いえケア 編集部
在宅介護の総合プラットフォームいえケアです。
いえケア編集部では主任介護支援専門員としての地域包括支援センター相談員や居宅介護支援事業所管理者などの介護分野での経験を活かし、在宅介護に役立つ記事を作成しております。
まだ介護保険のサービスを利用するつもりはないけれど、介護保険の認定って早めに受けておいた方がいいの?という相談をよくいただきます。今回いただいた相談はこのようなものでした。
まだ自分で家事もできているけれど、離れた場所に一人暮らしの母が住んでいます。ただ、年齢的もいろいろ衰えている部分も多くて、最近は、よく膝が痛いと電話で話しています。
もし、母に何かあったときにすぐに駆け付けられる距離ではないので、とても心配です。
介護保険は申請してから認定が出るまで時間がかかるって言うし、その間の生活も心配で。いざというときに備えて、まだ比較的元気なうちから介護保険の認定を受けておいた方がいいのでしょうか。
今はサービス利用の必要はないけれど、念のために介護保険の認定を受けておくことでいざというときにすぐに対応できるようにしておきたいという相談でした。一人暮らしや高齢者夫婦のみの世帯も多くなり、このような心配をされているご家族も多いようです。
では、サービス利用しなくても介護保険の認定を受けることはできるのか。また、そのメリット・デメリットと、適切なタイミングについて説明します。
【この記事を読んでほしい人】
- 1人暮らしの家族のことを心配に感じているご家族
- 介護保険の申請をいつしたらいいか悩んでいる方
- 介護保険を受けたら何か特になることがあるか知りたい方
【この記事でお伝えしていること】
- サービスを利用しなくても介護認定を受けることはできる
- サービスを利用しない人が介護認定を受けるメリットとデメリット
- 介護保険認定申請をする最適なタイミング
サービスを利用しなくても「とりあえず介護認定だけ受ける」ことはできる
要介護認定済でもサービスを利用していない人は173万人
結論から先にお伝えすると、サービスの利用意向はないけれど、介護保険の認定だけを受けることはできます。
これは厚生労働省の介護保険・社会保障専門委員会の資料ですが、高齢者が増えるに伴って、介護保険の認定者数も増加。介護保険の認定者数は2021年3月末時点で682万人。それに対して、介護保険のサービスを利用している人は、在宅サービス399万人・施設サービス96万人。グループホームや小規模多機能などの地域密着型サービス利用者を合計し、介護保険サービス利用者は509万人となっています。
認定者が682万人に対して、サービス利用者は509万人。つまり、173万人は介護保険の認定を受けていてもサービスを利用していないことがわかります。
このサービス未利用者がどのような理由でサービスを利用していないのかを知ることはできませんが、以下の理由が考えられます。
- 認定は受けたがまだサービス利用は必要ないと考えている
- サービスは必要な状況だが、本人が拒否している
- サービスを利用したいが経済的な負担が大きく利用できない
- 長期入院中のため介護保険のサービスを利用していない
- 利用希望はあるものの、ケアマネやサービス事業所が見つからない
- 住宅改修や福祉用具購入だけが目的で認定を受けた
お守りとしての介護認定
様々な理由があると思われます。その中でも、介護保険のサービスを受けるつもりはないものの、介護保険の認定だけを受けるという方がいます。
何かあったときにすぐ利用できるように。いざというときには介護保険が利用できるという「安心」を得るために。介護保険の認定を受けています。
いわゆる「お守り」として介護保険の認定を受けるパターンです。
「介護認定だけ」受けることについて、その意味とメリット・デメリットをお伝えしていきます。
「介護認定だけ」受けるメリット
では、サービス利用意向のない人が介護認定だけを受けるメリットは何か。具体的に解説していきます。
緊急時にすぐにサービスを利用できる
ひとつ目のメリットは、介護保険の認定を受けておけば、いざというときにすぐにサービスが利用できることです。
介護保険の認定を受けるには時間がかかります。介護保険の認定申請をして、認定調査があって、主治医の意見書を書いてもらって、認定審査会が行われて、介護認定が通知される。ここまでのプロセスに、1か月半から2か月くらいかかります。遠くに離れているご家族が対応するとなると、本当に大変です。
介護はいつ必要になるかわかりません。いざというときにすぐに介護保険のサービスが利用できるようにしておくということはメリットがあります。
※ただし、サービス利用の相談、ケアマネとの契約、サービス事業所との契約、担当者会議など、サービス利用まで必要なプロセスも多いので、「すぐに」とはいっても時間がかかることは理解しておきましょう。
