引き上げの原資に: 処遇改善加算の計画に基づき、職員の賃金改善を目的として、直接的な給与引き上げの原資として充てることができます。ただ、金額は大きくないので、この一時金で大幅なベースアップが実現するかといえばあまり期待できない印象です。
- 職場環境の改善: 職員の負担軽減を図るための設備投資や環境改善が可能です。例えば、介護現場での業務効率化を目的とした機器導入や研修費用の補助などが挙げられます。
ボーナスや給与の原資だけでなく、現場全体の業務改善につなげる可能性もあります。具体的な使途の選定は各事業所に委ねられています。もちろん、現場では職員へ手当としての全額支給という要望が大きいと思われますが、長期的な業務改善という視点も必要であり、経営者には重い決断が求められます。
一時金支給によって起きる現場への影響
一時金が支給されること自体は喜ばしいことです。しかし、この一時金をめぐってトラブルが発生する可能性もあります。危惧しなければいけない2つのパターンを紹介します。
1. 不公平感の発生
一時金の分配方法や使途によって、事業所内での不公平感が爆発する可能性があります。
事業所によっては、常勤職員が優遇される一方で、パート職員や臨時職員には支給されないため、不公平感が生じます。介護現場では、ほぼ常勤同様の勤務時間で勤務するパート職員など、多様な働き方があるため、多くの職員からの不満が爆発する可能性があります。
事業者の裁量により、支給対象外の職員にも分配することが認められているため、パート職員や臨時職員に支給される場合もあります。ただし、報道などによる断片的な情報から「5.4万円が支給される」と期待していた常勤職員は、期待に程遠い金額しか支給されないことで、不満を感じる可能性もあります。
また、居宅介護支援(ケアマネジャー)や福祉用具貸与事業所など、そもそも支給対象外となっている事業種別もあります。不公平感が、法人内・事業所内に分断を生む可能性があります。
2. 書類作成や事務作業の負担
補助金を受け取るには、事業所が計画書や実績報告書を作成し、都道府県に提出する必要があります。この手続きが現場の負担となることが懸念されています。
一時金や補助金ではなく、介護報酬を上乗せ・プラス改定すれば、事業者に追加の負担をかけずに現場の課題を解消できるのではないかとの意見もあります。例えば、介護報酬に上乗せで1%増加することで、現場の人件費や運営コストを直接補填でき、事業者に追加の申請負担をかけることなく、現場の運営改善が可能となります。
申請などの負担をできるだけ軽減するということですが、書類作成・金額の支払いや確認など、膨大な事務手数料が発生することは間違いありません。
今後の課題。介護人材不足は解消するか?
一時金の手当では不十分?恒久的な賃金改善につながらない?
野党を中心に、一時金ではなく恒久的な賃金引き上げを求める声が上がっています。
また、訪問介護が2024年4月の報酬改定でマイナス改定となっていたこともあり、マイナス改定をしておきながら後から条件を付けて一時金を設定するという一貫性のない政策となっています。特に、訪問介護は前述したとおり非常勤職員の割合が多く、職員数に対して支給額は限られたものになります。最も支援を必要としている事業所に支援が行き届かないのではないか、と懸念されています。
訪問介護に関しては、別途経営支援や人材採用などのメニューを設定すると言われていますが、受け入れる事業所側の負担感も少なくないでしょう。
「そもそもなぜマイナス改定したのか」「なぜ余計な負担を増やしたのか」といった不満も現場から上がっています。恒久的な待遇改善・賃金引き上げのためには一時金ではなく、介護報酬の改定が大前提になるでしょう。
透明性の確保の課題
今回の一時金、補助金の配分は事業者の裁量に委ねられています。誰にどのように分配するのか、そして、それをどのように公表するのか。一時金の使い道については、透明性の確保が課題となっています。
不透明な使い道や、現場に還元されない使い道だった場合、現場と経営側の溝が深まる可能性もあります。
対象外となったケアマネ、処遇改善はどうなる?
今回の一時金では、居宅介護支援(ケアマネジャー)は対象外とされ、不満の声が上がっています。ケアマネジャーは介護保険制度のかなめと呼ばれる存在であり、その役割が介護保険制度全体の円滑な運用において重要であるにも関わらず、現行の制度では十分な処遇改善が行われていないことが問題視されています。
この状況を受けて、厚生労働省で行われている「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」では、独自の処遇改善案の必要性が議論されています。ケアマネジャーの業務負担軽減や報酬の適正化、研修の負担軽減など、ケアマネジャーの待遇改善に反映されることが期待されています。
おわりに
今回の一時金支給は、介護職員の処遇改善に向けた重要な一歩と言えます。しかし、支給条件や制度の設計には課題も残されています。
申請方法や支給時期など、詳細は今後決定されますが、現場の意見を尊重した判断が望まれます。
この記事を執筆・編集したのは
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