精神的な安心を得るため
ふたつ目は精神的に安心感を得るためです。
年々、高齢者の一人暮らし世帯は増えています。今は何の問題もなく生活ができていても、やはり一人での生活は心配で心細いという方も多いです。そんな方が「お守り替わり」に介護保険の認定を受けておくという場合があります。
先に伝えたように、いざというときのために介護保険の認定を受けておけばすぐに使えるという安心感につながります。
身寄りのない方も多いので、そういった方にとっては、介護保険の認定を受けていて、地域包括支援センターや役所ともつながっているということがひとつの安心材料となります。
一時金や補助金など金銭的なメリット
民間の介護保険などに加入されている方には、介護保険の認定を受けると保険の一時金などが受けられるというメリットもあります。これは保険会社各社の契約内容にもよりますが、例えば、「要介護3以上」の認定を受けた場合は一時金が支給される、というものもあります。
その他、介護保険の認定が条件になっている市町村のサービスなどもあります。これは市町村によって異なりますが、サービスを利用していなくても、介護保険の認定を受けることで以下のような金銭的なメリットを得ることができます。
市町村による紙おむつ給付:
一定以上の認定を受けている方を対象に支給(所得制限ある場合も)
住宅改修や特定福祉用具の購入:
継続的なサービスが必要ない場合でも利用できる。上限額(住宅改修:20万円、特定福祉用具購入:年間10万円)あり
家族介護慰労金:
市町村によっては介護保険を利用しないで家族で介護を行う場合に支給される慰労金がある。
上下水道の利用料金減免:
市町村によって水道料金の減免が受けられる場合も
一例として紹介しました。どのような補助金や助成金、サービスが受けられるかは地域によっても異なります。
詳しくは認定を受ける際に地域包括支援センターや市町村の担当者に確認するか、市町村で発行しているガイドや認定後の通知に同封される案内などに掲載されていますので、調べてみましょう。ただ、これらのサービス・助成金などは介護度に一定の要件がある場合が多く、比較的元気に一人暮らしで生活できている方が受けることは難しいです。
サービスを利用する意向がなくても介護認定を受けるメリットを紹介しました。
いずれにしても、介護保険の認定を受けるために自己負担は必要ありません。では、デメリットにはどのようなものがあるのかを紹介します。
「介護認定だけ」受けるデメリット
いざ必要な時に必要なサービスを利用できない
一番のデメリットはこれ、必要な時に必要なサービスを利用できない可能性があることです。
いざ、介護保険のサービスの利用が必要になったとしても、認定が要支援1だったら利用できるサービスも要支援1を対象としたサービスに限定されます。毎日ヘルパーさんに来てもらいたい、と思っても要支援1では週に2回が限度。デイサービスであれば週1回が限度。これで介護認定が要支援1の方の負担限度額の上限は使い切ってしまいます。
つまり、いざというときのために持っていた介護保険の認定も、要介護度が低すぎるために使い物にならないという場合があります。
このような場合は介護保険の見直し、区分変更申請をしなければいけないので、また申請をし、認定調査を受けるというプロセスを一からやり直すのです。結果的に「二度手間になっただけ」という声もよく聞きます。
介護保険の認定は介護保険認定を申請した日にさかのぼって有効になります。もし、必要であれば介護保険の認定結果が出る前から暫定でサービスを利用することもできます。なので、比較的元気なうちは認定は受けず、サービスが必要になったらすぐに申請をし、暫定でサービスを利用するという方が効率的です。(※暫定でサービスを利用する場合は限度額を超えてしまう可能性もあるため注意が必要)
ただ、必要なタイミングを逃さないために、普段から家族の状況を気にかけることや、いざとなったときに家族の誰が動くかなどの話し合いをするなどの準備は必要です。
認定申請・認定更新にかかる手間
介護保険の認定申請には手間がかかります。
申請の書類を作成し、介護保険被保険者証を用意し、主治医に相談をして介護保険のための意見書を書いてもらい、認定調査を受けるなど、本当に多くの時間と手間がかかります。お守り替わりの認定を受けるのだとしたら、かなり大変な労力です。
自己負担は発生しませんが、認定調査や意見書作成する医師への報酬、認定審査会を開催することによる専門家への報酬、事務手続きなど、市町村に費用負担が発生することもまた事実なので、念のため頭の片隅には入れておきましょう。
また、認定を一度受けたら生涯有効になるわけではありません。初回認定を受ける場合であれば有効期間は原則6ヵ月、最長で1年の認定期間となります。つまり、認定期間を満了する前に更新の申請をしなければ、有効期間満了後はまた未認定になってしまうのです。更新を忘れてしまうことも多いので、認定期間を把握し、適切なタイミングで手続きをしなければいけません。更新の手続きは誰がいつするのかも話し合っておくといいでしょう。
認定の有効期間や認定期限切れ対策については以下の記事にまとめていますのでご参照ください。
自立・非該当に認定されるリスク
介護保険の認定を受けようとしても、「自立・非該当」と認定されるリスクもあります。
比較的元気で介護の手間が発生していないという状況であれば、介護度も低く判定されます。介護保険の一次判定は「介護の手間」を時間軸に置き換えて、どのくらいの介護が必要かを判定しています。そのため、一人暮らしで生活できているのであれば、病気や身体的な症状に関わらず認定は低く出る傾向があります。
介護保険の認定では要介護1~5と要支援1・2がありますが、それ以外に「非該当」という結果が出る場合もあります。一般的に「自立」という認定です。
要支援1や要支援2ではなく、非該当と判定された場合は介護保険のサービスは利用できません(総合事業のサービスは必要な手続きを経て利用することは可能)。認定申請にかかった手間や労力が無駄になってしまう場合もあるのです。非該当(自立)と判定される理由についてはこちらの記事でまとめています。
このようなリスクも踏まえて、申請するべきかどうかを判断しましょう。
ケアマネが担当についてくれるわけではない
勘違いされている方も多いのですが、認定を受けたらケアマネジャーが担当についてくれるというわけではありません。継続的に介護保険のサービスを利用する場合に契約が必要となり、ケアマネジャーが担当になります。サービスを利用しない場合はケアマネジャーは担当につきません。
ケアマネジャーが担当につくまでは地域包括支援センターがフォローすることになりますが、業務も多忙なので、頻繁な連絡や相談などを受けられる状況とは限りません。
以上、サービス利用意向のない方が介護保険の認定を受けるメリットとデメリットを紹介しました。メリットとデメリットを表にまとめました。
メリット | ・緊急時にすぐにサービスを利用できる ・精神的な安心を得るため ・一時金や補助金など金銭的なメリット |
デメリット | ・いざ必要な時に必要なサービスを利用できない ・認定申請・認定更新にかかる手間 ・自立・非該当に認定されるリスク ・ケアマネがついてくれるわけではない |
では、介護保険の認定申請はいつがいいのか。認定申請のタイミングについて、次の章で解説します。
認定申請を受ける適切なタイミング
介護保険の認定を受けるのに適切なタイミングを紹介します。
サービスが必要になったら早めに申請する
サービスが必要な状況になったらできるだけ早めに申請しましょう。必要・不必要の判断基準は難しいですが、生活に支障があり、本人が必要を感じているなら早めにサービスを利用しましょう。生活が成り立たなくなってから利用し始めるのでは遅いので、生活上の負担感や、困難さなどを踏まえて検討しましょう。
大事なのは必要なタイミングを早めに察知できるようにしておくことです。
住宅改修や特定福祉用具購入のタイミングに
転倒などの事故を避けるために、住宅改修は早めに検討しましょう。転倒による骨折などの事故が起きる前に、早目に住宅改修をすることをお勧めします。継続的なサービスを受ける予定がない、という方はまずは住宅改修の必要性があるかどうかを考えましょう。
生活に支障のある段差はあるか、手すりが必要な場所はあるか、自宅の環境を一度確認し、本人と相談しましょう。
住宅改修だけでなく、入浴用のシャワーベンチや浴槽台などを購入できる特定福祉用具購入も同様に介護保険認定を受ければ利用できます。
介護保険といえばヘルパーやデイサービス、介護施設などを真っ先に連想しますが、このように単発で利用できるサービスもあり、介護保険の入口として住宅改修を利用される方は大変多いです。
まとめ
サービスを利用しないけれど介護保険の認定を受けるメリットとデメリットを解説しました。メリットもありますし、デメリットもあります。どちらがいいのか、家族内でもよく検討しましょう。
逆に認定を受けたくないと拒否される方もいますので、そちらは下記の記事をご参照ください。
一番大事なことは、家族で連絡を普段から取り合って、何か異変があったときや困りごとがあったときには気軽に相談できる関係を作っておくことです。認知症に関しても、普段からまめに連絡をとっていないと気が付かないことも多いので、こまめに連絡を取っておきましょう。それが本人にとっても一番の安心材料につながるはずです。
この記事を執筆・編集したのは
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